34話 メルトダウンの輝きにつつまれて
むき出しになった原子炉の内部では高熱反応の光がもれている。
ほどなくして高熱は臨界を迎え大爆発となるだろう。
「ああああっ! ボクの油断でとんでもないことにィ!」
「ハーッハッハ、絶望しろ、後悔しろ。我がこの先成さねばならぬ使命を奪った貴様には、その姿こそふさわしい。戦いのさなか敵を殺す以外の想いにとらわれた者は皆そうなるのだ」
カニ鍋か? 戦いのさなかカニ鍋にとらわれたから、こうなったのか!?
「くそっ、もうイチかバチか逃げるしかない!」
レイラさんとミゲルさんと謎の少年をバッシュノードの背中に乗せて、出来る限り遠くへ飛ぶ。
それが正解なのか分からないけれど、今のボクにはそれしか出来ない!
「ククク、フハハ、逃げるだと? たしかに貴様にはそれしかないであろうな。だがしかし! 冷酷に無慈悲に、その希望を潰す。カニ光線第二射!」
「なにィ!?」
カァァッ
ふたたびディスマグヌスの頭部から閃光が輝き、一丈光のようなカニ光線が発射された。
それは原子炉内部に直撃。
原子炉は白い煙をもうもうと吹き出し、その内部の光はまばゆいほどに輝きを増した。
メルトダウンが加速した!
もう今すぐ、臨界爆発が起こる!!
「ぎゃああああああッ!! なんということを」
「フフフフ、良い悲鳴を上げるではないか。我ながら悪趣味だが、少女の叫びはじつに心地よい。冥界へ向かうファンファーレとしては最高だ」
原子炉の光はどこまでも強く美しく輝きを増してゆく。
もはや何をしても間に合わない。
ただ、このメルトダウンの輝きにつつまれて身をゆだねるしかない。
何も見えないほどの輝きは、、すべてを飲み込むように――
ポッ
ふいに水滴が顔にかかった。
すぐにあたり一面、軽いシャワーのようなそれが降り注いだ。
「…………雨? こんな時に。こんなに晴れ渡っているのに……」
と一瞬雨に気をとられたけど、やがて奇妙なことに気がついた。
さっきまで眩いくらい輝いていた光が消えたのだ。
眩しくて見えなくなっていた原子炉も、今ははっきり姿が見える。
「メルトダウンがおさまった? そんなバカな…………って、えええっ!?」
メルトダウンの停止など問題にならないくらいに奇妙なことが起き始めた。
破壊され溶けた原子炉がみるみる修復されてゆくのだ。
まるで時を戻してゆくかのように。
内壁からじょじょに復元されてゆき、それが完全に元通りになると次に外壁が復元。
やがて原子炉は完全に元の姿を取り戻すのであろう。
「ハッ! そうだ、この能力を使う星宮獣はいる!」
晴れ渡る天気の中ふり続ける雨の先、空を見上げる。
やはり想像した通りのものが、そこにいた。
巨大な瓶を抱えた女性が浮いており、雨はその瓶口から降り注いでいるのだ。
「宝瓶宮のメリサストローア……時間逆行の星宮獣」
だけどこの星宮獣のマスターはアイツのはず。
ブラック・ゾディアック首領ドクター・ベウム!
いるのか? ここにドクター・ベウムが。
――「うわあああっ!? なんだ、なぜディスマグヌスが破壊されている? それに、ここはどこだ!」
ハッとして声のした方を見ると、ヘルマスクがなにやら騒いでいる。
そうか。時間を逆行すると、その場にいた人物の記憶も当時のものに戻される。
ただし星宮獣だけは時間逆行の影響を受けない。
そういうルールだったな。
「説明なんかして、もう一度同じことをされちゃたまらないね。なにも分からず死んでくれ」
グチャッ
心の痛みを押し殺してバッシュノードにヘルマスクを踏み潰させた。
「これでヘルマスクの件は片付いた。しかし、いったいどういうことだ?」
この現象は明らかにボクたちに味方している。
ドクター・ベウムはブラック・ゾディアック首領。ヘルマスクの上司のはずなのに?
空を見上げる。
水瓶の女神メリサストローアは、すでに雨を降らすのを止めてはいるが、変わらず空に浮いている。
原子炉はというとすでに復元を終え、以前と変わらぬ光景で佇んでいる。
それにしても、ボクだけは記憶の逆行を受けないな。
これはゾディファナーザの能力なのか、それともボク本来の体でない影響か。
「………ともかくレイラさんミゲルさんと合流しよう」
時間を戻されたのは、ほんの数時間。
おそらくメルトダウンと、それに続く臨界爆発を止めるためにその能力を使ったんだろう。
多分レイラさんもミゲルさんも、時間逆行の影響を受けている。
どうして自分がここに居るのか、なにをしていたのか分からなくて、途方にくれていることだろう。
ここにドクター・ベウムが来ていることを伝えて、警戒態勢をとらないと危険だ。
おっと、そう言えば謎の少年の件もあったな。
彼のことも忘れているだろうから、ボクから説明をして――
――ハッ!?
「………そうか、なにかしら事情通な少年。その正体は謎だったけど、そういう事なら深く星宮獣のことを知っていても不思議じゃなかったな」
そう言えば彼の金髪もレイラさんと同じものだった。
北欧系純血種特有のその他の特徴もレイラさんとまったく同じもの。
「なんてこった。警戒なんか呼びかけても無駄すぎるほど手遅れだ。もうとっくに、ドクター・ベウムはボクらの近くに居たんだから」
ともかくレイラさんを探すと、近くに倒れて眠っていた。
彼女の意識が途切れたので、ベーネダリアは消えている。
彼女の救助をすべく地面に降りて側に寄った時だ。
原発の施設の向こう、彼方から人影が現れた。
それはミゲルさんと謎の少年が待っているはずの方向から。
スタスタとまるでどこか近場のコンビニでも向かうような軽い足取りで、彼は歩いてくる。
やがてボクと数メートルほどの距離にまできて、立ち止まる。
「ドクター・ベウムですね」
ニヤリ
少年は年齢に似合わぬ老獪な笑みを浮かべてボクに応えた。
ついにブラック・ゾディアック首領ドクター・ベウムと相対す!
この邂逅はアメリアたちに何をもたらす?




