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村に潜む闇

そろそろ物語が動きます。

 王国軍が砦に到着した翌日、組織の拠点を潰すべく王国軍と連合国軍の混成部隊が砦を出発した。


 周と青柳はリチャードが率いる部隊に配属され、斥候部隊が交戦した場所へと向かう。

 リチャード隊のメンバーは隊長であるリチャードと初花、王国軍の魔法師団三人、連合国軍から五人、それと周と青柳の十二人で構成されている。


 これが初陣となる周と青柳をフォローし、且つ作戦の成功率を上げる為に戦闘経験豊富なメンバーで固めたのが今回の部隊だ。


 即席の部隊でどこまでやれるのか、二人の勇者が無事に初任務を終えられるのか、正直不安は尽きない。

 それでも今は自分にできる最善を尽くすのみ。結果なんて誰にもわからない。まさに神のみぞ知るというやつだ。


 砦を出発しておよそ半刻、一行は小さな村へ辿り着いた。おそらく数十人程度の人口と思われるその村の近くで組織の人間と思しき人物が目撃されたとの情報があり、警備と情報収集を兼ねて立ち寄ったのだ。


「これはこれは騎士様。このようなところへ何の御用ですかな?」

「このあたりで不審な人物を見かけなかったか? 些細なことでも構わない。たとえば、怪しい薬を売りつけてくるとか…」

「怪しい薬…ですか。そう言えば、一ヶ月ほど前になりますか。交易で訪れた商人が、新商品だという薬を持ってきていましたな」

「本当か⁉︎」

「ええ。別に病人はいませんでしたし、薬や包帯も足りていたので受け取らなかったのですが…」


 村長らしき老人によれば、その商人に怪しいところは特になかったという。

 薬物による被害がなかったのは幸運だ。


 だが、取り締まったはずの薬物が再び出回っているということは、内部犯が存在することの証左である。


 連合国の誰かが警備の情報をリークし、手引きしているとするならば、今この場にいる人間の中に内通者がいる可能性がある。


 あまり疑いたくはないが、軍の人間なら警備の状況は把握しているだろうし、検問を口実に薬物を手に入れることもできる。


 もしそうなら、国家への明らかな背信行為だ。


「――よし、キサラギとアマネとツバサはここで待機。私は奴等の足跡を辿る」

「殿下一人で大丈夫ですか?」

「もちろん何人か連れて行く。もし何かあれば発煙筒を焚いてくれ」

「わかりました。ですが、無理だけはしないでください」

「ああ、では行くぞ」


 リチャードは半分の兵を連れて村を発つ。

 残ったメンバーは初花、周、青柳に加えて魔法師団の魔法使い一人と連合国の兵二人だ。


 その連合国の兵からは友好的ではない視線を感じる。隻腕の騎士が一人、子供の騎士が二人と、事情を知らない彼等からすればナメているとしか思えない面子だ。


 リチャードが信を置くなら隻腕のほうは腕が立つのだろう。だが子供のほうはどう説明するつもりなのか。

 二人はどう見ても実戦経験のない素人だ。こんな使えない人材を寄越すとは、アルディアス王国はよほど悠長に構えているようだ。


「あの…初花さん、なんか…アウェー感がすごいんスけど…」

「うぅ…なんか胃が痛くなりそう…」

「たしかに、向こうさんからはあまり歓迎されてないみたいだねぇ」

「俺達、殿下と一緒に行ったほうがよかったんじゃ…」

「光井君、たぶんどっちでも同じだと思うよ…」


 リチャードが初花達を待機させたのは、村に組織の魔の手が及ばないよう見張る人間が必要だからだ。

 とはいえこちらが動き始めたことで組織も慎重になっているだろう。それでも万が一ということもある。


「騎士様、お茶でもいかがですか?」

「あ、ありがとうございます」


 周と青柳がそわそわしているのに気づいたのか、村長がお茶を用意してくれた。

 フルーティな香りのお茶だ。おそらくリラックス効果があるものだろう。それだけでなくお茶菓子も振る舞ってくれた。

