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異世界式トレーニング

 周と青柳がアルディアス王国及びウィスニア大陸に迫る危機を退けるため、力を貸すと決めた翌日。


 二人はウィルバーに呼び出され、現在二人が召喚された儀式場に向かっていた。


「ねむ……もうちょい寝かせてくれても良かったんじゃねぇ? 朝早すぎだろ…」

「私も…昨日はあまり眠れなかった…」


 二人して大きな欠伸をしながら案内役の侍女についていく。

 目の前の侍女はリリアという名で、ウィルバーによって二人の身の回りの世話を任された人物である。


 二人を起こしに部屋に入ったリリアは、気持ちよさそうに眠る周を見ながら勢いよく布団を引っ剥がし、そのまま青柳の布団も勢いよく……ではなく優しく持ち上げ、半分に折り畳む。


 寝起きで頭がまだ冴えない二人に顔を洗うよう促し、その間に二人の着替えを用意する。

 二人の着替えを手伝い、身だしなみを整えてから二人を連れてウィルバーの所に向かっているというわけである。


 まだ朝早い時間なので王城に人は少ないが、それでも時々侍女達とすれ違う。

 彼女達はリリアと挨拶を交わしながらも、リリアが連れている少年少女を物珍しそうに見ていた。


 無理もない。二人は昨日この世界に来たばかりで、一昨日までは影も形もなかったのだから。

 見慣れない人物がいるというだけで彼女達の興味の対象になる。遅かれ早かれ話題に上るだろう。


 王城を出て儀式場に着くと、リリアにここから先は二人だけで行くよう言われ、二人はそのまま中に入っていく。


「おはようアマネ殿。ツバサ殿。……おや、二人とも眠そうだね」


 中で待っていたウィルバーは、まだ少し瞼が重い二人を見て苦笑する。

 そのウィルバーの隣には、黒いローブを纏った人物と、腰の高さほどの台に乗せられた水晶玉があった。


「二人共、早速で悪いがこの水晶玉に手を当ててもらっていいかね?」

「なんすかこれ?」

「これは魔水晶と言って、君達が持つ魔力の属性を調べるための物なんだ」


 ウィルバーによれば、この世界の生物は皆魔力を有しており、それぞれに適性のある属性があるという。

 その属性は炎、水、氷、雷、土、風、光、闇の八つに分かれており、魔水晶によってどの属性に適性があるかわかるらしい。


 適性のある属性によって魔水晶の色が変わるそうで、炎なら赤、水なら青、氷なら水色、雷なら黄色、土なら茶色、風なら緑、光なら白、闇なら紫に色が変わる。


 先に周が手を当ててみると、なんと八色全てに色が変わり、全ての属性に適性があることが判明した。


「なんと…、全ての属性が使えるとは…」

「それって珍しいことなんすか?」

「八属性全てに適性がある者は少ない。私は炎と風と光の三つの属性しか使えない」

「つまり俺は……選ばれた人間ってことか⁉︎」


 全ての属性を扱える人間は少ない。その事実を聞いて込み上げる感情を抑えきれず、拳を握りながら吼えた。

 勇者として召喚され、さらに全ての属性に適性があるという物語の主人公のような能力に周は舞い上がっていた。


 興奮状態の周をよそに青柳も魔水晶に手を当てる。

 すると魔水晶は白く眩い光を強烈に放ち、その場にいる全員が視界を手で覆った。


 やがて『パリン!』という音と共に光が収まり、青柳がおそるおそる目を開けると、そこにはひび割れた魔水晶があった。


 それを見た黒いローブの魔法使いは、


「光属性の魔力……それもこれほどまでに強力なものとは…」


 と漏らし、ひび割れた魔水晶を調べる。


「おそらくツバサ殿は光属性にしか適性がありませんが、それを補って余りあるほどの魔力量を秘めているのでしょう。そうでなければ、魔水晶が割れることなどありません」

「なるほど、器用万能なアマネ殿と光属性の一点特化のツバサ殿か。これは楽しみだな」


 先程の強烈な光ですっかり目が冴えた二人は互いを見つめ合う。

 魔法使いの話によれば生まれ持った魔力の量や、適性がある属性の数は人によって差があるが、それだけで強さが決まるわけではないという。


 魔力の量は鍛錬によって増やすことが可能であり、またどれだけ魔力量が多くても、魔力のコントロールができなければ魔力を無駄遣いすることになる。


「であれば、すぐにでも訓練が必要だな。アマネ殿とツバサ殿は、朝食の後に騎士団の訓練場に行ってもらいたい。騎士団長には私から話を通しておく」


 丁度一ヶ月後にアルディアス王国の建国記念式典があり、そこで勇者の存在を国民に公表し、式典の後すぐにミロ・セイス連合国軍と合流して調査に乗り出すそうだ。


 そのために少しでも力をつけてほしいと、これからの一ヶ月は訓練と座学、礼儀作法をしっかり叩き込むとのこと。


 地獄のような日々になると予想した周はあからさまに嫌そうな顔をするのだった。




 ◇  ◇  ◇  ◇




 朝食の後、リリアの案内で訓練場に向かった二人は、そこで騎士団長を名乗る人物に師事することとなった。


「私はオスカー・ハウルマン、この国の騎士団長を務めている者だ。陛下から話は聞いているよ。君達が勇者だね?」


 オスカーの問いに頷くと、一ヶ月後に向けた訓練の内容を伝えられる。


「まず君達にやってもらうのは基礎の基礎、自分の魔力を感じるところからだ」


 一番最初の訓練メニューは自分の中の魔力の流れを感じとること。これができなければ何も始まらないと、二人は早速訓練をスタートした。


 とは言っても、現代からいきなりファンタジー世界にやってきた二人にとって魔力は未知の感覚であり、そんなものが本当に体の中を流れているのかと疑問に思う。


