30話 巨蟹宮のヘルマスク【ミランダ視点】
前回のサブタイ変えました。今回のとヘルマスクの名前が被ってしまいましたので。
――三日前
東北地方三陸海岸某所
「ホントにここかぁ? キレイな海と空気ばかりで、なんにも無いやないか。いったいここで、どんなテロやろうっちゅうんや。あのクレイジー革命家」
ウチはミランダ・ハリハーベル。
ウチらのボスのドクター・ベウムはんの依頼で、こんな日本のド田舎に来させられたわ。
なんでも中国出身メンバーのヘルマスクの作戦に協力しろとのこと。
ただ、そのヘルマスクというのがおそろしくヤバイ奴。この時代に共産革命起こそうっちゅうんやから狂っている。
ま、ドクター・ベウムはんの頼みやし。ちょいと世界を引っ掻き回すのもオモロイしな。テキトー手伝って、危うくなったらドロンや。
指定場所に行くと奴の連絡員が待っていて、そいつの案内でアジトに案内された。
田舎の家屋を改装した場所で、目つきの悪い野良作業着のメンバーが数人見張りに立っている。
「ようこそミランダ・ハリハーベル。同志ヘルマスクがお待ちです。どうか我々の活動の一助となっていただきたい」
「言われんでも仕事はキッチリやる主義や。たとえどんなクズ仕事でもな」
「貴様……我らの大義ある闘争をクズ仕事呼ばわりか?」
いかん、本音がもれてもうた。
こういった輩は冗談も軽口も通用せんから気ィつけな。
「ウチの主義の話やで。もちろん兄さんらの仕事は、資本家に搾取される人民を開放するための偉業と承知しとる」
「フッ客人に失礼をした。同志ヘルマスクの盟友が、我らの大義もわからぬ愚昧であるはずがなかろうに」
いつからウチが革命家なんてゴミの盟友になったんや。
ウチが解放するのは、資本家が持っている金だけやで。
「よう、久しぶりやなヘルマスク。天蠍宮のミランダや。アンタの手伝いに寄越されたで」
通された一室には不気味なバケモンの仮面を被った体格の良い兄ちゃんが偉そうに座っている。奴こそがヘルマスク。素顔は誰も知らんというウワサや。
「ミランダか。こういった場合メフィストが来るはずだが。ヤツはどうした?」
「なんでも、ひどいケガを負って戦えなくなったらしいで。その代わりにウチが奴の代役に任命されたんや。ちょうど故郷に帰れんしな。ケガしない程度には手伝ってやるさかいに」
「クズだな。たかが己の命を惜しみ、停滞し腐りゆく世界を何もせず眺める。我のもっとも唾棄するクズだ」
「命大事に生きることをクズ呼ばわりかい。アンタとは主義合わへんな。ま、革命運動で投獄された恨みで故郷を水で壊滅させるような奴やからな。マトモやない」
「恨み? なにをカン違いしている。恨みなどで我は行動せん。我は愛国者。あれはわが中国が世界を導く主導国となるための必要な痛みだ」
「は、はぁ? 愛国者が故郷を水に沈めるんか? 悪党のウチから見ても、アレはやりすぎと思うで」
「そうだ。我は哀しい。わが愛する祖国をあのような目にあわせねばならんとは! だが祖国はあまりに資本主義の毒に侵されてしまっていた。世にはびこる拝金主義を洗い流し、今一度、建国の志を思い出させるためには必要な処置であったのだ。あえて祖国を撃った。愛ゆえに!」
世界で一番愛されたくない男やなぁ。
愛ゆえに誰もかれもデッドエンド直行やろな。
「ま、仕事はちゃんとやるさかい、教えてくれや。どうしてアメリカ狙うとるアンタが、こんな日本の片田舎なんかに居るんや」
「フッ。いまアメリカを討つにしても、邪魔がはいるであろう。あのアブロディ・ティーチとデスバランを葬ったヤツラがな」
「せやな。海でアブロがやられるくらいや。アレとは戦わんほうがええで」
「それが停滞だというのだ。命を惜しみ最大の敵から逃げては革命の偉業は成せん。ヤツラを葬ってこそ、その先の未来があるのだ。アメリカ崩壊という輝かしい未来がな!」
うーん。あそこが崩壊したら儲ける場所が減って、ウチとしては好ましくないんやけどな。ま、クレイジー革命家の妄想をまともに考えてもしゃーないな。
「つまりバッシュノードを倒すために日本の片田舎なんぞに来た言うんかい。でもなぁ。巨蟹宮の星宮獣はたしかに強いけど。やっぱバッシュノードと比べると格下は否めんで。ええ勝負するかもやけど勝つことはでけん」
「フッフッフッ、戦いはスペックのみで決まるものではない。天の時、地の利、人の知。それらがあれば強大な敵をも打ち破ることが出来るのだ。見せてやろう、我の勝算をな」
ヘルマスクは立ち上がると、アジトを出て、さっさと歩きだした。
なんや、勝手に話を進めるやっちゃなぁ。
しゃあない。見せてもらおうかい、アンタの勝算とやらを。
田舎道を小一時間ほど歩いてゆくと、寂れた田舎道の向こうにやけに立派な工業施設が見えてきた。
遠目からでもわかる、広大な敷地におそろしく金のかかった建築技術で建てられていて、厳重な管理がなされている施設や。
「なんや、デカくて立派な工場やな。こんなステキ設備で何作っているんやろ。にしても、こんな田舎やのうて、もう少し人の集まる場所に建ててもええと思うけどな」
「僻地でなければならんのだ。作っているものは電気。すなわちここは原子力発電所だ」
「…………なんやて?」
冷や汗が出た。
正気か?
