17話 暁斗復活!
処女宮の星宮獣ベーネダリアが使えるようになったのなら、最初にやる事はひとつだ。ボクはレイラさんをつれて暁斗の入院している病院に向かった……のだが。
「どうして君もついてくるんだ、メイ」
「え? だって、あたしも今の自分のことがわからないし。ここは同じ境遇のレイラさんといっしょにサクラモリのことを知ろうと思って」
そうなのだ。メイもレイラさんといっしょに三年前にもどされてしまっているのだ。
レイラさんは昔から大人びていたのか、よく見ないと若返ったとは見えないが、メイは完全に高校生にまで戻された。いや、ヘタをしたらボクと同い年だ。
「この子も不安なのよ。その狭間暁斗って人にあって、この子のことも聞くわ」
くそう、この頃からクレイジーサイコ百合だったのか。レイラさんと腕なんか組んじゃって羨ましいな。
ボクは不信感を抱かれているゾディファナーザだから、あんなに距離を詰めることが出来ないのだ。
さて、暁斗の入院している病院に着いて、その病室に入った。
暁斗は前と見た時と変わらず眠ったままだ。外傷はすっかり癒えているのにこの状態なのは、まったく理由がわからないそうだ。
「この人が狭間暁斗くんね。けっこうカッコイイわね。で、どうしてこうなったのかしら?」
「レイラさんが天秤宮のマスターに選んだ人なんだけど、メフィストとの戦いでこうなってしまったんだ」
「メフィスト? それってブラック・ゾディアックの殺し屋かなにかなの?」
え? メフィストを知らない?
ってことはメフィストは三年前にはいなかったってことか?
組織内じゃけっこう重要な立ち位置にいるみたいだから、古参のメンバーかと思ったのに。
「まぁいいわ。どうやら私に関係が深い人みたいだし、話を聞いてみたいわね。(呪文省略)ベーネダリア」
星宮獣ベーネダリア出現。修道女の女性姿で完全な人型だ。
「ベーネダリア、彼を回復して」
「はいマスター。傷人よ。癒しの加護をあたえん。イ・シャール・ハ」
ベーネダリアが手を組んで祈りの姿をとるとキラキラした光が暁斗に降り注ぐ。顔にうっすら生気が宿ると、やがて目を覚ました。
「うっく……ゾディファナーザ? それにメイと……レイラさん! あと誰だ?」
「処女宮のベーネダリアよ。これであなたを回復したのよ。暁斗さん」
「そうか。ありがとう、レイラさん。……あれ? レイラさんは処女じゃないから、それを使えないはずじゃ?」
「前の私はそうだったみたいね。相手はいったい誰なのかしら。まさか、あなたとか?」
「そうなの!? この人は敵?」
「な、なにを言ってるんだ二人とも? それに妙に他人みたいな口ぶりなのは、どういうことだ?」
そろそろボクの方から事情を話した方がいいかな。
ボクはかいつまんで暁斗にこれまでの経緯を説明した。
「――と、いうわけで、レイラさんとメイは三年前にもどった状態なんです。だから暁斗さんのことを知らない。三年前は処女だったので、ベーネダリアも使えるようになったんです」
「そう、か。レイラさん、本当に俺のことを?」
「ええ、知らないわ。どうしてゾディファナーザが父から離れサクラモリに来たのかも分からない」
「ま、いいさ。またイチから俺のことを知ってくれればいい。あとゾディのことも信じていいと思うぞ。俺の勘がそう言っている」
「……わかったわ。でも、しばらくあなたとは会えない。明日から私とゾディは海外よ」
「海外? 任務か?」
「都心の重要地域を破壊してしまったでしょう。ボクたちはその責任をとる形でブラック・ゾディアックの幹部を倒しに行かなければならなくなったんです」
「なんだって? そりゃ、ずいぶんな危険な仕事だな。幹部はとうぜん石持ちだろうしな」
「そういうワケだから、しばらく会えないわ。帰ったら私のことを聞かせてちょうだい」
それを聞いた暁斗。「バサリ」とイキオイよく布団をはぎとり立ち上がった。
「それを聞いちゃ、俺も大人しくしてられないな。その任務に俺も行く。女の子二人だけにそんな危険なことはさせられない」
「ええ? 無茶ですよ暁斗さん。それに任務はボクたち二人だけでやるわけじゃなくて、暗殺チームは別に居るんです。ボクたちの役目は星宮獣が出たときのケツモチです」
「そうよ。それにあなたは寝たきりから回復したばかりじゃない。これから精密検査を受けて、生活に支障がないか調べないと」
「そんな悠長なことはしてられない。これから桜庭さんに直談判だ!」
「もう……しかたのない人」
「無茶は俺の信条さ」
そりゃ、主人公様についてきてくれれば心強いけどさ。ピンチになっても主人公補正で……
あれ? そういや暁斗って、まったく主人公補正とかないぞ? ピンチになった時も、当たり前のように当たり前に重傷になるし。
もしかして主人公機であるソルリーブラが生まれなくなっちゃったんで、主人公じゃなくなったのかな?
