第12話 新たな力!染髪マンマッシュ!
岩場に囲まれた開けた土地。俺は一人で権藤教授を待っていた。
ほどなくして、権藤教授が姿を現す。
「君の方からやって来るとは、勇気があるじゃないか。今度こそ命の保証は無いぞ」
「望むところだよ。さあ、決着を付けようか!」
何故こうなったのかと言うと……。
時は3日前。俺は学生用のメールアドレスから権藤教授のアドレス宛にメールを送ろうとしていた。
目的はもちろん、権藤教授との再戦だ。
「これで良いかなっと」
「どれどれ?見せてみろよ」
大輔が俺のスマホを覗き込んでくる。特に隠す必要も無いので、俺は大輔が見やすいようにスマホを向けた。
そこに書いてあった文面は、
『To 権藤教授
件名:リベンジについて
本文:突然のご連絡失礼いたします。
文学部1年の染谷柊吾と申します。
先日は完膚なきまでに叩きのめしてくださり、どうもありがとうございました。
しかしながら私としましては敗戦が受け入れられず、リベンジをしたいと考えております。
つきましては、3日後の午後16時頃、Y市のはずれの開けた岩場にて再戦を申し込みたく存じます。
返信不要です。
お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。
文学部1年 染谷柊吾』
というものだった。
どうだ?こういうかしこまったメールは初めて作ったけど、なかなか丁寧に書けたんじゃないか?割と自信作だ。
「柊吾お前なあ……ほんと馬鹿だな」
ええ!?なんで!?ちゃんと用件は書いたし、敬語も使えてると思ったんだけど!?
「いや内容の方だよ!前も言ったけど、お前正直過ぎんだよ!こんなの送って他の教授とか学生に見られたらどうすんだ?」
「えっ!メールって他の人にも見られるもんなの?」
「授業でパソコンとモニターを繋げてたりしたら通知が来ちゃうかもしれないだろ!授業中にメッセージが来るハプニングなんかざらじゃん!」
そういえばそうだな。間違って教授がメールアプリを開く可能性もあるし、もしそんなタイミングで俺のメールが届いてたら色々都合が悪い。俺が染髪マンだってこともバレるし、権藤教授が怪人だってこともバレる。いや後者は俺にとっては別にいいんだけど。
「はあ〜もう、俺が書き直してやるからスマホ貸せ!」
「ええ〜、良いと思ったんだけどなあ……」
渋々スマホを大輔に渡す。
「こういうのはさり気なく気づかせるのが大事なんだよ。学生から教授へのメールで『リベンジについて』なんて書いてたら二度見するだろ」
そんなことを言いながらメールを書く大輔。コミュニケーション能力が高い大輔だから、授業についての質問とか言ってもう色んな教授にメールしたりしてるんだろうな。
「ほいできた!ほれ、見てみろよ」
そこに書いてあった文面は、
『To 権藤教授
件名:レポートの提出について
本文:お世話になっております。
文学部1年の染谷柊吾と申します。
権藤教授の授業で提出するレポートについて質問があり、メールにてご連絡差し上げました。
文章にすると長くなってしまいますので、ぜひ直接お会いしてお話させていただきたく存じます。
また、権藤教授が担当されている土地の歴史の授業について、教授にご報告させていただきたい場所がございましたので、そちらでお話をさせていただければ幸いです。
3日後だと比較的お時間がおありだと存じますので、16時頃に添付の場所にてお待ち申し上げております。
お忙しいところ恐れ入りますが、ご確認のほどよろしくお願いいたしします。
文学部1年 染谷柊吾』
というものだった。マップアプリから俺が教授を呼び出そうとしている場所の位置情報をペーストしてある。
「大輔、これなんだ?全然内容が違うじゃん」
「だから!そのままを書いたら良くないだろって!物分かりの悪いやつだなお前」
そんな言われる!?いやでも、こんなんで権藤教授が分かってくれるかなあ?
