23話 大海原の三悪人【ミランダ視点】
ウチはミランダ・ハリハーベル。世界で大人気の獣化麻薬の大元や。
ウチの薬で狼男になった兄ちゃんおっちゃんらの大活躍で、アメはんの凶悪犯罪件数は爆上がり。事件のたびに銃撃パンパン、死体ゴロゴロ。大金転がりこんで、笑いが止まらん毎日やった。
ウヒャハハハwお偉い大国はんのてんてこ舞いを、高みの見物ザマァして稼ぎのネタにするんは楽しいわいねぇ♡
けど、どういったワケか、ウチが獣化麻薬の大元やとバレてもうた。
当然アメはんはババ怒り。国家安全保障抹殺対象に指定され、特殊作戦チームに命狙われるハメになってもうたわ。一回は何とか撃退できたんやけど。そん次送られてくる連中は、シャレんならんほど精鋭中の精鋭という話やないか。
デルタフォース並みの腕利き集めた超精鋭が大隊三つ分に、情報戦スペシャリストのスペシャルスパイを計測不能なほどの数でバックアップ。
そんな奴らがウチのねぐらマーチャイオに送られてきたら、いかん星宮獣の守護があるゆうても、ウチん組織は壊滅してまう。そいつら一網打尽にするために、計略のために日本に飛んだやわ。
国家安全保障抹殺対象トップに輝く男アブロディ・ティーチ使った計略は大当たり。特殊作戦チームはまとめて海の底。
逆抹殺成功のあとは星宮獣に乗ってトンズラー。太平洋を横断し、岩礁地帯に留めている帰還用の船目指して海原渡っている最中や。
さらに逃亡中に見つけたアメちゃんの観測船も沈めて、乗っているバックアップ要員も潰した。
これでメデタシメデタシなら良かったんやが……
「アブロディ、ミランダ。後方十キロほどからバッシュノードが迫ってきています。どうやら我々の追撃に来たようです」
十メートルの大きさのセバイラヴィッシュの上でメフィストが告げる。
もしやヤツが追って来るかもと思て後方の警戒を頼んでいたんやが、予想通り。
「あー、やっぱ来おったなぁ。メイちゃん殺ってもうたもんなぁ」
二十メートルの大きさのギルスレインの上に乗ったウチは、ため息をついた。
隣にはアブロも乗っている。ビークレザロは魚型で高速で海中を泳ぐので、騎乗できないんや。
さて、もともとメイちゃんさらったんは、ゾディちゃんのバッシュノードを防ぐための策やった。
病院で思いついた即興の策なんやけどな。あんな子が現場いた場合。水難おきたらメイちゃん避難させなあかん。とてもウチらを追撃に出る余裕なんてあらへんはずやった。
けど結果は逆効果。
アブロのアホンダラがメイちゃん殺して、余計な恨み買って、バッシュノードと正面対決するハメになってもうたとさ。
「ハーハッハッ来たか! ちょうど歯ごたえのねぇザコばっかで、食いごたえあるエモノを食いてぇと思ってた所だ。いっちょライオンの絞めゴロシといくか」
「あー元気やなアブロ。相手は最強の星宮獣やで?」
「くっくっく……誰が相手だろうと関係ねぇ。邪魔するヤツは殺す。目障りなヤツも殺す。殺せばオモシロそうなヤツも殺す。それがブラック・ゾディアックじゃねぇか」
それがブラック・ゾディアックなら、たしかにアンタは優等生やな。
けど、アンタのまわりで殺されない人間おるんか?
メフィストはヒラリとウチらの乗るギルスレインに飛び移った。これでセバイラヴィッシュも攻撃に参加できるっちゅうワケや。
「前衛はビークレザロ。ギルスレインは私たちを乗せている関係であまり動かせませんので、尾棘で迎撃のみを。私のセバイラヴィッシュは攻守両方の遊撃を担当します」
「ま、それしかないわな。アブロ、海の上やし頼りにしてんで」
「まかせろよ。最強の星宮獣? そいつの称号は今日からオレのビークレザロのモンだ!」
ついに漆黒の獅子バッシュノードの姿が間近にまで来たわ。
体長は二十メートルほど。負担の少ない大きさギリギリやね。
その分スピードとイキオイはすさまじく、直撃喰らったら痛そうやわ。
けど、いかに凄いスピードっちゅうても、直線で真っすぐ来よるなら照準はたやすい。
海面にひそむビークレザロが、下から超高圧特大水流をバッシュに見舞う。
ドーーーン
まさに直撃。巨体の獅子も、空中に吹き飛ばされるしかないはず……
「なにっ!?」
吹きあがった水柱を突き破り、真っ黒なライオンはそのままウチらの乗るギルスレイン目指して突き進む。
信じられん!
