03話 名シーン製造キャラだ!
というわけでボコボコにしたチンピラ二人を案内させ、たどり着いたのはさびれた廃工場。田舎によくある、潰れて放棄されたままになっている場所だ。
「なぁレイラさん。本当にこいつらのアニキに、わざわざ会いに来ちまったけどよ。飛行機事故の現場を見に行く方が先じゃないのか。その原因は巨大な獅子の怪物だって話だし。そいつは星宮獣の可能性が高いぜ」
「そうね。でも、きっとそこには何も残ってないわ」
レイラさんは意味ありげに僕を見る。
はい、僕のせいだと言っているわけですね? その通りです。
レイラさんは、じつはかなりの事情通。この時点でブラックゾディアックの深い内部情報を知っているのだ。
というのも、彼女は組織の首領【ドクター・ベウム】の娘さんであり、幼いころから星宮石の使い方をこのゾディファナーザから学んでいたのだ。だけどテロをしてでも自分の研究を進めたい父親に反発して、処女宮と天秤宮の石を持って離反。
そして自分の異世界の知識と技術をもって、対ブラックゾディアック組織【サクラモリ】の結成に大きく関わった。
「それにどうして、その子を連れてこいつらのアニキに会いに行くんだ。危険じゃないのか」
「仲良しになったから。危ないことからは私が守ってあげるわ。ねぇ?」
そんな無理のある言い訳に同意をもとめられても。そのアニキさんが、本当にブラックゾディアックの関係者かってのもマユツバだし。
なんで、わざわざロリコンヤンキーなんかに会いに行かなきゃなんないんだ。……いや、待てよ。『ロリコンキャラ』ってのに引っかかるものがあるぞ。そう、ソルリーブラの第一話の敵が、たしか……
「ここまで来ちまったし、とにかく行くか。お前らのアニキってな、本当にここに居るのか」
「いや、今日はヤバイっす。なんでも幹部の方に会うとかで、邪魔したらどんな目にあうか」
「幹部だと? そいつは俺もあってみたいな。いいから案内しろ」
ヤンキーを軽くこづいて先をうながす。
僕たちは廃工場の中に足を踏み入れた。中は機械も設備もみんな持ち運び出されたあとのガランとした広い空間で、ゴミだけが散乱していた。
「アニキぃー、いますか? ヘンなヤツラが、アニキに会わせろって来ちまってんです」
返事はない。いないのかと思ってみるも、ずんずん中に入ってゆく。
やがて作業場の突き当りまで来ると、そこには大きな防火シャッターが下りて閉まっていた。
「ありゃ? シャッターが下りるてやがる。アニキが閉めたのか?」
なんでもこの先をたまり場にしていて、いつもはそこは開いているそうだ。
もしかしてアニキさんが幹部の方と話をするために閉めたんだろうか?
「なにかありそうね。あなたたち、シャッターを開けなさい」
「い、いや、アニキが幹部の方と話していたらヤバイっすよ。カンベンしてください」
「できないな。その偉い人に俺たちも挨拶したいんだ。いいから開けろ」
暁斗とレイラさんに睨みつけられ、チンピラ二人は渋々シャッターを持ち上げる。
ガラララララッ
「なんだ……あれ?」
予想に反して、そこには誰もいなかった。その代わり、その中央に大きなモコモコの塊があった。
見たことのない妙なものに、僕たちはあっけにとられ……いや! 僕は知っている!
「みんな逃げて! あれは星宮獣。白羊宮の【アグリアードネ】です!」
「なんですって?」
この場の誰もがモコモコを凝視する。
「レイラさん、どう思う? あれは本当にそうなのか?」
「アリエスの星宮獣は知らない。でも、あの物体はそうなんでしょう。だったら近くに召喚者がいるはずよ。そいつを捕まえるわ」
たしかに強大な星宮獣唯一の弱点は、そいつの主人である召喚者。そいつの意識を失わせれば、星宮獣は消滅する。だけど……
「危険です! アグリアードネの能力は爆発。あの羊毛が大きくなるほど、爆発の規模はそれに比例して大きくなるんです。ヘタに刺激したらオシマイです!」
「……そう。なら私たちだけで対処するには難しいわね。いったん離れて応援を呼びましょ」
「そうだな。それにしても君、ずいぶん星宮獣についてくわしいね。もしかして、ブラックゾディアックと何か関係が?」
よわった。『アニメからの知識』とか言ったらどう思われるんだろう。『ふざけてるの?』って言われる未来しか想像できないよ。
「それを聞くのはあとにして。早く応援を呼びに行くわよ」
僕たちは踵を返してその場を立ち去ろうとした。だけどいきなり背後から、デカイ体の誰かが僕とレイラさんを抱きしめてきた!