 数十分はそうしていただろうか。眉間に皺を寄せながらうんうん唸っていた周だが、一瞬、自分の中に違和感を感じたような気がした。


「どうだ? 魔力を感じとれたか?」

「気のせいかもしれないけど、一瞬何かを感じたような…」

「それでいい。その感覚を覚えておくんだ」

「うっす」


 気のせいだと思った感覚を忘れないうちに、周はより深く意識を集中させる。

 すると、体の中を水のように絶えず流れる、今まで感じたことがない感覚を味わった。


 これがおそらく魔力というものなのだろう。

 この世界の全ての生命が持つ純然たる力。その力が自分の中にも流れていると思うと、なんだか気持ちが昂ってくる。


「これが…魔力…」


 青柳のほうも魔力を感じとれたようで、表情にこそ出さないが込み上げるものがあるのだろう。目の奥が水面に反射する陽光の如く輝いている。


「自分の中の魔力は感じられたか? では次のステップだ」


 次の訓練は自身の魔力を自在に操る魔力操作の訓練を行う。

 その内容は、体の中を流れる魔力を引き出し、その身に纏うといういたってシンプルなものだ。


 だが、これがなかなか難しい。

 魔力を感じとれたはいいものの、常に体内を巡っている魔力を制御し、且つ適切な量の魔力を引き出して身体に纏うというのはかなりの集中力を要する。


「あ、できた」

「えっ⁉︎」


 苦戦する周の横であっさりやってのけた青柳。その余りの早さに周は思わず首を痛めるほどの勢いで振り向き、そして首を痛めた。


「どうやったんだ? 青柳」


 涙目になりながら首をさすり、あっさりクリアした青柳にアドバイスを乞う。


「んーとね、魔力を溜めておくダムみたいなのがあって、そこから必要な量の魔力を引き出すんだ」


 つまり、その魔力のダムが全身に流れる魔力の量を調節しており、そこから少しずつ魔力を引き出すということらしい。


 青柳から受けたアドバイスを元に魔力のダムをイメージし、少しずつ全身を循環する魔力を増やしていく。

 だが、却って魔力の流れを速めてしまい、制御が追いつかなくなっていく。


「え………あ………」


 このままではマズいと脳が危険信号を発しているが、パニックに陥った周ではどうすることもできない。放っておけば水道管が破裂するかの如く魔力が全身から噴き出してしまうだろう。


「ふっ」


 その時、オスカーが手刀で周を気絶させ、意識を失った周はばたりと倒れる。


「光井君⁉︎」

「大丈夫、気を失っているだけだよ」

「あの…一体何が……」

「彼はおそらく魔力を引き出すスピードが速すぎたんだ。それで段々制御が効かなくなり、暴走する寸前までいってしまった」


 ああなっては命に関わるため、やむなく気絶させたのだという。

 周が無事だと知って青柳は胸を撫で下ろすが、自分のアドバイスのせいで周が焦ってしまったのではないかと感じてしまい、表情が翳っていく。


 しかし、本来なら魔力操作の訓練は少しずつ時間をかけてやるものであり、一日二日でできるものではないのだ。


 それを僅か一ヶ月で実戦で使えるレベルにしろというのだから、とんだ難題を押しつけられたものだとオスカーは嘆息する。


「この仕事が終わったら休みを取らせてもらいますよ、陛下」




 ◇  ◇  ◇  ◇




「勇者の召喚か…」


 勇者召喚に立ち会った魔法使いから召喚に成功したことを聞かされ、書類にサインをしながら青年は面白くないという顔をする。


「父上は本当にミロ・セイス連合国の件を勇者に任せる気でいるのか?」

「はい、今日からそのための訓練を始めたと。一ヶ月後の式典で国民に勇者の存在を公表したのち、連合国の者と合流するとのことです」


 サインを終えた書類を整理し、首をコキッと鳴らして立ち上がり、棚から茶葉を取り出す。


「そのうちリチャード殿下にも訓練を手伝っていただくことになるかと」

「たった一ヶ月でどうにかなるとでも? 父上も一体何を考えているのやら」


 リチャードと呼ばれた青年は茶の準備をしながらため息を吐き、その様子を見た魔法使いは怪しげな笑みを浮かべる。


「いかがいたします? 殿下」

「何をだ?」

「我らなら、殿下の懸念を拭ってあげられますが」

「…どういう意味だ」


 魔法使いはリチャードにひそひそと耳打ちし、魔法使いの提案を聞いたリチャードは眉を顰める。


「…本気か?」

「勿論です。陛下には悪いですが、大義のためなれば仕方のないこと」

「……フン」


 父ウィルバーが勇者の召喚を決意した時は何を血迷ったのかと思ったが、成功してしまった以上は受け入れるしかない。

 だがそれはあくまで理屈での話。感情では簡単には受け入れられない。


 勇者などに頼らずとも自分達ならば解決できる。以前ウィルバーにそう意見したこともあったが、勇者に任せると却下されてしまった。


(…どうせこいつらの入れ知恵だろうな)


 何故そこまで勇者の召喚にこだわるのか、それはこの魔法使い――いや、学院長が何か吹き込んだに違いない。


「父上に伝えろ。俺は俺で勝手にやらせてもらうとな」

「承知しました、殿下」


 午後の訓練を行なっている見慣れぬ人物を窓から眺めながら、リチャードは用意した茶を一口飲む。

 学院長が退室したのを確認すると視線で合図を送り、そこに現れた人物に命令する。



「連合国の様子を探ってこい。それと、式典に備えておけ」



遅くなって本当に申し訳ありません。反省してます。

次はなるべく早く投稿したい…


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