特大水流はバッシュを迎撃するどころか、進撃を止めることすら出来んかった。
「くっ、ギルスレイン!」
「セバイラヴィッシュ!」
とっさにギルスレインの尾を巧みに動かし、バッシュノードの突進をそらす。巨人のセバイラヴィッシュも進行を流す蹴りを入れてギルスレインへの攻撃を防いだ。
すかさずセバイラヴィッシュがバッシュノードがやって来た方向へ向かう動きを見せると、バッシュノードもマスター守護のために後方へ下がった。仕切り直しに持ち込めたわ。さすがメフィストはん。
「なんやねん、あのパワー。たかだか二十メートルであのパワーは異常やろ。いくら最強ゆうても、ありえへん」
「………いえ、わかりました。あの力には理由があります。耳をすませてください。歌が聞こえるでしょう」
「歌? ……聞こえるな。なんやねん、ここは海の上やぞ。なんで歌なんて」
この大海原に女の歌声が響いてきよる。
そ歌声は荘厳でおごそか。まるで聖堂で賛美歌が響いているような感じや。
「処女宮ベーネダリアの聖なる調べです。その歌声は味方の力を飛躍的にあげる強力な補助スキルなのです」
「なんやて!?」
「処女宮星宮獣は自身の戦闘力はさほど無いかわりに、味方のサポート能力に優れています。最強星宮獣のバッシュノードと組まれたら、恐るべきものですね」
「それは……ヤバイわ」
「クックック、どうしたミランダ。顔が青いぜ? ゲロでもしてぇのか」
アブロは相変わらずやな。悔しいけど、やっぱ悪党の格はコイツが上や。
けど、ウチも舐められるわけにいかん。
「うるさいわ!」
「さて、どうやらアチラさんは到着したようです」
海洋の向こうから、大きなソーサーに乗ったゾディちゃんと暁斗くん。そして大きさ十メートルのベーネダリアに乗ったレイラちゃんがやってきた。
全員殺気をはらんで、ウチらを殺すような眼でねめつけてきとる。
「こちらを視界にとらえられた今、本格的にチーム戦となりますね。半壊しているプラーナキアはともかく、さっき言った通りバッシュノードとベーネダリアの組み合わせは最悪です」
「ううっ」
「ビビんなよミランダ。こっちにゃコレがあるじゃねぇか」
アブロは無針アンプルを出していった。それは組織の開発した強化薬。
脳の処理能力を一時的に飛躍的に活性化させ、星宮獣を最大まで解放させるだけの能力を持たせてくれるお薬や。もっともその後は、しばらく寝込むハメになるそうやけど。
「海原でサポートもなしに使うのはいささか不安ですが……やるしかないですね」
「ぜんぜん気持ちようならんお薬やけどな。ライオンちゃんに喰われたくないし、しゃーないわな」
「よォし、テメーら薬キメろォ! ラリって無敵ンなって殺しまくれェ!!」
このセリフ、言い慣れてるコワさがある。
コイツとのつき合い、もうこれっきりにしよ。コイツの組織にも近づかん。
ズブッ
無針アンプルに入った強化薬を胸から流しこむと、脳が活性化して視界がヒドイことになってくる。細かいモンがよう見えたり、まわりがヤケにゆっくり動いたり。
「ヒャハハハハ、んじゃな。オレは勝手にやらせてもらうぜ」
「え?」
ザッパーン
なんやて!? アブロはみずから海の中へ落ちていった!!
「なんやアイツ……気でも狂ったんかいな」
「そうではありません。双魚宮マスターは、ビークレザロを出している間は水中でも呼吸が出来るようになるのです」
「ハァ? んじゃ何かい。アイツだけ逃げ放題っちゅうワケかい!」
「ええ、そうですが……それをするつもりならば、強化薬はうちません。アブロディは海中から攻めるつもりです」
「……潜水艦戦法っちゅうコトかい」
心なしかヤツの潜む海面はやけに不気味に殺気をはらんでいた。




