13話 悪魔のルーレット
「ど、どうしたんだ?」
それは突然の出来事だった。
バッシュノードと果てしない巨獣バトルを繰り広げていたロブゾール。それが突然に動きをとめた。まるで時が止まったかのようにピクリともしない。
バッシュノードがその隙に追撃をかけようとしたので、とりあえずやめさせる。
「これは……そうか、レイラくんがやってくれた! 金牛宮マスターを眠らせることに成功したんだ!」
「「「おおおおおっ!!」」」
桜庭さんの声にみんなが歓喜の声をあげる。ボクも一緒になって声をあげた。
すごい! レイラさんは本当にスゴイ人だ!
こんなに早くマスターを見つけて決めてくれるなんて!
「みんな浮かれるな! まだ状況は終わっていない。負傷者の救護、民間人の誘導、崩れて危険な建築物の調査、やる事は山ほどあるぞ!」
しかる自衛隊の偉い人の声も心地よく感じる。ちょっと被害は大きくなったけど、結果オーライ。やむを得ない犠牲ってやつだよね。
都民のみなさん、ちょっと増税キツくなるだろうけど、がんばってね!
「アメリアくん、状況終了だ。バッシュノードを戻して撤収する」
「は……」
ブオオオオオオオオオオオンッ!!!
え?
ボクの返事は巨大な咆哮にさえぎられ、かき消されちゃった。
それは動きの泊まったはずのロムゾール。ヤツがすごい雄叫びをあげたのだ。
「まさか……再起動? え……」
そのロムゾール、体がムクムクと大きくなっていく。ドンドン大きくなってゆく。
「あ……あああ……!」
もともとは二十メートルくらい。ビルの七、八階くらいの高さだったものが、十階、二十階並へと巨大化してゆき、ついには高層ビルと同じほど、天を突く高さになってしまった。
「こ、これは! まさか完全開放!?」
「そんなバカなぁ! 人間のマスターに星宮獣の完全開放は耐えられないはずです!」
あり得ない。だけど現実はあり得ないはずのことが起こっている。
「ブモオオオオオオッ」
ドガァンッ
ロムゾールは近くのビルをぶん殴る。一発で上層階がコナゴナになるすごい怪力!
「うわああああッ」「キャーーッ」
大きなコンクリートの塊が雨のように降って来て、その下に居た人達は必死に逃げまどう。
ドスウウウンッ
そんな人々の頭上へ、容赦なくロムゾールは歩み踏み潰す。さらに通りすがりのついでにビル破壊も行い、ガレキの雨はそこらかしこに降り続く。
「ダメだ! とても逃げられない!!」
「避難誘導が間に合わない! オシマイだ!」
「キャーーッ、助けて! 痛い痛い!」
あがる悲鳴。無情に踏み潰される人々。いつまでも降り続くガレキ。
これは本当に現実のことなの?
あまりに悲惨な光景が繰り広げられ、自分の目が信じられない。
バッシュノードをいち早く呼び戻して、ボクら周囲に降り注ぐガレキへの防御にあてているけど、ここ以外はとても手がまわらない。
そうだレイラさんは? たしか金牛宮マスターを見つけて、捕まえる直前だったはず。
「桜庭さん、レイラさんはどうしたんです。マスターをつかまえるのに失敗しちゃったんですか?」
「現在音信不通だ。応援に送った警官隊に連絡をとったところ、ビルは包囲したもののホシが異常な強さで、拘束に向かった警官隊はほぼ殉職したという」
「じゃ、じゃあ、レイラさんは……」
「考えたくはないが……万一の事態が起こったやもしれん」
「そ、そんな……」
信じたくない可能性を突きつけられ、ボクの心は空白になってゆく。
その後、しばらくの記憶がない。
気がつくと、ボクはふたたび指揮車両に乗せられていた。
「アメリアくん、しっかりするんだ。まだ戦闘は終わっていない。向かう先にバッシュノードを並走させてくれ」
「は、はい。ロムゾールはどうなりました?」
「ここを離脱した後、有楽町東京駅方面へ向かったそうだ。最悪だ。ヤツの狙いは日本の中枢やもしれん。危険だが後を追わざるを得ない。アメリアくん、悪いがつき合ってもらうぞ」
日本の中枢って……なに?
