29話 地獄の革命家
革命家ヘルマスク……そうか。ついにあの男の話が出るシーンに来たか。
巨蟹宮のマスターで、『某C国出身の革命主義者』って設定なんだけど。
ぜったい中国出身の共産主義者だよね?
奴からの被害が今まで表に出てこなかったのは、活動地域が秘密主義の中国だったため。
でも話題に出たということは、いよいよ祖国を出て世界革命を起こしにきたということだろう。
それはともかく、もしこの世界がアニメならズバリ言えない設定だけど、このオジサンはどう説明するのか!?
「奴は中国出身の共産主義者だ。といっても共産党員ではなく市民が主義をこじらせた人物のようだ」
あ、この世界アニメじゃないわ。
こんなことでこの世界がアニメ架空世界じゃないことが分かるとは。
「まぁたしかに脅迫内容は過激ですが、それだけでサクラモリに話を持ってくるとは思えません。もしかしてそいつも星宮獣マスターですか?」
「うむ、巨大な蟹のようなモンスターを操る。やつは自らを『人民に圧制を強いる悪しき権力者を地獄へいざなうヘルマスク』を名乗っている。そしてその言葉通りの行動で動いている」
「それは良いことなのでは?」
「………君も共産主義者なのかね?」
「別に政治の主義思想なんて持ってませんがね。少し前やたら増税する首相がいて、生活を苦しめられたんですよ。その時は横暴な政治家を誰かなんとかしてくれないかと思ったものです」
「なるほど。政治の腐敗には皆等しく不満を持つのは当然のことではあるね。だがそれを一千万もの人命を奪う理由にしてはならんよ」
「一千万? 単位がおかしくありませんか」
「いいや。奴は実際にそれだけの人間を死に追いやったのだよ」
「しかし星宮獣でどれだけ街やビルを破壊しても、それだけの数を殺すことは不可能だと思われますが」
「奴は街もビルも破壊しない。狙ったのはダムだよ」
「ダム? そういえば中国はダム大国でしたね。三峡ダムをはじめ巨大なダムがいくつも……って、まさか!?」
「そうだ。中国三十六ヵ所の主要ダムを破壊し、北京他主要都市を水と泥に沈めた。うまいやり方だ。街やビルなどを破壊するより、インフラを狙えばより大きな被害を与えることが出来る」
「すみません。やっぱり政治は民主的にやるべきですね。暴力はいけない」
「ええ、そんな奴は放ってはいけない。ミゲルさん、ぜひ俺たちにも手伝わせてください!」
なんたる正義の主人公か。まぁボクもこの話を聞いては黙っていられない。
「ボクもやります。その激ヤバ革命家は地獄で自己批判させてやります」
「頼んだ。ヘルマスクの行方は現在調査中だが、ぜったいにアメリカ本土へ上陸させてはならないとのお達しだ。時が来たなら迎えを送る」
と、言い残してミゲルさんは帰っていった。
結局、明日スタジオに行くという話は流れた。ヘルマスクが出てきたのなら、さすがにそんな場合じゃないしね。
まずはヘルマスク回を思いだして、奴の行動を予想しよう。
たしか奴はオープニング前に東京タワーを襲撃して占拠。電波ジャックを行い、日本中に革命の宣言と決起を呼びかけたんだっけ。
…………参考になるかぁ? 日本国民に革命なんか呼びかけたって、それで動く人間なんて大していないだろうし。
第一、奴の目標はアメリカだ。日本に立ち寄って電波ジャックとかしたりするかなぁ? ……しないね。
やっぱりインパクト狙ったアニメなんて参考に出来ないね。
大人しく調査を待とう。
そしてやっぱりボクはギターを弾く。
と、この日は思っていたのだが翌日。
「緊急事態だ。星宮獣があらわれた。それも昨日話題にあがった巨大な蟹のような形態の奴だ」
と、朝も早くに桜庭さんから緊急コールで教務室に呼びつけられて言われた。
もちろん暁斗とレイラさんもそろっている。
「巨蟹宮のディスマグヌスね。早いわね」
「場所は? まさかすでにアメリカに?」
「いいや、日本だ。東北地方三陸海岸に出現した」
「日本? どういうことです。奴はアメリカを標的にしてるんじゃ?」
「理由はわからんよ。しかしそれが現れたなら、対処は君たちに頼るしかない。今、自衛隊のヘリが準備をしている。それに乗って現場に向かってくれたまえ」
「「はいっ」」
と、元気に返事をする二人。だけどボクはそれにうなずけない。
「ええと……ヘリに乗って? 死ねというのですか?」
「うん? どういう意味だね」
「巨蟹宮の星宮獣ディスマグヌスには必殺のカニ光線があるんです。ヘリなんかで近づいたら撃ち落されますよ」
「蟹がなぜ光線を撃つのだね」
「え? 出すでしょ光線。小説にも『カニ光線』って題名があるし」
「それは小林多喜二の『蟹工船』だよ。社会主義文学の代表で……おや? 奇妙な一致だな。革命家はたいてい社会主義者や共産主義者だ」
さてはダジャレで革命家キャラや必殺技を作ったな。
しかしやっぱり蟹は光線を出さないのか。変だとは思っていたんだけど。
「ともかく了解した。相手が対空武装のレーザーを放つというなら、その対処を考えねばいかん。空挺部隊長と話をするので、少し待機しててくれ」
そんなわけで、ボクたちは駐屯基地に行く前に待たされることになった。
その間、ボクたちの隊長格の暁斗がざっと作戦を説明する。
「作戦は例によって、アメリアが星宮獣をおさえている間に現地部隊やエージェントたちがマスターを探すってやつだ。ただし俺とレイラさんは参加せず控え」
「相手の出方に不測の事態が起こった場合に備えるのね」
「それにメフィストの野郎にもだ。どうせ、どこかに居るだろうしな。アイツの悪さにも備えるぞ」
するとレイラさんは顔を曇らせた。
「…………あの人はいないわ」
「あの人? メフィストのこと?」
「どういうことだ? レイラさん、なぜアイツがいないと分かる」
「双児宮の悪魔は死んだ。もう二度と現れることはないわ」
「どういうことです?」
「ゾディファナーザ。あなたは……」
レイラさんはなにか言いたそうな顔をして、禁止されているボクの真名を言った。
そして語る。あの海上決戦の最後にメフィストとなにがあったのかを。
「あの時、ベーネダリアはセバイラヴィッシュの拳を受けて大きなダメージを受けたわ。浮力を失って海に落ちそうになった。だけどマギアの聖骸布を相手に絡みつかせて必死にしがみついたわ」
「そうだったな。そこまでは俺も見ている。その後は? どうしてレイラさんがメフィストの野郎と話をするにいたったんだ」
「…………彼の中の悪魔が死んだ。だからもうあの人は戦えないの」
そう言ったレイラさんは、どこか遠くを見るような眼をしていた。




