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勇者召喚の目的

 王城の応接間にて、三人の人物がテーブルを挟んでソファに腰掛けていた。


 ウィルバーは侍女が淹れてくれたお茶を一口飲み、青柳はお茶を飲みながらもウィルバーや侍女の様子を伺い、周は忙しなく周囲を見回していた。


 王城の中を歩いている時も思ったが、ここが漫画やゲームの世界ではなく現実だということに驚きを隠せない。

 先程見た魔法といい、本当にファンタジーの世界に来たのだと思うと胸が高鳴ってくる。


「さてと、そろそろ話を始めようか」


 沈黙を破ったウィルバーの言葉に二人は姿勢を正す。


「我々が何の為に勇者を召喚したのか。それを話す前に、まずはこの国の地理について軽く説明させてもらいたい」

「それは、私達が召喚されたことと関係があるのですか?」

「左様。まずはこれを見てほしい」


 そう言ってウィルバーは懐から地図を取り出し、二人の前に広げる。

 そして地図の西部に位置する大陸を指差す。


「この西側にあるのがウィスニア大陸。我が国が存在する大陸だ。そしてアルディアス王国はこの大陸の南東部に位置する」

「結構大きいんだな」


 大陸の形状としては元の世界のグリーンランドに近いだろうか。尤も、寒冷な気候ではなさそうだが。


 そのウィスニア大陸にはいくつか国があるが、その中でも特に面積の広い国が三つある。その内南東部にあるのが、ここアルディアス王国という訳だ。


「我が国の北部に四つの小さな国があるだろう。ここはミロ・セイス連合国というのだが、実はこの連合国からとある相談を受けてな」

「相談?」

「うむ。その内容というのが、少々厄介でな…」


 ウィルバーの話によれば、四つの小国からなるミロ・セイス連合国の領内で違法な薬物が出回っているらしく、それに対処するために国力で勝るアルディアス王国に協力を要請したとの事である。