ともかくもどこぞへ向かう指揮車両に、言われた通りにバッシュノードを並走させてゆく。この先に日本の中枢とやらがあるのかな?
と、通信を担当していたオペレーターが声をあげる。
「桜庭管理教官、たった今警視庁から応援要請! ロムゾールは現在警視庁庁舎を襲い破壊にかかっているとのことです! どうにか足止めを願いたいそうです」
「やはりか! 警視庁のその先には首相官邸と国会がある。彼らの避難を支援しなければ、日本の指揮系統に致命的な空白が生じる!」
あ、総理大臣と国会議事堂か。たしかにそれは日本の中枢だ。
車の着いた先は、その警視庁を目視できる場所。多くの警官が警視庁ビルに突進をくらわすロムゾールを遠巻きに眺めている。
ズゥゥン ズゥゥン ズズゥウウン
ヤツの角がビルにのめり込む度にカレキや窓のガラスが零れ落ちる。それでも警官たちはなにが惜しいのか、その場を動かない。
「ダメだ、警視庁が崩れる!」
「日本の治安維持の象徴が!」
誇りある職場の最期を見届ける時というのはこうなるものか。さすがに胸にクルものがあるね。
しかし感傷にひたる暇はない。ボクはここにアレを何とか止めるために来たからね。
「ここから先にヤツを進めるワケにはいかん。アメリアくん、どうにか出来るか?」
「それって、バッシュノードもあのレベルまで巨大化させろってことですか?」
「そうだ。無理か?」
「たぶん出来ます。短い時間ですが」
ボクが本物のゾディファナーザと同じ力を持っているなら可能のはずだ。アニメでも最初は上手く制御していた。ソルリーブラとの戦いが激しくなるにつれて、意識が刈り取られて制御が効かなくなっていったけど。
「ならば頼む。マスターがいるビルにはもう一度増援を送った。今度は最精鋭だ。ヤツを仕留めるその間だけロムゾールを!」
そうだ、アイツはレイラさんを殺したかもしれないんだ。
いや、万一にも生きているかもしれない。
ならばその可能性に賭けて、ボクはここでアイツをやっつける!
「バッシュノード、完全開放! ロムゾールをやっつけろぉぉ!!」
「ちょっと待て! さっきはそれで被害を出したろう。あのサイズでそれをしたら……!」
桜庭さんの声も聞こえない。いつの間にかボクの心は何かがブチ切れていた。
危険な領域にもためらいなく踏み出す心境だ。
ズァガアアアアン グワッシャアアアアアッ
ロムゾールと同サイズまで巨大化したバッシュノードはロムゾールに飛びかかって転倒させる。ついでに警視庁ビルもいっしょに倒壊。
「ああっ、警視庁ビルが!」
「日本の治安維持の象徴が……!」
うるさいな。あそこまで半壊してたんだから、いっそ全部壊れた方がいいだろ。解体の手間がはぶけたと思ってください、警官のみなさん。
さて、このまま時間まで押さえつけようとはかったのだが。
ロムゾールはバッシュノードをリフティング。持ち上げて脱出した。さすがパワーナンバーワンの星宮獣。
そのままヤツはバッシュの首をガッチリとホールド。グルグルとスイング大回転をはじめる。
ブンブンブンブンッブウウウン
「まずい。ロムゾールは体が人型なだけにレスリング技も使える。獣の突進技しか出来ないバッシュノードには不利だ」
「い、いや、そんなことより。たしかあの技は、最後にはイキオイのまま放り投げるのでは?」
「あ、そうですね。落ちた先は……」
大惨事?
「うわああああっ! 頼むから霞ヶ関方面は、永田町だけはやめてくれぇ!!」
まさに悪魔のルーレット。しかして回してるディーラーも悪魔のテロリスト。
最悪の出目を狙わないハズがない。
ブゥオオオオウオンッ
ついにバッシュノードは放り投げられた。
高く高く空中を舞う獣の巨体。
そして重力に逆らえず落ちた先はもちろん……
ドゴォォォォォォォン!!!
「なッ、永田町があああああああッ!!!!」
最悪のナンバーにヒットした。日本はこれからどうなるのだろう?