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霊刻の絆 ~霊界で結んだ「 」~  作者: ひより那
第1章 霊界 ──この地で生きる──
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第 7話  1- 1 転移 -霊界への転移-

 目の前にいるのは記憶の中にある父さん。最後に会ったのが10年以上前だが、あの時の思い出が鮮明に蘇ってきた。


「父さん? 俺はこの先にあるルネール村のサガだ」


 考えてみれば父さんがこんなところにいるはずがない。そもそも記憶のままの姿であるわけがない。


「気づいたらこの場所にいて……ちょっと頭が混乱していたのかな」


 知らない土地、知らない人、そもそも見たこともない服装。刺激しない方がよい。


「そうか。このサムゲン大森林にいるってことは、お前もここに迷い込んだんだな。仕方ない、面倒を見てやる。ついてこい」


 サガと名乗った男は手招きをすると、村の方へと歩みを進めた。零は指でOKポーズを作って大丈夫だということを示してくれていた。


「ここは一体どこなんですか?」

「ああ、そうだな基本的なことは教えておかないとな。それと俺のことは父さんと呼べ、敬語も不要だ」


 サガはここが霊界であることを説明してくれた。僕や零たちが普段生活している世界を俗界と呼び、死んだ者が審判を受けた後に辿り着く場所なのだという。


「俺たちはここで精いっぱいの徳を積んで、生まれ変わりの準備を始めるんだ」

「それじゃあ、ここで徳を積めば来世で良い暮らしができるってこと? なら、ここはいい人だらけってことなのか?」


 サガは難しい顔をして答えた。


「悪いことをすれば地獄に落ちる。良いことをすれば天国に行けるって信じてるだろ」

「そうだね」

「じゃあ、天国に行くためにいいことをしようって考えるか?」


 確かに……そうは思っても”天国に行きたい”から良い行いをしたことはない。


「お前の顔に書いてある通りだ。どんなに徳を積んで生まれ変わっても、絶対にいい場所に生まれ変わるとは限らん。それに、ここでの記憶なんて持ち越せないからな」


 森の切れ目が見えてきた。どうやら村に到着したようだ。サガが立ち止まった。


「いいか、もう一度言うが俺のことは父さんと呼べ。絶対に俗界から来たことを知られてはならん。もしお前の家に“霊界から来ました”と人が訪ねてきたらどう思う?」

「この人、おかしいんじゃないか?」

「そうだな。ここでは敵として認識される。出生を聞かれたら必ずエンマと答えるんだ」


 サガは真剣な目をこちらに向けた。


「なんで僕にそのことを……助けてくれるの?」

「俺の趣味みたいなものだ。同じようなのがふたり、俺の家にいる。まぁ俺の気まぐれだ。とにかく余計なことは答えるな。俗界だの霊界だのは妄想の世界だとでも思っておけ」


 うなずくしか出来ない。サガが嘘を言っているとも思えないし、この世界は僕がいた世界とは明らかに違う気がする。


「これも覚えておけ。俺も俗界から霊界に迷い込んだひとりだ。昔、同じように助けてもらったんだよ」

「え、じゃあサガも日本の人?」

「さあな。俺はこの世界に来た時に、ほとんどの記憶を失っていたらしいからな」


 さっきまでの薄暗さとは打って変わって、強い日差しがとてもまぶしい。目を凝らした先には小さな村が広がっていた。


「……まじか」


 中世ヨーロッパの田舎。石畳の道、木組みの家、教会の尖塔など、写真でしか見たことのない世界が広がっていた。内心では墓地があった村のどこかにいるんじゃないかと思っていたが、その期待は見事に打ち砕かれた。


「おー帰ったかサガ。畑の方はどうだ?」

「今日は違うんだメザト。修行に出していた息子を迎えに行ってたんだ。ほら、挨拶しろ」


 メザトという男の顔には「疑っています」と書かれているようだった。


「奏多です。今日から父さんのところでお世話になります」

「お前さんはどこの出身だ?」


 さっきサガが言っていたのはこのことか……確か……。


「エンマです」

「そうかそうか、エンマなら安心だな。まぁこの村のやつらはみんな気心知れた仲間だ。敬語なんて使ってると街のもんだと思われるぞ。それで奏多(こいつ)には何をやらせるつもりだ?」


 サガは少し考えて答えた。


「まぁ、力量を見ていけそうならシズの手伝いをさせようかと。ダメそうなら畑かな」

「そうかそうか。まぁ畑の方がありがたいな。この村はアレで持ってるようなものだからな」


 メザトは「それじゃあ俺も畑に行ってくるよ」と笑いながら森の中へ入っていった。


「ああ言ったが、お前は当面畑をやれ。シズってのはお前の姉だ。あいつは村を守る警ら隊でな。森で食料を確保したり、魔獣や獣から村を守ったりしているんだ」

「魔獣? って……魔獣? ゲームとかの?」

「ゲームってのは分からんが、魔力を宿した獣のことだな」


 サガは簡単に説明してくれた。


「あくまで霊界だ俗界だというのは迷い込んだ者(おまえ)だから伝えただけ──」霊界の民はそんなこと気にして生活していないということを説明してくれた「──それと目の赤い生き物を見かけたら一目散に逃げろ」


 ざっと見た感じ、村は数十世帯程度だろう。サガに案内されるまま村の中を歩き、村長の家だとか集会所だとか案内されつつ自宅に着いた。


「ここが俺の自宅(いえ)だ。最近迷い込んだ子と、シズと妻と俺、お前が入って5人家族だな」


 最近迷い込んだの? もしかして……。


「最近迷い込んだのって椚って名前じゃないですか?」

「いや、レイナって名前だ。ちなみに妻はルーナだ」

「サガは結婚してるんだ」


 サガにパシリと叩かれた。


「父さんと呼べと言っただろ。助けてもらった恩人がいるって言ったろ。実は助けてもらった恩人ってのがルーナなんだ」

「子供はいないんですか?」

「ああ、自分たちの子供はいない。いろいろあって作らないことに決めたんだ」


 サガに家の中に入るように押された。中は田舎的中世ヨーロッパな外観通りの内装。石と木でくみ上げられた雰囲気の良い家である。


「帰ったぞ」

「おかえりなさいあなた……あら、その人は……また外の人?」

「ああ、外から来たのを拾った。悪いが面倒をみてやってくれ」


 サガは「いつも悪いな」と小さく呟くと、ルーナは優しく微笑んだ。


「それじゃあシズやルーナと同じように()()から始めないとね」


 取り出したのは分厚い本。押し付けたルーナはさらなる笑顔になって口を開いた。


「この霊界では言葉は通じるけど、読み書きは勝手が違うのよ。長年かけて分かりやすいようにまとめてあるから、しっかり勉強してね」


 梵字のようなハングルのようなアラビアのような不思議な文字が並ぶ。その横に日本語と英語の表記がされている。


《この本……魔力……もしかしてあのルーナって……》


「せっかくルーナが作ってくれたんだから汚すなよ。それとその本を他人には絶対に見せるな」


 汚すとどうなっちゃうんだろうという重圧(プレッシャー)が凄い。その後、僕は父さんから昼間は薬草の世話を命じられた。



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