第19話 新たな仲間と冷たい視線
「美乃里!!大丈夫か!!」
自分の家に辿り着いた俺は、大慌てで鍵を開け、中に入った。
バタバタと慌ただしい足音が二つ続く。二人目は大輔だ。
ついさっき怪人に捕まったばかりだというのに、また怪人がいるであろう場所まで一緒に着いてくる根性が凄いな。むしろ怪人に捕まったことで少し図太くなったのだろうか。
「美乃里!!」
ダイニングのドアを開けると、そこには椅子に座った美乃里と銀子が話し込んでいる光景が広がっていた。
……え?
いや待て待て!なんでこいつは怪人と話し込んでるんだ!?
凱の言い方だと、銀子は美乃里の命を狙っているようだったが……。
「あ!柊吾おかえりー!お!大輔もいるってことは、ちゃんと助け出せたんだね?」
「お、おう……。それはそうなんだが、お前は今誰と一緒にいるか分かってるのか?」
「誰って……銀子ちゃんでしょ?それがどうしたの?」
「いやそいつが怪人だから!クロゾーメ軍団の幹部だから!!」
なんて呑気なやつだ。敵の幹部と一緒にお喋りしてるなんて、ヒーローとして全く理解できん。
「え、そうなの銀子ちゃん?」
「え、知らなかったの美乃里ちゃん?私クロゾーメ軍団の幹部よ?」
「ええそうなんだ!でもその割にネイルには食いついてくれるよね」
「実はネイルって憧れだったのよね〜!お兄ちゃんがあんなだから心配で一緒にクロゾーメ軍団に入ったけど、別に私は黒髪にこだわりもないしオシャレもしたいから!」
ええ、そうなのか。こいつら、連携プレーで俺を追い込むつもりかと思ったけど、想像以上に連携が取れていないようだ。
「凱がお兄ちゃんってことは、君たちは兄妹なの?」
大輔が銀子に尋ねる。そういや凱と銀子の関係をちゃんと聞いたことは無かったな。
「そうだよ。正確には双子の兄妹ね。染髪マンと茶髪くんは知ってると思うけど、お兄ちゃん頭が弱い人だからさー、私がサポートしてあげないと何にもできないの」
酷い言われようだな……。銀子は凱の扱いに相当苦労してたみたいだな。
それにしても、なんで銀子は美乃里と話し込んでたんだ?そこが本当に意味不明だ。
「あ、私は幹部って言ってもお兄ちゃんとセットでなったみたいなもんでさ。正直クロゾーメ軍団に思い入れ無いんだよ。なんなら黒髪も飽きてきたし、軍団抜けて染めたいなーなんて思ったりして」
そんな感じなんだ……。なんか拍子抜けだな。
俺が今まで戦ったヘアマニキュアゾーメとカラーシャンプーゾーメは、明確に殺意を持って俺と対峙していた。でもこの銀子は、俺に対して殺意を見せていない。軍団に思い入れも無いと来た。こんなやつもいるんだな。
「でも、銀子の目的は俺を倒すことじゃなかったのか?こんなにラフに話してて良いのか?」
「ああ、良いんだよもう。私は軍団抜けるつもりだから。最近染髪マンのところに怪人を送り込んでたのもお兄ちゃんだし、私は何も恨みとか無いしね」
なんかえらくあっさりしてるな。ていうか怪人が現れる頻度が最近高かったのは、凱が送り込んでたからなのかよ!なんて迷惑なやつだ!