「そんなもんお前からメールで連絡して来た時点で察するだろ。内容なんて正直どうでもいいんだよ。ありのままを書かなければ、な」
そういうもんなのか?よく分からないけど、大輔がそう言うならそうなんだろう。
俺は首を傾げながら権藤教授にメールを送信した。
時は戻って現在。気の抜けたやり取りを披露したところだが、権藤教授と対峙する俺には緊張が走っていた。
「随分回りくどい文面のメールだったが、君からの連絡という時点で察したよ。せっかく命は取らないでおいてやったのに、自分から私を呼び出すとは……。命知らずとはこのことだな」
やれやれと首を振る権藤教授に対し、俺の中では怒りが燃え上がっていた。
俺はクロゾーメ軍団から人々を守るヒーローとして、幹部である権藤教授に勝たなきゃいけない。
簡単に人の命を奪おうとするこの軍団を放ってはおけない。
「世間話はここまでだ。権藤教授……いや、ヘアマニキュアゾーメ!覚悟しろ!」
「それはこちらのセリフだと思うが……まあいい、せいぜいそうやっていきがっているといい」
俺は櫛で一回髪の毛を梳き、腰にベルトが出現すると同時に櫛を高く掲げ、叫んだ。
「変身!染髪マン!」
俺が変身するのを見て、権藤教授はカッと目を見開く。すると黒い塊が教授を覆い、塊が弾けると共に教授の姿は怪人へと変わっていた。
「さあ、地獄に送ってやろう」
「あ、ちょっと待って。今髪セットしてるから」
そう言いながら俺は持参した鏡を見ながらワックスを髪に付ける。
「もしかして君は、ふざけているのかな?」
「そんなことねえよ!至って真面目だわ!」
ヘアマニキュアゾーメはため息をついて俺の方をじっと見ている。
そんな中で俺は髪をセットし終えた。金森さんの言った通り、最初に思いっきり髪を立ち上げてから放射状に振り下ろすといい感じのパーマ風マッシュになった。俺の髪質ってこんな感じにできるんだな。初めてくせっ毛で良かったと思ったかもしれない。
「よし、準備はできたぞ!さあかかって来い!」
「どこまでも自分勝手な奴だな君は……。まあいい、では遠慮なく行かせてもらおう!」
ヘアマニキュアゾーメは前回と同じようにゆっくり歩いてくるように見えて、物凄いスピードで俺の方へ近づいてくる。
だが、見える!今回は奴の動きを目で追うことができている!
櫛で殴りかかってきた奴の攻撃を、立ち位置を少し変えるだけで躱す。
「何!?何故見えている!?」
「前回とは違うってことだ!俺も成長すんだよ!」
その後もヘアマニキュアゾーメは櫛で連撃を浴びせてくるが、敢えて全て紙一重で躱して見せた。
「くっ……小賢しい真似を……!」
「なんだ、もう終わりか?ならこっちから行くぜ!」
俺はヘアマニキュアゾーメに向かってパンチを繰り出す。
雷を帯びた俺の拳は、奴の腹部に直撃。後ろにふっ飛んで行く。
「ぐああっ!!なんだこの速さは!?」
「パワーアップってとこだな。名付けて、染髪マンマッシュだ!」
岩場に打ち付けられたヘアマニキュアゾーメはゆっくりと立ち上がる。
「ふざけたネーミングだ……!」
再び攻撃を仕掛けて来るヘアマニキュアゾーメ。前回と同じように、ヘアマニキュアを発射してきた。しかし俺の髪は黒く染まらない。
「効かない……だと!?何をした!」
「ただワックスを付けただけだよ。油分たっぷりのな」
そう、俺の髪は今ワックスでコーティングされている。どんな仕組みかは知らないがこれも特殊なワックスらしく、ヘアマニキュアを完全に防ぐことができるのだ。
「小癪な……」
「うるせえ!人殺し軍団に言われたくねえよ!」
そう言うと俺はヘアマニキュアゾーメに向かって駆け出す。すると俺の体は電光となり、一瞬にして距離が詰まる。
俺は右の拳に全力で雷の力を溜め、振り抜いた。
「ふっ飛べ!ライジングストライク!」
俺は雷を最大限纏わせた拳でヘアマニキュアゾーメを殴り抜ける。
「ぐああああああ!!!」
再び岩場に向かって飛んでいくヘアマニキュアゾーメ。そのまま岩をぶち抜き、遥か彼方へと飛んで行った。
「やった……のか?」
呟くと同時に変身が解除され、俺はその場にへたり込む。
どうやら染髪マンマッシュの力を操るにはまだ体力不足だったようだ。
「はあ……はあ……やった……!やったぞ!」
力なく拳を突き上げた俺は、やけに青い空を見上げて微笑み、そのまま倒れ込んだ。




