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22話 九十九里浜の惨劇

 「クックック……」 


 もっとも手前にいる覆面が含み笑いをした。

 そいつは手を前にかざしている。


 「そうら、キレイな絨毯になってくれ。お嬢ちゃん」


 パスッ

 そいつの手から噴き出したもの凄いイキオイの水流が、メイの胴体を貫き腕を吹き飛ばした。


 「………アイツか」


 暁斗は怨嗟のつぶやきでそいつを見た。

 そうだ、アイツの水鉄砲がメイを殺したんだ!


 さらに、二発、三発と水流を噴き出し、メイの体をオモチャのように分解してゆく。

 最後にはメイの体は残骸すら残らない。ただの赤い染みになっていた。


 覆面は気取って歩いてゆき、まるで舞台俳優のようにその上に立つ。

 ミランダは不満げに文句を言った。


 「なーに勝手しとるんやアブロ! メイちゃん殺してもうたら、ウチが嘘ツキになってまうやん」


 「おいおい……頼むぜぇミランダ。ここは女子のお茶会かよ。じゃれ合ってんじゃねぇよ」


 覆面を脱ぎコートを脱ぎ捨てたソイツは凶悪の凶相。

 平然と女の子を殺すにふさわしい悪党面(あくとうヅラ)だった。


 「せっかくオレが格安で雇われてやったんだ。ステージのレッドカーペットくらいちゃんと敷いといてくれよ。オレの手を煩わせずによ……?」


 「なーにが格安や。ウチの組織の資金半分も持っていってからに」


 「安いだろ? なにせブラック・ゾディアック殺戮ナンバーワンのこのオレ様が助っ人してやるんだからよ? くっくっく……」


 ブラック・ゾディアック……殺戮ナンバーワン?

 そのフレーズには聞き覚えがあるぞ。

 たしかアニメでミランダの前に戦った敵キャラが、そう自己宣伝していた。

 その名前はアブロディ・ティーチ。星宮石は………


 「ハッ」として海岸を見た。

 そうか、すべて分かった!

 ミランダの狙い。決闘茶番にひそむ悪意の罠!


 『全員後退。ただいまより飽和射撃がはじまる。鳴海隊員を殺害した男はアブロディ・ティーチ。ヤツは全世界国際手配リストのトップに名が乗るほど危険な海賊だ。ヤツもその他も、ミランダもろとも一斉射撃で排除する』


 オペさんの声が緊急コールとともに警告する。

 ボクはなおもアブロディを睨む暁斗のすそを引っ張って言った。


 「暁斗さん、後退してください。一斉射がはじまります」


 「糞ッ! アイツ、メイをあんな理由で……!」


 「このままではレイラさんも危険です。ショックで動けなくなっています」


 「クッ!」


 意を決したように暁斗は後ろに駆け出し、茫然とするレイラさんの腕を引いて退がる。ボクも後に続く。


 「ボクには、ここに居る誰も救えない。みんな死ぬ。だから暁斗さん……せめてレイラさんだけは守ってください」


 ボクたちが退がると同時、けたたましい銃撃音が鳴り響く。あらゆる場所から銃を構えた兵士が集結し、ただ一点、ヤツラの居る場所に凄まじい射撃をブチこんでゆく。

 粉塵と銃火の硝煙がもうもうと立ち込め、ミランダたち五人の姿はまったく見えなくなった。


 それでも聞こえる。


 ヤツの詠唱が。


 ミランダの策が、今まさに弾けようとする音が。


 「星宮より来やがれ、波濤の権能。水淵より這い出て海の魔物の畏れを知らしめよ。天を突く高潮、海を割る渦潮、大地沈める津波を呼べ。怒り、砕き、すべてを海の藻屑と化せ。海の災厄は目覚めた。ビークレザロ!」


 ドーーーン!!!!!!