 見ず知らずの人間を気遣ってくれるなんて、きっとこの村の人達は皆心が温かいのだろう。


「はぁー……」

「ああ、マジで美味いよなこれ」

「おわぁ⁉︎ だ、誰⁉︎」


 いつの間にか周の隣に謎の男が座っていた。

 それも一人ではなく二人だ。


「おおビリー、ギリー、帰っていたのか」

「久しぶりだな村長。少し見ないうちに老けたんじゃねえか?」

「おう、生え際が以前より後退してるぜ」

「余計なお世話だ」


 ビリー、ギリーと呼ばれた男達は村長と屈託ない会話をしている。

 この二人はこの村の出身で、仕事か何かで村を離れていたのだろう。そして今日久しぶりに顔を見せにきたらしい。


「ああそうだ。実は村長に土産があんだ」

「ほう、何かな?」

「これだよ」


 二人が懐から取り出したのは何の変哲もない小包だ。だがそれを見た連合国の兵の顔つきが変わる。


「おい、それをどこで手に入れた?」

「なんだよ兄ちゃん。こいつは、何か持ってちゃまずいモンか?」

「ああ、それはここ最近国内で出回っている違法薬物の小包によく似ている。悪いが確認させてもらう」

「人聞きがわりぃな。俺達がその違法薬物を持ってるってのか?」

「その疑いがあるというだけだ。それとも、疾しいことでもあるのか?」

「…ほらよ」


 二人は渋々小包を渡す。

 その中には深緑色の小さな球状の物が四つ入っていた。

 聞いていた薬物は粉末タイプだったのでどうや勘違いだったようだ。


「すまない。我々の早とちりだった」

「いいんだよわかれば」


 小包をひったくるように受け取り、そのまま懐にしまう。

 ギリーとビリーは不機嫌そうな表情のまま村長の家に入っていった。




 ◇  ◇  ◇  ◇




「どういうことだテメェ。軍の連中を呼びやがって、国に救難信号でも出したか?」

「ち、違う! 彼等は私が呼んだわけではない!」

「どうだかな。俺達の目を掻い潜って助けを求めた可能性もあるだろ」


 村長が自宅で二人に詰め寄られる。

 ギリーとビリーがこの村の出身なのは紛れもない事実だが、その正体はユグドラシルの構成員だった。


 今から二ヶ月ほど前に二人は故郷の村を訪れ、村を組織の監視下に置くと宣言した。

 当然村人達は反発したが、そのうちの三人が殺され、二人が例の薬物の餌食となってしまった。


 自分達に逆らったり国に通報したりしなければ危害は加えないと言われ、村長は二人に屈するしかなかった。

 それからは時折組織の息のかかった商人が訪れるようになり、何か妙な動きをすれば商人から組織に報告がいく為、助けを呼ぶこともできない。


 とはいえ四六時中監視しているわけではなく、基本的に村人達の生活には干渉してこない。

 定期的に薬物を広めるという指示さえ守れば特に自分達に被害はないが、犯罪に加担しているという事実には後ろめたさを感じている。


「そんなことよりよぉ村長。村から一人か二人若ぇのが欲しいんだけどよ。なぁギリー」

「ああ、この前重要な任務をしくじって処刑された奴がいてな。その代わりを補充しようと思ってたんだ」

「そこで、この村の人間を使おうって話になったんだよ」

「ま、待ってくれ! 村の皆は私の家族同然! 私の愛する家族を引き離さないでくれ!」


 村人を連れて行こうとする二人を村長は必死に止めようとする。

 だが目の前にいる二人は犯罪組織の一員。情に訴える手が通じるはずもない。


「知ったこっちゃねぇな。てか、これでも譲歩してるんだぜ? その気になればテメェら全員奴隷にすることだってできるんだからよ」

「そ、そんな…」

「組織の末席に加わるか、それとも人間以下の存在になるか、二つに一つだ」

「せ、せめて考える時間をくれないか? 私から皆に事情を話すから、せめてそれまでは…」


 猶予をくれないかと懇願する村長の姿に、二人はますます苛立ちが募っていく。


「おい、自分の立場がわかってんのか? テメェらは組織(ウチ)に目ェ付けられた時点でもう逃げられねぇんだよ。なぁビリー」