「ウッ!ググッ!クソォ! あの人とあんなに見つめ合っちゃってぇ!」
なんか怨嗟の波動を感じてそこを見ると、メイが暁斗とレイラさんが楽し気に話してるのを見て歯噛みしていた。
「スゴイ顔してるね。その顔見られたら、その場でレイラさんに絶縁されちゃうね」
「なによ。アンタだってレイラさんのこと好きなんでしょ。なのに、そーんな、すました顔しちゃって」
「カン違いしてるね。ボクはたしかにレイラさんは好きだけどあくまで”推し”なんだよ。だからレイラさんが男の人を好きになっても恋人とか出来ても、ありのままを応援するってスタイルで……」
ボロッ
「あれ?」
「ほーら泣いてる! なーにが”推し”よ。アンタだって、さみしーんじゃない。理解者みたいなこと言っちゃって」
暁斗とレイラさんが結ばれる運命を知っているから、ショックはないと思っていたけど。やっぱり悔しい。
暁斗の主人公補正がなくなっても、この運命は変わらないのかぁ!
――ガチャリ
突然ノックもなしにドアが開いた。そしてハデな恰好のお姉さんが入ってきた。
アクセサリーをジャラジャラ過剰につけた服を身に着け、腕にはタトゥーがいっぱい。顔もピアスだらけという、なんともサイケでロックなお姉さんだ。
「邪魔するでー……って、ありゃ。狭間はん目ぇ覚ましとる。メフィストはんにこっぴどくやられて、寝たきりになった聞いたのになぁ」
「なんです、あなたは。暁斗さんのお知り合い? あ、もしかして恋人とか?」
「いや違うぞ、メイ。いくらなんでも、こんなロックすぎる彼女は作らない。あ、もしかしてサクラモリの関係者ですか?」
「あの恰好でサクラモリには入れないでしょ。いちおう公共機関よ」
ふと、既視感を感じた。
あれ? なんかこの人、ソルリーブラのアニメで視たような?
「ええっと。では失礼ですが、お名前をうかがいます。自分になんの御用でしょうか」
「サクラモリん若いのが寝たきりになってる聞いてな。だったら、さらってゾディはんとレイラはんを釣るエサにでもなってもらおか考えたんやけどなぁ。起きてるし、ゾディはんとレイラはんもここに居るしで、どないしよっかなぁ」
あ。思い出した。
いやでも、なんでこの人がここに居るんだ?
「はぁ? なにを言っているんだ。俺をさらうって、ぶっそうな事言ってんな。もしかしてアンタ、ブラック・ゾディアックの人間か?」
「メイ、それにゾディ。さがってなさい。ここでこの女を捕まえて、情報源になってもらうわ」
いや、ヤバイ! 今はコイツと事をかまえてはいけない!
「ダメだ! そいつに無策で挑むのはあまりに危険だ! 手を出しちゃいけない!」
「なんなの? ゾディ、コイツを知っているの?」
「………明日、暗殺に行く予定だった人です」
「はぁ?」
「天蠍宮のミランダ。ブラック・ゾディアック副首領格の女です」