 だが本来なら自国で解決できる事案であり、事実連合国は違法薬物を貴族や平民に売りつけていた商人を検挙し、取り調べの末に留置所送りにした。

 さらに商人が所有していた違法薬物を押収し、国内での流通を厳しく取り締まったことで事件は解決したかに見えた。


「しかし、事はそう単純ではなかったのだ」


 留置所での取り調べにて、件の商人が別の人物から薬物を購入し、それを国内で売り捌いていたことを話した。

 取り扱っている物が違法であることを除けば商人としては普通のことなのだが、問題なのはその取り引き相手だった。


 その取り引き相手もまた、別の誰かから購入し、商人に売っていたことが判明した。


 つまり、今回捕らえた商人は末端であり、流通ルートを一切知らなかったのだ。

 どうやら取り引き相手から『命が惜しければ余計な詮索はするな』と脅されていたらしく、用心棒のただならぬ殺気もあって従うしかなかったのだとか。


 彼は本来は真っ当な商人だったのだが、怪しげな人物と関わってしまったがために犯罪の片棒を担がされた、というのが今回の真相である。


「その人の処遇はどうなったんですか?」

「被害が出ている以上流石に無罪放免とはいかないが、情状酌量の余地ありとして多少刑が軽くなるそうだ。あくまで多少だがな」

「でも根本的な解決はしてないですよね? 流通ルートも結局わからずじまいだった訳ですし…」

「だからこそ連合国は我々に協力を求めてきたのだ。事は連合国だけではない、大陸全土に被害が及ぶ可能性がある」


 そうなっては一国で対処できる問題ではない。故に連合国は大国と呼ばれるアルディアス王国を頼った。

 勿論アルディアス王国だけでなく周辺の国々にも協力を呼びかけているが、必ずしも協力してくれるとは限らない。


「じゃあ、俺達を召喚したのはそのため…?」

「いや、それについてはまた別の理由がある。そちらはまた後で説明するとして………ああ、そうだ。まだ君達の名前を聞いていなかったな。君達の名前を教えてくれないか?」


 そういえば自己紹介を忘れていたことを二人は思い出す。


「光井周です」

「青柳翼です」

「アマネ殿にツバサ殿。勝手に召喚しておきながら手前勝手なのは重々承知しているが、この国に忍び寄る脅威を、共に打ち払ってはくれないだろうか!」


 椅子からゆっくり立ち上がって頭を下げるウィルバーに二人は困惑する。

 無理もない、一国の王が目の前で頭を下げているのだから。二人と一緒に目撃した侍女に必死に止められているがウィルバーは意に介さない。


 二人にとってこの世界は今日来たばかりで何の義理も情もない。手を貸す理由などどこにもないのだ。

 しかし国のトップにここまで誠意を見せられては無下にはできない。


「顔を上げてください。国王陛下」


 椅子から立ち上がった周がウィルバーに手を差し伸べる。


「ちょっ、光井君⁉︎」

「ここまでされて断れるかよ。それに、困っている人を助けるのが勇者ってモンだろ」

「…わかりました。私にできることなら、頑張ります」


 青柳も立ち上がって手を差し伸べ、ウィルバーは二人の手を握りながら感謝を伝える。


「ありがとう…、アマネ殿、ツバサ殿」


 こうして、光井周と青柳翼の異世界ライフが始まったのだった。




 ◇  ◇  ◇  ◇




 同刻、とある廃墟にて。


「どうかしましたか?」


 空色の髪と瞳を持つ少女、ソニアが灰色の髪をオールバックにした高年男性に尋ねる。

 先程妙な気配を感じたといってソニアをはじめとしたメンバーを集めたのだが、正直ソニアは半信半疑だった。


「この前も帝国に勇者が現れたなんて言ってましたけど、結局見つけられませんでしたよ?」

「ジジイだから耄碌してんだろ」

「口を慎みなさい。主への暴言は私への暴言と受け取るわよ」

「へいへい、すいやせんでした」


 見るからに軽薄そうな蒼い髪の男と、白亜の法衣に身を包んだ金髪の女性の言い争いをよそに、高年男性は口を開く。


「この世界に勇者が召喚された。場所はアルディアス王国」


 それだけ伝えるとゆっくりと椅子に腰掛ける。


「…おいジジイ、またソニアに行けって言うんじゃねえだろうな? アルディアス王国っつったら帝国の隣だろ」


 彼の言わんとすることはわかる。帝国の勇者を見つけられなかったソニアが、今回召喚された勇者を見つけられるとは思えない。


「此度の件、ソニアに一任する。アルディアス王国に召喚された勇者について探れ。もし勇者がこの世界に甚大な被害を齎す存在なら、お前の手で始末しろ」


 蒼髪の男は明らかに不機嫌な態度になり、ズボンのポケットに手を突っ込みながら高年男性に近づく。

 その胸倉を掴まんとする勢いに金髪女性が割って入る。


「おいジジイ、俺の話聞いてたか?」

「主の決定に異を唱えるつもり? 不満があるなら私が相手になるわよ。――それよりソニア、貴女も何か言ったらどう?」


 金髪女性が先程から黙っているソニアに発言を促す。

 蒼髪の男の怒りが沸点を超える前にソニアが彼を納得させる返答をしなければ、この廃墟はおろか周囲が焦土と化すかもしれない。


「そうね、もし今回私がしくじったら、その時は殺して構わないわ。除名処分じゃ貴方は納得しないでしょ?」


 失敗した場合の処分として自らの命を差し出すソニアに蒼髪の男の口元が歪む。


「そいつぁ面白ぇ! 俺の前で殺していいと言った以上、取り消すことなんてできねぇぞ?」

「そんなことしないわよ。…まあ、黙って殺されはしないけど」


 蒼髪の男は下卑た笑みを浮かべながら廃墟を後にし、ソニアは金髪女性に途中まで送ってもらうことにした。

 ただ一人廃墟に残った高年男性は椅子に座ったまま、誰もいない空間に向かって話しかける。


「…やはりあの時、お前の望み通りにしておけば、こんなことにはならなかったのだろうな」






「いつか必ず、異界の魔法師(ゼノウィザード)にたどり着く者が現れる。それまで待っていろ。アルカナの王……いや」






「始まりの勇者よ」

まだ主人公ピンピンしてるけどいつか絶対ボロボロにさせる。させるったらさせる。


少しでも面白い!続きが読みたい!と思った方は評価・ブックマークをよろしくお願いします。


作者のモチベが上がります。多分。

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