「きゃあ! 誰!? どこから?」
「ああっ! アンタは第一話のモヒカン!」
やっぱりこの男か! アニメ第一話にて研究所に襲撃をかけてきた敵キャラ!
その時もレイラさんの体をまさぐりまくった、うらやまケシカランことをしていた。まさか僕までがセクハラ被害にあおうとは!
「ヒャアッハハァ。てめぇら、気がきくじゃねぇかよ。こんな極上のタマふたりもツレこむたぁよ」
ヒイイイイッ! ヘンなとこ、さわるな!
でもレイラさんの嫌がって悶える姿はいい! モヒカンくん、ナイスジョブ!
「え、ええ……まぁ……あ、でもアニキ。そこでコワイ顔してる男、やたら強ぇんで、気をつけてください」
「ああん? ヤローなんかにゃ用はねぇ。おまえら、てきとーにボコして追い出して………グヘェッ!!」
ドッゴオオオン
暁斗のキックがまともに顔面にはいる。モヒカンのデカい体が宙に浮いてふっ飛ぶ、すごいケリだ。
モヒカンが僕とレイラさんに離れたすきに、暁斗はすばやく僕らの前に出て盾になる。
うーん、イケメンらしい見事な救出アクション。
ガードのかまえを見せる暁斗は背中までイケメンだね。レイラさんが見ているのに、浮気してホレちゃいそう。
しかしモヒカン。あれだけハデにふっ飛ばされたのに、まるでダメージを感じさせず、すぐに起き上がって暁斗に殴りかかる。
「てんめぇ、よくもやってくれたな! タダじゃ帰さねぇ。お嬢さんふたり、朝までセクハラフルコースだ! 今夜一晩まさぐりまくってやるぜぇ」
ええっ!? ターゲットはまだ僕らなの? 一話で退場するのが惜しい名シーン製造キャラだ!
「だったら俺は半殺しフルコースだ! しばらく流動食くってもらうぜ。そらぁ!」
ドスッ バキッ ゲシッ バキャアアッ ドゴンッ ガスッ……
暁斗はモヒカンをめった打ち。およそ人の体から出ていると思えない音が聞こえてくる。だけど……
「なにアイツ、いくらなんでも不死身すぎるわ。暁斗の攻撃は人間の域じゃないのよ。それをあれだけ受けて、なんのダメージもないの?」
モヒカンはどれだけ攻撃を受けても、まるで効いたように見えない。強烈な打撃をくらった直後でもフルパワーで暁斗に向かってゆく。逆に暁斗の方は動きのキレが落ちてきた。
「ハァ、ハァ、なんなんだテメェは。とっくに死んでもおかしくないほど打ち込んだってのに」
「ヒャアハハァ、きかねーなァ。暴力たのシィー」
ガスウッ
はじめてモヒカンの攻撃が暁斗にあたった。その一発だけで、暁斗は足元がふらついた。
「ああっ! そうだ、思い出した! 暁斗さん、そいつに攻撃しても無駄です。逃げて!」
「どういうこと? アイツの不死身の秘密まで知っているの?」
「今のアイツは機銃で千発ブチこんでも死なないんです! あれを見てください!」
僕は巨大なモコモコを指さした。それは、はじめ見たときよりかなり大きくなっている。
「………大きいわね。そういえば星宮獣を出しているのに、あれを使ってこなかった。それが何か関係してるの?」
「してます! アグリアードネの主人が受けたダメージは、すべてあっちへ行ってしまうんです。そしてアグリアードネはダメージを吸って巨大になっていき、それが爆発の規模に直結してしまう!」
「なんですって?」
ガスッ ドガッ メキッ ガンッ グシャアッ
バトルの方に目を向けると、立場は完全に逆転しており暁斗はガードを固めて防戦一方。モヒカンは「ヒャアハハァ」と、じつに楽しそうに暁斗をいたぶり殴っている。
「…………手遅れだわ。あのダメージじゃ暁斗は逃げられない」
完全に深みにハマってしまった。これからどうしよう?