「お、おいアンタ! コレを使うって……脅しで止めるやろ? まさか最後までイクなんてことは……なぁ?」
「ククク……原発はいい。冷却装置を破壊するだけでたちまちメルトダウンを起こす。炉心は融解し隔壁は熱に耐えきれず放射能が漏れ出し、無限に上昇し続ける熱を止めるすべはなく……やがて核の炎は臨界を迎える! たやすく日帝のブタどもの地を地獄へと変えることが出来るのだ。ウワァーハハハハッ」
「帰らせてもらうで!」
正気やない。承知のつもりやったけど、分かってなかったわ。
こんな所にバッシュノードを呼び寄せたら、確実に爆発させる。
ここら一帯跡形もなく吹き飛んで、放射能まみれの死の大地に早変わりや!
「まぁ待て、ミランダよ。貴様ごときに我が闘争に参加しろと言っているわけではない。だが忠勇なるわが同志諸君も、いかんせん闘争にのぞむには数が少ない。そこで同志の皆を一騎当千の戦士にしてもらいたい。貴様のその能力でな」
「…………わかった。その仕事済ませたら帰ってええんやな? なら、ちゃっちゃと始めるわ」
ウチの星宮獣天蠍宮のギルスレインの毒は人を獣化させる。ただそのまま使うと、理性なく暴れるだけのケダモノになってまう。
なので戦力にするには、希釈したり対象人物の抵抗を強めたりの処置が必要や。
二日後には全員に処置を施して獣人にした。
「言われた通り、アンタの部下を全員獣人化したで。この回復役を打たんと人間に戻れへん。あと代償に定期的に人間の血肉喰いたくなるからな。気ィつけや」
「フッ、感謝するぞミランダ・ハリハーベル。これで我が革命の兵士は完璧になった」
「礼は不要や。ウチはドクター・ベウムはんの依頼をこなしただけやからな。これからベウムはんから仕事料もらって帰るさかい、後はアンタ次第や」
「ドクター・ベウムがここに来ているのか。どこかで我が闘争を観戦でもしているのだろうな」
「まさか。これからここらは放射能まみれになるんやで。よっぽどのアホでもない限り来るはずないやろ」
「フフッ、まぁどちらでも構わん。我はこれより闘争に向かうのみ」
ヘルマスクは目標の原発を仰ぎニヤリ楽しそうに笑う。
「ククク、バッシュノードよ。その最強の力をここでふるってみせろ。その瞬間、ここは地獄と化す。すべて跡形もなく吹き飛び、放射能汚染の満ちる死の大地と化すのだウワァーッハハハハ!」
そんなに地獄が楽しいんかな……楽しいんやろな。
思えば、原発メルトダウンも楽しそうに語ってたし。
コイツにとっては共産イデオロギーも、大量殺戮楽しむための理由づけでしかないんやろな。
「同士よ、奮え! これより我らは女乃川発電所をに向かう。制圧目標は第一反応炉。目についた警備員作業員は皆殺しにせよ!」
「おおっ同志ヘルマスク! 我らの命を捧げ、共産世界の礎に!」
狂信者のケダモノ集団は銃を手に雄々しく原発に向かう。
ただ一人残ったヘルマスクは、星宮石を掲げて召喚の詠唱を唱えた。
「星宮より来たれ、甲殻の権能よ。城塞がごとき巨躯堅牢の甲羅は、万の進軍を阻み。巨腕の鋏は海内無双、剛勇無双、巌の山をも両断す。恐れを知らぬ英雄よ、この巨蟹が汝最期の試練と知れ。英雄譚は絶海の藻屑となり果てぬ。ディスマグヌス!」
地響きとともに巨大な大蟹が現れる。巨大な鋏を突き出しながら、それも原発へと向かった。
あんなのに攻め込まれたら、原発メルトダウンもすぐやな。さっさと退散しよ。
踵を返し逃げ出すウチであった。
蟹でキャラ作るのはすごく難しい。どうしても食材かB級モンスターのイメーィがあるんだよね。で、蟹で検索してネタを探していたら、小林多喜二の蟹工船ってのがありまして。プロレタリアート文学の代表で、社会主義者のバイブルだったとか。で、共産主義革命キャラを思いついたわけです。




