15-41.俺たちのこれから
「これが、僕のランドセル……」
「そう! 早く背負って!」
「わ、わかった。格好いい……」
箱から取り出された真新しい黒いランドセルを、少年姿のラフィオは目を輝かせて見つめていた。
怪物騒ぎに多大なる貢献をしたラフィオを市長は大きく評価して、彼に戸籍を与えることを表明した。
これで、異世界から来た妖精が正式に模布市民となったわけだ。
住民票やマイナンバーカードも発行されたぞ。氏名は「双里ラフィオ」だ。一応俺の家の子という扱いになるし、世間に覆面男として知られた俺の名字を使った方が都合がいい。
つむぎは魔法少女だという事実を世間に知られてないからな。ラフィオもつむぎも、御共姓にしたかった気持ちはあるだろうけれど、それへの変更は将来的に行われることになるだろうな。
というわけで、ラフィオの年齢を鑑みて、春から小学六年生としてつむぎと共に学校に通うことになった。
だからランドセルが必要というわけだ。
隣に住む家の住人ということで、ラフィオは御共夫妻に挨拶をした。自分が魔法少女の妖精であることも含めて。
俺たちが魔法少女関係者であることは明かされてるから、大して驚かれなかった。つむぎ自身が魔法少女なことは伏せていたのもあるし。
これを明かすのは、もう少し後でいいだろう。
娘に彼氏が出来たことの方が、驚いているようだった。
全体的に色素の薄いラフィオだけど、黒いランドセルはよく似合っていて。
「うん! 格好いい! すごく格好いいよラフィオ! えへへ。一緒に学校行くの楽しみだね!」
「あ、ああ。そうだね。楽しみだ」
本人よりもテンションの高いつむぎが手を取ってはしゃぐのを、ラフィオもまた幸せそうに見つめていた。
怪物騒ぎが収まった後も、魔法少女たちは全員俺のマンションに住んでいる。
住む家が無いアユムはともかく、遥にその必要はないのだけど。俺と一緒に住むアユムを牽制するためだったわけで、正式に付き合うことになった今となっては無用の警戒だと思うのだけど。
「まだまだ油断はできません! お姉さんは悠馬にべったりだし! アユムちゃんも隙あらば悠馬を取ろうとするかも!」
「馬鹿! 取らねえよ!」
「ほんとにー?」
顔を赤くしながら否定したアユムに、遥は意地の悪い笑みを浮かべて尋ねる。
けどアユムも本当にそう考えているわけで。
「遥が自分から身を引くとか、そんなことしない限りはオレは動かねえよ。オレもなんか、自分の幸せを見つける」
「ほうほう。それはどんな? 彼氏を探すとか?」
「勉強する」
「べっ!?」
「受験生だからな。しっかり勉強していい大学入って、そこでもちゃんと知識を身に着ける」
「な、なんでそんなことを……?」
「この街に来て、いい場所だって思ったから。都会だからじゃなくて、この街が好きになった。だから、ここをもっといい街にするために働きたい。それがオレの目標だ」
「……く」
「く?」
「くあぁっ! アユムちゃんが眩しい! なにこれ! ちゃんと人生の目標があって羨ましい! 羨ましいんだけど! なんか負けた気がする!」
「勝ち負けの問題なのか……?」
首を傾げるアユム。まあ、立派なのは間違いない。
とはいえ遥だって、目標はしっかり持っていて。
「じゃーん! 義足で外に出ていいよって許可をもらえました!」
翌日、遥が足に義足をはめて帰ってきた。
病院でのトレーニングが一段落して、ついに義足での生活がスタートする。
とはいえ、まだ外に出るのは慣れない。病院からここまでの移動も、遥の母親の運転によるものだし。
「慣れないうちは、まだまだ車椅子とか松葉杖とかも使うけどね。だんだんと慣れていくことにします。というわけで悠馬!」
「なんだ?」
「今度の週末、デートに行きましょう! 義足に慣れるために街を歩きます!」
「ああ。いいぞ。行こう」
「やったー! 早くこれを使いこなせるようになりたいんだよねー。次は競技用義足だから。片足アスリートになって、目指せパラリンピック!」
遥も自分なりに、己の夢を追いかけている。立派じゃないか。
そんな風に、それぞれ生活に変化があったり夢を追いかけたりする中で、こいつだけは変わらなかった。
だから俺は、今日もフライパンとお玉を手に部屋へ行く。
「むにゃむにゃ。うへへー。ゆうまー」
「起きろ」
「ぎゃあああああああ!?」
なにやら幸せな夢を見ていたらしい愛奈を強制的に起こす。
「な、なによ悠馬!? 夢の中ではあんなに優しかったのに!」
「現実を生きろ会社に行け」
「やだー! 会社に居づらいです! なんかみんな気を遣ってるし! 魔法少女だってみんな知ってるのに、あえて口にしない感じ! 実際にあの会社にいたら! いたたまれないの!」
「みんなの優しさなんだろ」
「優しさが痛いの! 休みたいー!」
まったくこいつは。毎朝こんなのなんだから。
「なあ姉ちゃん」
「なに?」
「姉ちゃんは、永遠に俺の姉であり続けるって言ったよな」
「ええ! わたしは永遠に悠馬のお姉ちゃんです!」
「だったら俺も永遠に、この起こし方をすることになる」
「えっ」
カンカンカンカン。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! やめっ! やめて! それは嫌! お慈悲を!」
「ちゃんと起きられたらやめてやる」
「無理無理ー! 絶対に無理ー!」
朝から騒がしいな。
けど愛奈も、大声で嘆きながらもベッドから這いずり出てクローゼットへと向かっていく。
着替えを見る気はないから、フライパン叩きは継続しながら部屋を出た。愛奈はまだ騒いでい。
この騒がしさがずっと続くことが、俺には幸せに思えた。
〈駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする 完〉
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