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37話 シルヴァリオの行方を追え

 ドクター・ベウムのが宝瓶宮(アクエリアス)のメリサストローアとともに去ってゆくのを見送ったあと。 

 ともかくも子供になったミゲルさん(くん?)を見つけて、指揮所のキャンプへと戻った。

 幸運なことに、桜庭さんはその場ですぐに見つけたので、報告にあがる。


 「おお、戻ったか。難しい任務をよく成功させてくれた。ところで隊長のミゲル氏は? それにその子供は?」


 「その……この子がミゲルさんです。子供になってしまいまして」


 「…………その子をアメリカ政府に返さなければならんのか? 軍事経験豊富なエージェントだったはずだが」


 「将来性はバツグンですよ。アメリカの将来を担う有望な子供だと言っておいてください」


 ともかくミゲルくんを庶務の女性隊員に預けて本題。


 「ヘルマスク戦の話はあとで報告しますが、事態が大きく動きました。少し衝撃的な話になりますので、会話が万一にも漏れない場所での報告を希望します」


 「ふむ? いいだろう。では後始末は予備部隊にまかせ、我々は士官会議用に借り受けているホテルへ帰還しよう」


 というわけでホテルに帰還したボクたちは、桜庭さんの部屋でヘルマスク戦の報告をした。

 そしてドクター・ベウム出現、間もなく顕現するであろう磨羯宮(カプリコーン)の星宮獣がすさまじく危険であることも。


 「――というわけです」


 「ううむ、ドクター・ベウムとの接触か。まさか過去にもどすことが目的とはな。いや、それより問題は磨羯宮(カプリコーン)か」


 「ええ。急いで手を打たないと」


 「とにかく首相に報告をあげて、日米協力の対策本部設置を願い出よう。相手はアメリカ最大のロックスター。向こうの権力がないと何もできんからな」


 「シルヴァリオから星宮石を取り上げるのが、一番穏健な解決手段です。ドクター・ベウムの思惑からは外れますが、被害規模を考えればかまっていられません」


 そうだよね。なにもドクター・ベウムの計画通りに律儀に動くことはないんだよ。

 星宮獣のマスターがわかっているなら、簡単に解決する方法があるんだから。


 「うむ。それに暗殺チームも用意してもらう。さすがにアメリカ国民を、こちらの人間に任せるわけにはいかないからな」


 「暗殺チーム!? まさかシルヴァリオを!?」


 「話を聞けば、万一にも顕現させるわけいんはいかんだろう。出現する兆候があらわれたのなら、仕事をしてもらう。いかに無実の一般人の命とはいえ、被害規模推定不可能なほどの怪物の出現と引き換えに考慮するわけにはいかん」


 「…………大人しく渡してくれれば良いですね」


 「そうだな。さっそく私は官房長官にコンタクトをとる。君らは情報捜査室に行き、シルヴァリオの現在位置とスケジュールを調べてもらってくれ」


 「了解です」


 というわけで、ボクトレイラさんはホテルの情報捜査室に使われている部屋に行く。

 そこはいくつものPC機器が並べられ、スタッフがひっきりなしに何らかの情報を調べたり整理したりしていた。

 その中でサクラモリからのスタッフ、情報主任の秋ヶ瀬さんの姿を見つけたので、彼に頼むことにした。


 「はぁ? ロックスターのスケジュールを調べろだぁ? おいおい、ここにある情報機器とスタッフは対テロ用だぜ。追っかけなら自前のPC使ってくれよ」


 「追っかけじゃありませんよ、お義父さん。これはちゃんとした捜査案件です」


 「そうですよ、お義父さん。別に親子の甘えなんかで言ってるんじゃないんです。ほら、桜庭さんの委任状も持ってきてます」


 ちなみにこの秋ヶ瀬さん、ボクとレイラさんの名目上の義理の父なのだ。

 身元不明の女の子の家族役にうってつけなのか、この役割を押し付けられている。


 「ああ、お義父さんはやめてくれ。職場で恥かしい。ったく、とんでもない娘を押し付けられたもんだぜ」


 秋ヶ瀬さんはブツブツ言いながら、桜庭さんんが書いた一筆を確認する。


 「確かにちゃんと桜庭一佐の委任状だな。しかたねぇ。ちゃちゃっと調べてやるよ。ロックスターのデータ集めなんざお手のものだ」


 と、秋ヶ瀬さんは自分の手前のPCを「タタタ」と叩いて、シルヴァリオのデータを片っ端から表示させてゆく……のだが。とにかくデータが無限に出てくる出てくる。コンサート記録やらツアー実績やらスキャンダル情報やら。


 「………多いわね。いらない情報多すぎじゃない?」


 「今季最大のロックスターのデータを、絞らないで出したらこうなりますよ。しかたない、この分野での専門家たるボクが取捨選択してあげます」


 画面からつらつら流れるデータに集中して、その情報を一瞬で脳内で判別。


 「プロフィールなんていらないです。そんなのとっくにロック年鑑で見てますから。楽曲コードも完コピ済だし。新曲情報なんかも……これはちょっと欲しいか。おとしといてください。個人的にいただきます。ああっ! このギターテクショット、カッケェェェェ! 指づかいがゼクシー! ボクの肉体(ボディ)が女だからよけい刺さる! これもデータ保存お願いします!」


 「アメリアうるさい! 追っかけそのものじゃない。私たちが知りたいのは、こんなのじゃなくて! 彼の現在位置と直近のスケジュール。それに限定してデータを出してください」


 「たしかに仕事に使うなら、そのあたりか。ええっと、ロック王子さまの今やっている仕事は……これか。ニューヨークでデカいロックフェスが開催されている。『ウッドストック・ロックフェス』とか。そこのパーフォーマーだと」


 「ウッドストック・ロックフェス!?」


 1969年に観客数40万人という、その名の伝説的なロックフェスが行われたことがあった。

 今回のはその復活を目指したフェスだそうだ。場所もまったく同じニューヨーク州サリバン群ベセル。観客数は世界中から十五万人を超えて集まっているらしい。

 なんてこった。そんなスゴいイベントがあっただなんて。

 一生の不覚の情弱だ。


 「さすがウッドストック・フェスの復活ね。観客数もだけど、熱気がすごいわ」


 「そうですね……」


 映像で見るロック・フェスの映像は、観客の熱狂と演奏に懸けるパーフォーマーの情熱が溢れんばかりだった。ロック・アーティストなら一度は夢見るほどのステージ。


 「これに割ってはいるのは無理ね。星宮石を譲ってもらうのは、この後が良いタイミングかしら」


 「いえ……」


 磨羯宮カプリコーン回を思い出す。

 マスターのアイドル少女がシュラハサを顕現させてしまうのは、最大ステージライブの真っ最中。少女の最後の欲をかなえ喰らい尽くしたシュラハサは、ついに顕現。

 そのステージにいる人間の精神エネルギーを喰らおうとするところで、主人公ソルリーブラと対決となるのであった――


 「おそらくシュラハサが出現するのはシルヴァリオの最後の願いが叶うとき。それはウッドストック・フェスのステージに立つとき以外ありえません。シルヴァリオが出る前に石を奪わないと、おそらくは顕現します」


 「なんですって!? もうロックフェスははじまっているのよ! とても間に合わないわ!」


 「……方法はあります。アメリカ政府にフェスを中止にしてもらうんです。そしてそのままシルヴァリオに石を提出させます」


 「そうね、良い考えだわ。すぐに桜庭教官に手を打ってもらいましょう」


 ああ、権力の手先になってロックの魂を踏みにじるようなマネを。

 非情になると決めたのに、悲しいな。

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