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01話 TSラスボス少女になった

 「あれ?」


 気がつくと、そこは飛行機の中だった。

 ずらり並ぶ客席に、私服やらスーツやら余所行き姿の旅行客が座っている。窓の外は、はるかな空が広がる光景だ。


 おかしい。

 僕は旅行なんかに出た覚えはない。それも飛行機なんかを使う遠出とか、ありえない。僕はたしか……


 「あれ?」


 二度目の「あれ?」が出た。

 僕は何をしていた? 眠ってはいないのに直前の行動が思い出せない。誰か僕の知り合いはいないかと見回すと、もっと妙なことに気がついた。

 まわりがやけに大きいのだ。座席も人も僕の目線よりかなり上にある。なんなんだ、巨人の国にでも来てしまったのか?


 「……いや、これはもしかして?」


 逆だ。もしかして僕が子供になっているんじゃ?

 それに思い至り、手を見てみると、やはり小さい。

 いや、小さいだけでなく華奢だ。まるで女の子の手だ…………


 「うああっ!?」


 服の袖も目に入ったが、それは女の子の服のヒラヒラ。そしてはじめて全身纏うものを見てみると、ヒラヒラの可愛い服とスカート。さらに髪も長く金髪の三つ編み。まさしく女の子だ!


 「な、なんで!? なんで僕が外国の女の子に!?」


 ――「おい、さわがしいぞ。静かにしろ」


 ヤバ。隣の怖そうな男に起こられた。なにじろ全身黒ずくめで、見るからにアヤしい兄ちゃんだ。

 しかし、こんなアヤしい恰好の男が殺し屋かテロリストなんてのは、某有名探偵マンガの中での話。現実には………いや、今まさに、アレの中の高校生探偵みたいなメにあっているんだけど。

 いやいや、いくら自分がヤバイ目にあっているからって、知らない人を疑うのは良くない。こんなヤバそうな人でも、話しかけてみれば案外普通なもんなんだよ。


 「ビビッってんのか? いいから落ち着け」


 おや? この兄ちゃん、この娘の知り合いみたいだ。

 この娘である僕は、まったく自分の状況が分からない。しかし、とりあえずは、この兄ちゃんの言う通りにすれば何とかなりそうだ。男は小声で僕に話しかける。


 「そろそろ堕とすぞ。【バッシュノード】を用意しとけ」


 バッシュノード? それってたしか、前季アニメ【星宮戦記ソルリーブラ】に出てきたラスボスだったような?

 アレは第一話から出てきたんだよな。ハデに旅客機をブチ壊して、その存在感を見せつけていた………って、まさか!?


 自分の正体が分かった! 獅子座の星宮獣バッシュノードの巫女【ゾディファナーザ】だ! どういうことだ? まさか、あのアニメの世界に来てしまったのか? それもラスボスのゾディに転生して!?


 とにかく自分の荷物の荷物をまさぐってみると、巫女衣装のに紛れて一個の大きな輝く石があった。その石の中央には、獅子座を示す♌の紋が大きく彫られている。


 「星宮石!? まさか本当に?」


 「ようし、そうだ。任務はおぼえているな? 目的は、あと二十分後の軌道直下にある半導体研究所。この機体を後腐れなく墜落させた後、俺たちはバッシュノードに乗って空中から研究所へ襲撃。データとサンプルを奪取後、そこの研究員を皆殺しにしろ」


 ああ、その作戦で開発中の対武装テロ用の戦闘ロボの開発が難しくなるんだっけ。で、そのロボに主人公が持っていた天秤座の星宮石をはめ込み起動させ、それで組織の星宮獣と戦うって展開になって話は始まる。


 「よし、バッシュノードは時間厳守で召喚しろよ。俺たちは時間までお楽しみだ」


 「俺たち? お楽しみ? ……って、まさか!?」


 男は立ち上がり座席通路に出た。その他の座席からも似たような恰好の男たちが続く。すると、そいつらの体は大きく膨れ上がり毛むくじゃらに、顔も口が耳まで裂けてケダモノそのものに変容してゆく。


 「ブグボエエエエエアアアア!!」


 「獣人変化!? やっぱりアイツは異能テロ組織【ブラックゾディアック】の戦闘員?」


 アニメ通りの一般ザコ兵! でも、ただの警官とかじゃ相手にならないくらいは強い!

 そして惨劇ははじまった。

 叫びをあげて機長に知らせようとしたスチュワーデスは頭を吹き飛ばされた。座席から出て逃げようとする人々を手あたり次第に引き裂き、やがて通路の奥で固まったところを、順ぐりにゆっくり殺戮する。

 大勢の悲鳴は巨大な騒音となり、それに混じって肉や骨が砕けるイヤな音がコダマする。血しぶきはとめどなく赤い噴水を噴きあがらせている。

 あまりの光景に、僕のアタマは真っ白になってしまう。


 これは現実なのか?

 じつは僕はまだ眠っていて、悪夢を見ているんじゃないのか?


 「おい、どうした。もう時間だ。さっさと自分の仕事をしろ」


 「あ、ああ…………」


 ヤツのその声に操られるように、星宮石を奮える手で掲げる。


 『仕事』というのは『星宮獣バッシュノードを出せ』ということだろう。

 だけど、どうやって? 僕は姿はそれでも異界巫女ゾディファナーザじゃないのに!


「…………あ?」


 その時、アタマに言葉が浮かんだ。それはこの石の檻から聖天使を解き放つ聖なるしらべ!


 「星宮より来たれ。猛威の権能、百獣震わす暴虐の獣王。金のたてがみ靡かせ咆哮轟かし、呼べよ嵐。震わせ大地。天地鳴動、獅子のほむら掲げよ。バッシュノード!」


 巨大な黒き獣が顕現した。

 詠唱にある通り、たてがみだけが金色。漆黒の巨躯は神々しくもあり、されど巨大な牙は禍々しくあり、双眸は殺気に輝き星のまたたきのよう。

 その巨獣が、飛行機の天井を突き破って顕現した。


 「あ、アイツらをやっつけろ!」


 「なにィ? ブワァッ!!」


 ケダモノどもは爪に引き裂かれ、一瞬で肉塊へと変わった。そりゃやっぱり、殺すのは殺人鬼どもだよね。


 グラッ


 あ、堕ちる

 天井に大穴が開いた飛行機は制御を失い、次第次第に高度を落としてゆく。

 緊急着陸をはかろうとしているんだろうけど、やけに落下速度が速い。墜落だ。


 「僕だけは、この子に乗って助かりそうだけど………でもなぁ」


 生き残っている人たちはかなりいる。小さな子供を必死に抱きかかえているお母さんとか見ると、心が痛む。この人たちもアニメなのか? 散乱した血肉を見ると、とてもそうだとは思えない。


 「しかたない、やるだけやってみよう。このバッシュノードがアニメと同じパワーがあるなら、助けられるかもしれない。ラスボスだもんね」


 バッシュノードのたてがみにつかまり、空中へとその巨体を躍らせた。


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― 新着の感想 ―
この場合、作中作のアニメ【星宮戦記ソルリーブラ】が存在するわけですね。 どんな作品世界かな?  敵ラスボスに転生とか、相当きつい。
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