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***歩夢視点。僕のことなんて――。

 23時。寝る時間になって、畳の上の布団に、入口側から怜くん、僕、悠生くんの順に並んだ。そして怜くんが明かりを消した。


 ぱちっ。暗くなると目の前に浮かんできた。さっき怜くんが言った言葉がはっきりと。


「歩夢は、俺がいなくても生きていけそうだな」


 ――僕は怜くんのいない人生は嫌だし、考えられないよ。


 僕と怜くんは、赤ちゃんの時から一緒にいる。ちょっと大きくなってからは人見知りだった僕に、いつも「遊ぼっ」て声をかけてくれたり、お菓子をいっぱいくれたりもした。大好きだったからいつも怜くんのあとについていって、追いかけていた。


 いないのを想像しただけで涙が出そうになる。だけどぐっと我慢した。我慢したからかな? 鼻がずんって痛くなった。


 もやもやもやもや、目を閉じながら怜くんのことを考える。


 今日だって、ホテルに着いてから悠生くんと一緒にスマホアプリでゲームをしていたけれど、怜くんのことずっと気になっていたんだよ。相変わらず怜くんはスマホばっかり見ていたけれど。


 しかも毎年「風呂行くか?」って聞いてくれるのに、今日は黙ってバスタオル持ってひとりで行っちゃうし。どうして一緒に温泉行ってくれなかったのか、お湯の中でずっと考えてた。一緒に温泉入りたかったよ。


 泣くの我慢していたら「うっ」って変な声を出しちゃった。


 怜くんの方から、がさがさって布団が擦れた音がした。立ち上がって移動した気配がする。


「ちょっと、いい?」って怜くんのいつもより低い声がして悠生くんが「はい」って返事をしていた。


 そんな会話が聞こえたから「えっ?」って思いながら薄く目を開けると、ふたりは窓側の方に行った。そして畳の部屋と木の床の部屋の境目にあったとびらを閉めた。


 なんでだろうと、僕の目が大きく開いた。



 秘密のはなしかな、聞かない方がいい? 


 するする会話がこっちに流れてきた。耳をふさごうか迷ったけれど、気になっちゃってじっくり会話に集中した。


「歩夢のこと、恋愛対象として好きなの?」


 怜くんが悠生くんに質問している。しかも僕のこと。


「好きです」


 すぐに悠生くんが答えた。


「はぁー」と怜くんがため息ついた。

 なんでため息ついたんだろう。怜くんが困ることひとつもないのに。


「園田先輩も、歩夢くんのこと好きですよね?」

「あぁ、好きだけど」


 今、好きって言ってくれたよね?


 嫌いじゃなかったんだ……。最近僕は怜くんに嫌われているのかな?って思っていたから、ほっとした。


「それは、恋愛相手としてですよね?」

「……」


 えっ? 悠生くん、なんてこと聞いちゃうの? 怜くんがそんなふうに僕のこと見ているわけないじゃん。何も言えなくなって困ってるよ。


 でもそれの答え、僕も気になるかも……。


「歩夢のことは……そういうのじゃなくて、弟みたいな存在だって思ってた……」


 そういうのじゃない――。


 怜くんと僕の好きは、違う。だって〝恋の好き〟を感じているのは僕だけなんだもん。知ってたけど、1ミクロンぐらい同じ気持ちだったらな。なんて考えていたのかもしれない。胸の辺りがずきんとした。


 直接、怜くんの声で違うって聞いた。怜くんとそんな話をしたことがなかったから、初めて聞いた。


 弟みたいでも嬉しいよ。

 でもなぜか涙がいっぱい出てきちゃったよ。


 悠生くんは、今お試しで僕たちが付き合っていることも怜くんに話してた。それは2年生になるまでの期間限定な話で、それから本格的に付き合うか、やっぱり付き合わないかを決めることも。それからふたりの声は小さくなって、こそこそしだした。僕も泣いてちょっと鼻水ずるずるしてたから会話が聞こえなかった。


 話が終わったみたいで、とびらが開いたから慌てて寝てるふりをした。




 旅行から帰ってきた。

 今回の旅行はいつもと違ったなぁ。寂しいことがいっぱいあった。


 でも、朝食バイキングの時にうれしいことがあって。8時半までバイキングのご飯を選べるんだったんだけど、結構ギリギリに朝ご飯会場のレストランに着いた。急ぐの苦手だからあんまりおかずお皿に盛れないなって思っていたら、怜くんが「飲み物準備して待ってな?」って、素早く僕の分を準備してくれた。


 しかもいつも朝食バイキングで自分が食べてたおかずばっかりだったから、僕が食べるおかずを覚えていてくれていたのかな?って。それがうれしくて、僕はにこにこしていた。



 帰ってきてからは怜くんと一緒にいる時間はなかった。最近は悠生くんと一緒にいることが多くて、悠生くんが家まで送ってくれるからか、塾が終わっても待っていてくれることもないし。


 話が全然出来てない。


 隣に住んでいていつでも会える距離なのに、もったいないな。




 あっという間に3月も過ぎていき。悠生くんとお付き合いのお試し期間が、あと2日。


 いつもみたいに悠生くんの家のベッドでゲームをして遊んでいる時だった。


「ねぇ、僕のどんなところが好きになったの?」


 悠生くんに質問してみた。4月から悠生くんとどうしたいかは決まりかけていたけど、本当にそれでいいのかな? どうしようかな?って考えていたら頭の中に浮かんできたこと。


 だって、悠生くんは中学で同じクラスの時もクラスの人気者だったし、カッコイイし。それに何でも出来て、僕にないものいっぱい持っててキラキラしている。きっとモテモテなのに、なんで僕なんだろう。


「なんでだろう……」


 悠生くんはスマホを見るのをやめてこっちを見つめてきた。


「中学の時、気がついたら歩夢くんのこと見るようになってて……目が合うとドキドキするようになって、それから……」

「僕を見てドキドキしてたの?」

「うん。でもね、告白するつもりはなかったんだ。歩夢くんの恋を応援する気持ちだってあった。でもね、悩み相談聞いてたり一緒に遊んでたりしていたら、ずっともっと歩夢くんと一緒にいたいなって思って。勇気を出して、告白しちゃった」


 悠生くんは黙ってずっと見つめてきた。

 見つめられすぎて困って、困りすぎて苦笑いした。


「そう、それ!」

「えっ?」

「歩夢くん、困ったらとりあえず笑うでしょ?」

「……笑うかも。どうしようってなりすぎて」

「それがきっかけかな?」


 悠生くんも微笑んできた。


 全く記憶になかったけれど、中学の時、僕たちが隣の席だった時に僕のことを可愛いなってずっと見つめてたら、僕が苦笑いしたらしい。


「ふふっ、本当にそれがきっかけなの?」

「本当だよ」


 微笑みながらずっと見つめてくる悠生くん。もう一回困って苦笑いすると、ぎゅってしてきた。


 温かくて、気持ちよかった。


「ねぇ、まだお試し期間で答え聞くのに早いけど、本格的に付き合って?」


 抱きしめられながら、僕は「うん」ってうなずいた。


 僕の予定では〝恋人の好き〟になれないから、断ろうかなって思っていたのに。おかしいなぁ。うなずいちゃった――。

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