「なるほどねー!銀子ちゃんは軍団抜けても大丈夫な感じ?追われたりとかしない?」
大輔がさらに切り込む。俺もそこが気になってたんだ。あそこまで人間の命を脅かす存在であるクロゾーメ軍団が、幹部である銀子があっさり抜けることを許すとは思えない。叫ティクルを集めるのも銀子の仕事だろうし、怪人を送り込む立場のはずだ。
「あーそれはそうかもね。でもそうなったら戦うかなあ。私の場合は黒髪が1番!とかじゃなくて黒髪しか知らなかったっていうか……。単純に髪を染めるって発想が無かったんだよね。でも染髪マンの存在を知ってから、髪色ってこんなに自由で良いんだ!って思ってさ。だからもし追ってくるようなら迎え撃ってやろうかなって。その辺の怪人には負けないから!」
おお、なんか人が変わる瞬間を見た気分だな。
そうだよ、髪色なんて自由で良いんだ。人間は見た目で全てが決まるわけじゃない。不自由無く好きな髪色でいられた方が、無駄なストレスも無く生きていけると思うんだよ。
「でも、軍団を抜けたら怪人への変身能力は無くなったりしないのか?」
「あー、それは考えてなかったよ……。もしかしたらそうかもね」
「いや、そうなったら銀子は怪人に太刀打ちできるのか?生身だときつくないか?」
「うーんそうだねえ……。私もヒーローになれたら良いんだけどね……」
銀子からその言葉が発せられた瞬間、俺の耳はピクっと動いた。その言葉を待ってたんだ!
「銀子、君はヒーローに興味があるのか?」
金森さんと初めて会った時と同じように、銀子に尋ねる。
「え?そりゃこれからのことを考えたら私もヒーローだったら良いなとは思うけど……」
「よし来た!銀子、今から君を俺の行きつけの美容室に連れていってやろう!」
「え!?」
突然の俺の申し出にパニックになっている銀子の手を引き、俺は外に出ようとした。
「ちょっと待ってよ柊吾!銀子ちゃんをヒーローにするつもり!?」
美乃里が俺の背中に向かって大声を上げる。
「ああ、そうだけど何か問題あるか?どう見ても本人がクロゾーメ軍団に未練は無さそうだし」
「そうじゃなくて!銀子ちゃんより先にあたしを連れていくべきでしょ!?」
……は?こいつは何を言ってるんだ?
「前にも言ったじゃん!あたしも柊吾と一緒に戦いたいって!でもあたしはダメで銀子ちゃんは良いの!?なんでよ!?」
「いや、それは銀子が元々怪人で、戦い慣れてるから……」
「あたしだって!!戦える!!」
あまりの美乃里の勢いに面食らってしまう。え、なんでそんなに戦うことにこだわるんだ?
「あたしは……あたしは!柊吾に危険な目に遭って欲しくないの!守りたいの!」
「いや美乃里?どうした?」
俺の問いかけに美乃里はハッとした表情を浮かべ、顔を赤くして俯いてしまった。
「ごめん柊吾……なんでもないよ。行ってらっしゃい!」
「お、おう……?」
一体何なんだ?いきなり俺の家に引越して来たり、自分をヒーローにしろと言ってきたり……。最近美乃里のことが分からない。
「なあ柊吾、お前まじで気づいてねーの?」
「へ?何に?」
「あちゃー、こりゃダメだ!」
大輔も意味不明のことを言い始める。え、俺がおかしいのか?俺が何かに気づいてないみたいだけど、それが何か全く分からない。
「はあ……。大輔、これだから柊吾はさ」
「ああ、モテないんだよな」
「おい!!失礼だな!!」
二人して一体何の話だ?モテないとか言われるのは心外だぞ!?いや今までも散々言われて来たけどさ……。
「なるほど、そういうことなんだ。美乃里ちゃんの気持ちは分かるなあ。染髪マン、あんた鈍いってよく言われない?」
銀子までもが俺を責め始めた。え?やっぱり俺だけが分かってない感じ?
「あー柊吾。俺は今から美乃里ちゃんに話がある。お前は銀子ちゃんを連れて美容室に行くんだ」
「行くけどさ!何なんだよお前ら!」
「はい良いから良いから。あたしも大輔に話したいことあるから、さっさと行っといでー」
ええ……?俺が悪いみたいになってるのが気になるけど、とりあえず俺の今の仕事は銀子を金森さんに会わせることだ。切り替えて美容室に向かうんだ。
もやもやする気持ちを抱え、首を傾げながら銀子を連れて歩きだした。