「おうよ。ユグドラシルを敵に回すことがどれほど恐ろしいことか、まだ理解できてねぇようだな」

「それにこんな小さな村が滅んだところで誰も気に留めやしねぇよ。今日来た軍の連中だって、まさか村全体が組織とグルだとは思ってねぇだろうさ」

「だからここで決めろ。今決めろ。命が惜しいならな」

「わ、わかった…」


 村長は拳を握りしめると勢いよく家を飛び出し、外で待機している騎士に助けを求めた。


「騎士様! 騎士様!」

「「なっ……」」


 慌ててギリーとビリーも飛び出し、村長に制裁を加えようとするが、何かを察した連合国の兵が間に割って入る。


 とても穏やかな雰囲気とは思えない様子に兵は怪訝そうな顔をし、村長に尋ねる。


「これは一体どういうことかな? 村長殿」

「あの二人はユグドラシルの一員です! 私達は奴等に脅されて、計画に協力させられていたんです!」

「…まあ、詳しい話は後で聞かせてもらうとしよう。まずは彼等を捕らえるのが先だ」


 それを聞いた二人は爆笑した。

 こいつらはまさか本気で自分達をどうにかできると思っているのか。


 確かに二人で六人を相手にするのは厳しい。が、何も全員を纏めて相手する必要はない。

 それに向こうは村人を守りながら戦わなければならないが、こっちはどれほど被害が出ようと知ったことではない。


 村長がこちらを裏切った以上、生かしておく必要はない。使えそうな奴は奴隷にして、それ以外は死んでもらおう。


「そんじゃ、いっちょやるかビリー」

「おう、ひと暴れといこうぜギリー」


 ギリーは左手を正面に翳し、雷の魔力球を生み出す。だがそれを発射せずに握り潰し、拳に雷を纏わせた。


 連合国の兵は咄嗟に剣を抜いて風の魔力を纏わせ、雷を纏った拳と風を纏った剣が勢いよくぶつかり合う。

 凄まじい衝撃波が発生し、村長はもちろん、周と青柳も踏ん張れず吹き飛ばされてしまった。


 もう一人の連合国の兵も加勢しようとするが突然視界がふらつき、倒れてしまう。


「何⁉︎ どうしたの⁉︎」


 初花が倒れた兵を起こすと、首筋に小さな針が刺さっていた。


「これは…」

「そいつは俺の痺れ針だ。針に麻痺性の毒が塗ってあってな。食らえばしばらくは動けねぇぜ」


 ビリーが右手に装着している籠手を触りながら解説する。

 おそらく拳を握る動作をすると針が発射される仕組みになっているのだろう。


「いいよ、私が相手をしてあげる」


 抜いた剣をビリーに向け、初花は戦闘態勢をとる。

 ビリーも二振りのダガーを取り出し、それぞれ順手と逆手で持つ。


 初花は体勢を低くすると勢いよく踏み込み、一気にビリーの眼前まで到達する。

 しかしビリーもそのスピードに全く動じず、横薙ぎの斬撃をダガーで受け止めた。


「見た目によらず重い一撃だな。だが片腕でどこまでやれるだろうなぁ?」


 初花の攻撃を容易く防ぎ、ビリーはニヤニヤと笑う。その下卑た表情に初花の雰囲気が変わる。


「女なのに、隻腕なのに、そんなのはうんざりするほど聞いてきたからね。だから実力で黙らせてきた。それは今回も同じことだよ」


 一旦距離を取った初花は身体強化を発動し、今度は真っ直ぐ剣を突き出す。


「ハッ、そんな単純な攻撃が通用するわけ…」


 ビリーは余裕の表情で躱すが初花は即座に右足を軸に身体を回転させ、斬撃へと派生させる。

 それに気づいた時には遅く、ビリーはダガーを真っ二つにされてしまった。


「なっ…」

「終わりだよ」


 武器を失って動揺するビリーを一瞬で斬り捨て、刃に付着した血を振り落とす。


 初花の戦いぶりを見ていた周と青柳は開いた口が塞がらなかった。

 隻腕というハンディキャップを負ってなお、騎士団に所属する彼女の実力の片鱗を目の当たりにしたのだから。

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