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霊刻の絆 ~霊界で結んだ「 」~  作者: ひより那
第1章 霊界 ──この地で生きる──
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第 8話  1- 2 密室 -地下室の秘密-

 あてがわれた部屋は地下だった。。ルーナが『サガのことだから、またいつか俗界人を連れ込むかと思って』と、あらかじめ部屋を拡張していたという。 


「少し暗いけどじきに馴染むと思うわ」


 天井からは不思議な形の電球がぶらさがっている。どう見ても電気が通っていないのに光っていた。


「少し難しい話しになるから適当に聞き流してくれていいわ。あ、もちろんこれはナナフ家(わたしたち)だけの秘密ね」


 そんなことを言われて説明を聞いたがサッパリ分からなかった。えっと……この俗界と霊界の間に精神の壁があって……霊界はそこのエネルギーを使って色んな事ができるとかなんとか……。んーつまり……見えない何かから電力が供給されているってこと?


『ちょっと違うみたい。アニメ的に言うと魔素とかエーテルとか……そんな未知なものだと思うわ』

「零もアニメとか見るんだ」

『そうね。さっき奏多が開いたページあったじゃない』


 この分厚い本のことか……読めるのは日本語の部分とちょこっと英語の部分だけ。うまく使えば英語や日本語の参考書としても使えそうなほど充実している。


「これだろ……」


 ハードカバーを開いてページをペラペラとめくった。


『わたし、その内容がなぜか少し読めるのよ。初めて見るもじなんだけどね』

「それって零が霊だから? ……なんて訳ないよな」


 冗談として言葉に出しはしたが、後に馬鹿なことを言ってしまったと自己嫌悪に陥る。


『あながち間違いじゃないかもしれないわ。書いてある一節を参考してわたしの存在を説明するなら、実体は精神の壁の中にあるんじゃないかって仮説が立てられるの』


 あまりにも突拍子もない話しに、常識外れ過ぎて頭がついてこない。とりあえずこの本を勉強して文章を読めるようにならないと。


「今は分からないけど、読み進めると訳がなくなっている。そこに重要なことが書かれている気がするんだ」

『ページを開いてくれればわたしが読むわよ』

「いや、この本は順番にやっていった方がいい気がするんだ。困ったときは助けてよ」


 零が『さすが勉強熱心だった奏多くんね』と発した時だった──勢いよく部屋の扉が開かれたのは。


「お前がこの家に来た奏多っていう俗界人か」


 長い髪を後ろで束ねた女性と……後ろにいるのはお団子頭の女の子か。


「この人が新しいお兄ちゃん?」

「こらレイナ、顔を出すんじゃない。どんなやつかまだ分からんからな」


 ふわふわと零が回り込んだ。


『この子可愛い。ふわっふわだわ』

「君たちが父さんの言っていた姉と妹か。奏多って言うんだ、よろしく頼むよ」

「まったく……サガは男なんか拾ってくるなよな」


 顔を出すレイナ。


「ちょっとお姉ちゃん、お父さんって呼ばないと怒られちゃうよ」

「そうだな。まぁ拾ってもらった恩もあるし……とりあえず帰るまでは従っておくか」


 面倒そうに頭を掻く姉におっとりした妹か……(さくら)は今頃何してるんだろうなぁ……ん? ということは、あっちの世界じゃ椚に続いて零や僕まで行方不明ってことになってるのか。


「私はシズだ。歳は19歳。この家の長女ってことになってる」

「レイナ12歳! お兄ちゃんって呼んでいいですか?」


 シズは僕と変わらないくらいの身長で、キリッとした顔立ちをしている。レイナは、くりっとした大きな瞳が印象的な、可愛らしい女の子だ。


「いいか、くれぐれもレイナに手を出すんじゃないぞ。夜中にこっそり部屋に忍び込むなんてことは絶対に許さないわからね」

「え? な、そんなことするわけないだろ」

「来るなら起きてる時がいいな。そうすれば一緒に遊べるでしょ」


 シズは「くれぐれもふざけたことするんじゃないぞ」と言い捨てると、レイナを連れて部屋を出て行った。


『お姉さんのシズさんって人、サガさんより強いかもしれません』

「分かるの?」

『なんとなくなんですけどね。レイナちゃんは見た目通りかな……お母さん(ルーナさん)は良く分かりません』


 それって零が霊だからこそ見える感覚ってことなのか? アニメで見たことある転移なら何らかの力で最強になっている可能性がある。ゲームタイプならレベルを上げて強くなっていくってことか。


「ハハハ、現実問題として強くなってるなんてあるわけないよな~。異世界じゃなくて霊界って話しだし」

『分かりませんよ~。奏多が最強冒険者として世界を救うかもしれないよ~』


 僕は世界を救うよりまずはこの本を解析したいな。この中にはきっと霊界から家に帰れる方法が書かれているはずだ。


 翌日──サガに薬草畑まで連れていかれた。サムゲン大森林と呼ばれる森の中にある畑までの道を叩き込まれ、時折見かける獣を父さんが追い払う。


「いいか奏多、獣くらい追い払えなければこの仕事は出来ない。この村で食べていくためには必死で学ぶことだ」


 放り投げられた棒に視線を奪われた。拾えとばかりのアイコンタクト。既に父さんの武器を構えた姿に『かかってこい』という無言のプレッシャーがある。


 このプレッシャーに耐え切れず、思いっきり棒を振りかぶって突っ込んだ。今まで格闘技なんてやったことなんてない。”なんで僕がこんなことを”という気持ちしか沸かないが、今はやるしかない。


 木と木がぶつかり合う鈍い音。この感触は攻撃を受け止められたのだろう。


「おい奏多、闘いの最中に目をつぶるやつがあるか!」


 父さんの言葉の意味を理解する前に振り払われて吹っ飛ばされてしまった。


『大丈夫、奏多』


 僕への心配と父さんへの怒りが混在した零の表情。その顔に安心感を覚える。なんとか立ち上がったが戦意は喪失気味だ。


「もういい。分かった」


 武器を下す父さんの姿、終わったという安心感と、何もできなかった悔しさを覚えた。


「不合格なのか……」


 猛烈に不安な気持ちが膨らんだ。たった1日しか一緒に過ごしてないが、帰れる場所ない僕を拾ってくれた感謝と、帰る場所がなくなるという恐怖。


「違う違う。戦いの適性をみただけだ」


 父さんは説明してくれた。この薬草畑に向かう途中に出る獣や魔獣のことを。運悪く魔獣に出会ってしまったらとにかく逃げること。獣なら素材化できる程度には強くなって欲しいということを。


「特にこのルネール村は閉鎖的でな。村民は外部の人間を極端に嫌う。俗界人のような得体の知らないやつならなおさらだ」

「それじゃあサガは……僕やシズたちのことを囲い込んで大丈夫なの?」


 こぶしで殴られた。


「父さんと呼べって言ってるだろ……まぁ俺はうまくやってるよ。とにかくルーナがそういうの上手でな」

「母さんっていったい何者なの? あの分厚い本、言語だけの参考書じゃないようだけど」


 父さんは困っていた。


「まぁ、“母さんの秘伝”とでも覚えておけばいい。それにしても、もうそこまで理解したのか。あれは……その人にとって必要な部分しか読めないようになっているんだ」


 必要な部分しか読めない? なんだその不思議設定は。魔法じゃあるまいし……まぁ、それだけ難しいってことなんだろうけど。なんか……やる気が出てきたぞ!



 そして父さんに稽古と薬草育成の仕事を叩き込まれて数日が経った。僕はやっとルネール村での居場所を確保し、生活の糧を手に入れたのだ。


 


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