 海面から巨大な音が鳴り響き、その音で一斉射撃は止まった。

 もうもうたる砂と硝煙の煙が晴れたとき――

 五人はまったくの無傷で立っていた。

 全員覆面もコートも脱ぎ捨て、残り三人もその姿をあらわにした。


 一人は全身甲殻におおわれた虫人間。その尾は長く伸びて先端は鋭い棘。

 天蠍宮(スコーピオン)のギルスレインだ。


 「メフィスト。おまえも来たのか」


 残り二人はまったく同じ格好、同じ容姿の仮面の男たち。

 双児宮(ジェミニ)のセバイラヴィッシュとそのマスターのメフィストだ。


 「あいつら、あれだけの一斉射撃の中で無傷だと?」


 二体の星宮獣はあれだけの弾丸をすべて叩き落したようだ。しかし――


 「暁斗さん、そんなことに驚いている暇はありません。もうすぐここは死地になります。獅子宮(レオ)の星宮石を渡してください。レイラさんもベーネダリアの召喚を」


 「なんだと? いったい何が――」


 「暁斗くん、言う通りにして。見なさい。死神があそこにそびえ立っている」


 海面には、まるで冗談のように巨大な水の柱が屹立していた。

 そう、それは津波。

 何の前兆もないおだやかな海に、突如百メートルを超える巨大な津波が発生したのだ。


 ――「全員退避ィ! すみやかに撤退しろォ!」


 ブラック・ゾディアック五人の周りに集結していた兵士たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げだす。


 「はーはっは無駄無駄ァ! 逃げられるわけねぇだろ。街一つ海に沈めるシロモノだぜ? みんなオレの海に沈んじまえ!」


 高笑いをするアブロディ・ティーチ。

 そう。ヤツこそ、この事態を引き起こした張本人。

 その星宮獣は大規模災害と同等の被害を引き起こす、もっとも危険な海の魔獣。


 「双魚宮(ピスケス)のビークレザロです。その津波発生能力で、ミランダを狙う特殊部隊やそのバックアップをまとめて潰す。それがミランダの計画だったんです」


 「糞っ、なにが決闘だ! 一瞬でもアイツを『意外に良い奴』と思ったさっきの俺を殴りたい!」


 「アブロディ・ティーチ。海賊帝王で名高い国際犯罪者ね。この力でその地位に成り上がったのね」


 「で、どうします。バッシュノードとベーネダリアを召喚するのは当然として、その後は?」


 相手は手練れの悪党三人に星宮獣三体。

 勝負をするにはかなり不利な相手。

 それに水害が襲う街の人たちの救助は?

 この任務についている隊員職員を見捨てるの?


 「アメリア、戦ってくれる? 私は戦いたい」


 「俺も戦う。ベーネダリアの回復能力でプラーナキアも少しは回復した。完全回復には遠いが」


 そうだよね。

 ボクたちはメイを失った。


 このまま引き下がったら、あまりにあの子が悲しい。

 メイの冥福を祈るとき、少しだけ胸を張るために。


 「バッシュノード、今日はあばれ放題だ。お前の最強を見せてやれ」


 固く握りしめる星宮石は誓い。

 助けられなかったあの子に捧ぐ。この戦いを!


 「星宮より来たれ、猛威の権能。百獣震わす暴虐の獣王。金のたてがみ靡かせ咆哮轟かし、呼べよ嵐。震わせ大地。天地鳴動、獅子のほむらを掲げよ。バッシュノード!」


 「星宮より来たれ、愛と慈悲と祈りの聖女。荒れ果てる大地、屍打ち捨てられる戦場に、無垢なる聖歌は響き、穢れた大地に癒しをもたらす。祈りよ、天に届け地に届け人に届け。あまねく世界を花で満たせ。ベーネダリア!」


 「星宮より来たれ、天秤の使徒。さかる正義の激情と凍てつく知性。天秤の両皿に据えた二つをもって断罪を執行せよ。敵を裁け悪を裁け我を裁け。悪へと傾く世界を公正に正せ。プラーナキア!」


 巨大な水柱が崩れ津波となって襲う大地に、三つの詠唱が響き渡る。

 叩きつけられる大質量の水。その激流を突き破り。

 巨大な漆黒の獅子と聖女とソーサーが空に舞った。

 

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