35話 星宮の天使たちの神話
「そうだ。私がブラック・ゾディアック首領ドクター・ベウム。その様子では君は記憶逆行の影響を受けていないようだね」
少年は、やっぱり首領だった!
あの若い姿はメリサストローアの能力で若返ったものなんだ。
さて、敵の首領を前にどうしよう?
捕まえられれば一番良いけど、残念ながらそんなことが出来る手札はない。
バッシュノードに殺させるべきか?
たしかにそれで、ブラック・ゾディアックは終わるかもしれない。
でも統率を失った組織が暴走するかもしれないし。
それにそれを実行すれば、ドクター・ベウムも頭上のメリサストローアを動かしてボクを赤ちゃんにしするだろうしなぁ。
迷って、目の前の彼を睨みつけていると、ボクの膝にのせている彼女の頭が動きはじめた。
「う……アメリア? 私、どうしたのかしら。たしかこれから原発施設の突入作戦のはずだったけど……もう原発に入っている?」
どうやら時間逆行は数時間前といったところかな。
レイラさんは起きて立ち上がると周りをキョロキョロ見回し、彼を不思議そうに見た。
「作戦はどうなったの? ミゲルさんも見えないし、それに彼は?」
「ええっと、とりあえず作戦は終了です。ヘルマスクは倒しました。それからミゲルさんは……」
そういや、どうなったんだ。見張っていたはずの不審者は、目の前で自由に歩き回っているし。
「どうしたんです? あなたを見張っていたはずですが」
「子供になってもらった。なかなか隙のない老人でね。そうしなければ臨界爆発前に間に合わなかった。この先で途方にくれているから保護してやるといい」
ミゲルさん、マジごめん。やり直しの人生、今度こそ良いものにしてください。
「どういうこと? 作戦前にヘルマスクをもう倒したって。それに彼は何を言っているの?」
「ええっとですね。上を見てください。レイラさんはあれの時間逆行能力の影響を受けていて、今は作戦開始から三時間ほどたっているんです」
レイラさんは上空のメリサストローアを見て目を見開き、そして「ハッ」としたように目の前の少年を睨みつけた。
「宝瓶宮のメリサストローア……ということは、あなたパパなの?」
「そうだレイラ。この姿はメリサストローアの能力で若返ったものだ。適当な変装などをするより、若造になった方が警戒は緩くなるからね」
なるほど。たしかに少年だったことで、軍人経験豊富なミゲルさんも油断したフシがある。これからは子供でも不審者には注意しよう。
レイラさんは途端に殺気をはらんで構え、目の前の彼に飛び掛かろうと腰にタメをつくった。
「レイラさん、いけない! アイツはボクたちをいつでも赤ん坊に出来るんです!」
その言葉にレイラさんは動きを止め、悔しそうに空のメリサストローアを見上げる。
「そうだ。動かないでくれレイラ。私も娘を二人も子供に戻したくはないからね」
――!?
「………どういうこと? まさか、お姉ちゃんを?」
「そう、子供にした。私がゾディファナーザと契約することにひどく反対したのでね」
グルン
レイラさんはボクに振り向き睨みつけた。
「いやいや恐い顔をしても、それはボクじゃありませんから。中身は巻き込まれた一般人です。説明したでしょう?」
手をふってアピールすると、ドクター・ベウムの方が反応した。
「フム? どういうことかな。詳しく説明してくれないかね」
テメーに説明する口はねぇ!
「お断りです。メルトダウンからは助けてくれましたが、一応あなたは敵側の人間。しかも首領ですから」
とはいえ、正直彼に対しては気が引けている。
もし彼がいなかったら、ここら一帯大惨事。ボクもレイラさんもみんな死んでいたのだから。
でもブラック・ゾディアックなんてテロ組織を作った奴に隙を見せるわけにはいかない。
「それで? ブラゾの首領ともあろう者が、どうしてここに?」
落ち着きを取り戻したレイラさん。情報収集に方針を転換したようだ。
「直接の理由は、ヘルマスクがバッシュノードを倒すために核の臨界爆発を起こす気だと聞いたためだ。あれは星宮獣の命を消滅させる可能性がある。ミランダからそのことを聞き、急遽万一のために私が来たのだ。そこの彼女がしくじらなければ、正体を明かす必要もなかったのだがね」
「ううっ」
「つまりヘルマスクとはすでに戦い決着済み。その過程で原子炉爆発が起きそうになり、パパは時間を戻して、それを無かったことにしたわけね」
「そうだ」
「だけどヘルマスクの邪魔をしただけなのは、どういうつもり? その後の私たちに勝つ計算は? まるで、ただヘルマスクに死んでもらうだけの作戦じゃないの」
「そうだ。ヘルマスクだけではない。星宮石は危険なテロリストや破壊欲求者に渡し、その力で存分に暴れてもらう。その後の始末として星宮獣を破壊する。それがゾディファナーザとの契約であり、私の目的でもある」
「それは………」
思い出した。アニメ最終話直前に語られた、ドクター・ベウムとゾディファナーザが交わした契約の内容。その目的。
「それはどういうことなの、パパ! いったいゾディファナーザとの契約ってなんなの!?」
「九柱の破壊天使の破壊遊戯……ですね」
ボクが答えた。レイラさんの詰問に応えるように。
「…………そうだ。知っているのか」
「ええ、その神話のことは」
それは、ここではない、どこか異世界の神話。
神が天地創造をする際、世界は多くの星間魔獣の脅威にさらされ続けていた。
それを駆逐するために生み出されたのが破壊天使。獣に堕ちる前の星宮獣だ。
破壊天使たちはやがて星間魔獣の駆逐に成功し、天地創造は無事に成された。
だけど残った問題は、その破壊天使たちだった。
星間魔獣が滅びたその後も、その破壊欲、殺戮欲は衰えず、その存在は天地創造で創った世界をも滅ぼしかねないものであった。
ゆえに神は天使たちを獣に堕とし、星宮石に封じ込めた。
マスターがいなければ顕現できず、マスターには服従すべき存在。星宮獣へと変えたのだ。
だが封印されたままでは、星宮獣の破壊欲、殺戮欲は世界に漏れ出し、世界はそれに触発されて終わりのない大規模戦争をはじめるであろう。すなわち最終戦争。
それを防ぐのが星宮の巫女ゾディファナーザに与えられた使命。
すなわち定期的に危険な人物をマスターにして星宮獣を顕現させ、欲望のまま暴れさせることだ。
「長い説明をありがとう。おかげで私の口が疲れないですんだよ」
糞。まんまと説明役を押し付けられてしまった。
けっこうな事情通だと知られてしまったし。
「でも九柱? 十二柱じゃないの?」
と、レイラさんが聞いてくる。ああ、その説明もあったな。
「三柱は安全装置です。すなわち正義の天秤宮、慈愛の処女宮、再生の宝瓶宮。それらは元破壊天使たちのやりすぎを防ぐために、秩序天使があえて星宮獣になったものなんです」
「じゃ、じゃあ、私が星宮石を持って逃げ出したのは!?」
「そうだ。あえて私が逃げるよう仕向けた。天秤宮と処女宮で星宮獣を始末してもらうためにな。だが、計算違いが生じた」
天秤宮’のプラーナキアの半壊と、レイラさんが処女でなくなったため、処女宮のベーネダリアが顕現出来なくなったことだ。




