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25話 ドライブイン

 限界をこえた激しい頭痛に、気が遠くなってゆく感覚を覚えた。

 だけどふいに痛みが消えて頭が軽くなり、目をさました。 


「…………あ?」


 ふと目を覚ますと、そこは深夜の寂れたドライブインだった。

 一瞬、なぜこんな所に居るのかと不思議に思ったが、だんだん思い出してきた。


 「そうだ、僕はたしか太一と優太と一緒に車でライブイベに行ったんだったな。それから――?」


 僕は高見沢数志。大学で学生バンドのギターボーカルとかやっている。

 それはライブイベでバンド仲間二人と車で遠出をして、その帰りのことだった。

 夜にさしかかる頃、車を走らせているうちに変な道に入ってしまった。


 そこは狭い一本道の道路で、ガードレールは錆だらけ、道も修復されないボロボロの状態だったのだ。しかも一時間以上走っても、どこまでも狭い一本道のまま。みんな次第に不安になっていった。


 やがて走り続けているうちに、このドライブインを見つけた。

 道の確認と休憩のために、このドライブインに入って……それから?



 「お、目をさましたか数志。大丈夫か? いきなり眠っちまって心配したぞ」


 「ああ、君は……」


 とっさに僕を心配してくれる友人の名前が思い出せなかった。もう三年ものつき合いだというのに。


 「大丈夫だよ太一。ちょっと夢を見ただけさ」


 実際、妙な夢だった。僕がアニメのソルリーブラの世界の登場人物のラスボス少女になって。

 だけど組織を裏切って、主人公やヒロインと共闘して。

 いったい何であんな夢を見たんだ?


 「なぁ太一。僕、どうしてた? 眠る前は何をしていたんだっけ?」


 「なんだ、覚えてないのか? 俺たちはライブイベにいった帰り、カーナビにもない変な道を走っちまってた。途中このドライブインを見つけたんで、休憩に寄ったろう」


 「うん、そこは覚えている。それから?」


 「数志は、あっちのテレビに自分の好きなアニメが映っていたんで、それを見てるって言ったんだよ。その間、俺は優太と話してこれからのことを相談してたんだがな。お前がいつまで経ってもテレビの前から動かないんで心配して見たら、眠っていたというわけだ」


 このドライブインの飲食スペースの片隅にはテレビがあるらしい。

 そこでは深夜なのになぜかアニメをやっていた。

 僕はそれを見ているうちに、そのまま寝オチしてしまったとのことだ。


 「それって、なんてタイトルだっけ?」


 「ソルリーブラとかいうやつだろ。数志がけっこうハマったっていう」


 やっぱり。


 「しっかし変なテレビだよな。もう二時間以上たっているのに、まだそのアニメやってるぜ。お前といっしょに見ていたあの子も、まだ見ているし」


 「え?」


 コーナーの片隅に目をやると、異国の衣装を着た女の子が、テレビに映っているアニメを身じろぎもしないで視ていた。そのアニメはやはり【星宮戦記ソルリーブラ】。

 だけど長い銀髪をしているその子は、あまりに奇妙な民族衣装を着ていた。まるで異国のいにしえの巫女のような装飾と衣装だ。


 「あの子は……まさか?」


 いや、違う。僕がボクだったあの子の髪は金髪。あの子は銀髪だし、背格好だって子供そのもの。ぜんぜん違うじゃないか。


 ………なにを考えているんだ僕は。

 あれは夢。現実とは何の関係もないだろう?


 ――「数志、起きたか。疲れていたんだな」


 もう一人の仲間の優太が来た。その隣には外国の女性が立っていた。

 髪は綺麗な金髪で、落ち着いた雰囲気のある綺麗な女性だ。


 「ああ、優太。ええっと、この人は?」


 「このドライブインに先に来ていたマリーさんだ。日本に旅行中、レンタカーを借りて観光してたらしいんだがな。俺たちと同じく道に迷って、同じようにここで休憩してたんだと」


 「そうなんです。カーナビゲーション搭載の車を借りたのですが、まったく現在位置がわからない場所に迷い込んでしまって。親戚の子供を預かっているというのに」


 マリー……さん? 夢でもその名をどこかで聞いた気がする。

 いや、ありふれた名前ではあるんだけど。


 「親戚の子供……あの子ですか?」


 僕たちにまったく興味をしめさず、なおもソルリーブラを視続ける女の子を指してきいた。


 「ええ。ゾディったら、みなさんに挨拶もしないで。しょうがない子」


 「ゾディ……」


 ただの偶然……だよね? どうしてか気になってしまうけど。


 「さて。数志も起きたし、そろそろ行くか」


 「行く? 出発するのか」


 「ああ。とりあえず元きた道を戻ってみよう。たぶん旧道か何かに入っちまって、カーナビの位置情報が狂ったんだと思う。戻ってみりゃ、また復活するだろ」


 「マリーさんはどうします? 俺たちの車の後ろを追ってくれば安全と思いますが」


 マリーさんは微笑んで「NO」と言った。


 「私たちはここで朝まで待ちます。これ以上日本の夜道を走るのは怖いので」


 「そうですか。んじゃ俺たちは行きます。数志、行くぞ」


 「………ああ」


 だけど、どうしてだろう。気持ちが引かれるような強い感情がある。

 まさか、あの夢に未練がある? 

 バカな。ただの夢を追いかけてどうするっていうんだ。


 「出よう。これ以上、ここは嫌だ」


 僕は二人の後を追って店から出ようと立ち上がった。

 だけど最後に一目と、後ろを振り返った。

 ふり返って、そして見てしまった。


 テレビは変わらずソルリーブラを流し続けている。

 だけど今、映っているそのキャラは――


 「アブロディ……」


 シリーズでもっとも残忍な敵キャラ、アブロディ・ティーチが高笑いし、海岸を津波で押し潰すシーンが出ていた。


 その瞬間――


 熱い灯が僕の心にともった。

 

 「……悪い、みんな。僕は行けない」


 思い出してしまった。アイツに殺された生意気な女の子を。

 その怒りと悲しみを。

 そして大事な(ひと)の危機を。


 「はぁ? どうしたんだ数志。まさか、お前だけここに残るとか言い出すんじゃ…おいっ!?」


 そして駆けだした。今も変わらずテレビを見続ける女の子のもとへ。

 僕の知る彼女とはまるで違う容姿。

 だけど、どうしてだろう。確信しているんだ。彼女は――


 「ゾディファナーザ、ボクを戻せ! ボクをあの世界にもう一度連れていってくれ!」


 彼女は振り向いた。ようやくその顔を見せた。

 幼い顔の目の中の瞳は黄金。

 

 そうだ、思い出した。


 僕はソルリーブラを彼女といっしょに視ている時、ふいに彼女の顔を見た。


 そしてこの黄金瞳(おうごんどう)を見たんだ。


 その瞬間、意識がどこかへ飛ばされる感覚がした。


 気がつくと、そこは飛行機の中で――


 「やっぱり君だったんだ。君こそが、真の星宮の巫女――」


 ふたたび意識が飛ばされる感覚がした。


 ああ、僕はまたあそこへ行くんだな。


 ならば負けない。今度こそ必ず――


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― 新着の感想 ―
こういう場合は、十中八九、敵による幻影だよね。
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