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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
最終章 決着

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15-32.この街全部が

 まずい。間に合わない。建物から避難しようと出てきた、朝のジョギングが趣味ですみたいな格好のおじいさんが恐怖に目を見開いていた。そこに黒タイツが手を伸ばして。


 おじいさんの背後から伸びてきた、一本の角材が黒タイツの頭を突き、昏倒させた。


「えいっ!」


 セイバーがその間に到着。倒れた黒タイツの首を切り落としながら、他の黒タイツたちも牽制する。俺も近くにいた一体をぶん殴りながら考えた。

 さっきの棒はなんだったのだろう。


 答えはすぐに出た。


「せっかく棒術を教えたのに、この局面で使わないのは感心しませんよ」

「師匠!?」


 沖縄で俺に棒術を教えてくれた師匠が、なぜか模布市にいた。そして角材を振り回して、避難していた市民に襲いかかる黒タイツを牽制していた。


 歳に似合わない俊敏で力強い動き。

 いやでも、なんでここにいるんだ。


「昨日の夕方、あなたのことで日本中が話題になりましたから。困っていると思って、昨日の飛行機の最終便で駆けつけたのです。あなたがどこに住んでいるかはわからないので、怪物が出そうな所で待ち構えていれば、避難する人がいる。あなたや魔法少女の助けになるべく、彼らを守ることにしたのです」

「師匠……」


 俺のために来てくれたのか。昨日の時点で怪物が出てきた、この模布城の近くにいれば会えると考えて。


「わたしは彼らを安全な所に連れて行きます。怪物は任せましたよ」

「はい!」


 持っていた角材を手渡しながらの師匠の言葉に、俺はしっかり頷いた。


 俺は、いい師匠を持ったな。幸せ者だ。


 黒タイツの一体の脳天を角材で叩き割りながら、フィアイーターを睨みつける。


 師匠は、お前の企みのためにここまで来てくれた。結果としてお前は、得られたはずの恐怖を逃すことになった。

 わかったか。お前が俺や魔法少女の正体を明かしたのは、俺たちの戦いを邪魔することにはほとんど繋がらなかった。


 師匠が引き連れて避難していく数人の市民たちは、みんな俺たちに声をかけてくれた。頑張れ。ありがとう。応援しているぞ。助けられることがあれば手を貸すぞ。そんな感じだ。


 お前の敵は魔法少女だけじゃない。この街全部が相手と思え。


「ふぃぁぁぁぁぁ!! ふぃぁぁぁぁぁ!!」


 逃げていく市民たちを追いかけようとして、それを魔法少女たちに阻止される。しかし魔法少女たちもフィアイーターに傷がつけられない。跳躍を阻止するだけで精一杯という感じだ。


「うー。足を傷つけられればいいんだけど。レールガンまだかなー」


 ラフィオの上で、ハンターが小さく呟いた。どんどん出てくる黒タイツたちを殺し続けるのも飽きた頃だろう。



――――



 テレビ局に連絡してレールガンの手配をした澁谷は、自身も現場まで向かうと言った。

 樋口もそれに同行して、電源車へと乗り込ませてもらった。麻美も当然のようについてくる。


 魔法少女たちの戦いの助けになれるかは不明だけど、なんとなくできることはあると考えて。


 とりあえず、道中でレールガンの充電は完了させておいた。二発目を打つために、発電機をさらに稼働させる。

 電源車は規制線のあたりまで来た。


「当然だけど、一般車両は進入禁止なのよね」

「そうですね。それにしても野次馬多いなー」


 規制線というよりは野次馬のせいで、車が通れない。


 こっちは警察なわけで、その権力を使って道を作るべきかな。野次馬をかき分けて、規制線の近くにいる警官に話しかけて。この場に配備された警官は数名だから野次馬たちを押し留めるのだけで精一杯なのに、その人員でなんとか電源車が通れる道を作る。

 大変だろうな。


「すいませーん。魔法少女の仲間のひとですよね!?」


 電源車の窓を叩きながら話しかけてくる市民がいた。


 この車は特徴的だし、魔法少女がレールガンを撃つ場面はテレビで映されたこともある。だからこれが魔法少女の戦力だってわかる人もいるのだろうな。

 だから、魔法少女に詳しい市民が気づいて声をかけた。まったく、あなたの相手なんかしてる暇はないのに。うんざりしながらそっちを見た。


 陸上部のユニフォームを来た女の子だった。鮮やかな黄色が映えるデザイン。


「あら? 文香ちゃん?」

「市川さんですか?」


 樋口よりも先に麻美が反応して、向こうも麻美を知っているという様子を見せた。

 というか、樋口も彼女を知っていた。一緒に走った仲だ。


 遥のいた陸上部の部長だ。麻美とはご近所さん。


「市川さんも魔法少女の知り合いだったんですか?」

「え、ええ。まあ。そんなところ」

「なるほどなるほど。遥が魔法少女だって知って、色々納得できることがあったんですよね。あ、今は忙しいですよね。この先に行きたいんですよね? 魔法少女の所に」

「ええ。そうよ」

「任せてください。みんなー! 交通整理!」


 文香の声に、同じく黄色いユニフォームの男女が集まってきて、野次馬たちに声をかけて左右に押し広げていき道を作り始めた。


「いい!? わたしたち陸上部には! 仲間が頑張っている時に応援しない部員はひとりもいません! 遥が戦っているならば、わたしたちは全力でサポートします! 陸上部の力、見せつけてやれ!」


 おう。部員たちが一斉に声を上げた。


「その調子! 頑張れ頑張れ! 遥にも悠馬にもみんなにも! 声援は届いているはず! みんなわたしについてきなさい!」

「先輩! 言っておきますけど部長は俺ですからね!」

「わかってるって沢木! でも、わたしの方が遥のことを愛している!」

「ああもう! お前ら! 気合入れろー!」


 沢木と呼ばれた男子も、文香に抗議を入れながらも交通整理に加わっていく。


「ごめんなさいごめんなさい。うちの文香が余計なことを。フミ! 勝手なことして、魔法少女のお仲間さんの手を煩わせるんじゃありません!」

「えー。いいじゃない。遥たちの力になりたいから、サキもついてきたんでしょ?」

「当然でしょう! うちの生徒の戦いを、安全な所から見ているだけなんてありえません! それに、フミが部員を引き連れて馬鹿なことをしないよう見張るためでもあります!」

「しないってー。怪物の近くに行こうとかは思ってないから! 遠くから手伝えそうなことを探すだけ! あと応援するだけ」


 陸上部の元部長の暴走を止めると言い張る、制服姿の少女。彼女は、あの学校の元生徒会長だな。やっぱり麻美のご近所さん。

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