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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
最終章 決着

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15-27.作りたい世界

『俺、今日の怪物騒ぎで覆面の男に助けてもらいました。みんながネットで騒いでいる、悠馬さんにです。彼は本当にいい人で、格好良くて。俺のために黒タイツの中に迷わず突っ込んできて。それで……』


 スマホの電源を入れた俺は、ネット上の情報をぼーっと見つめていた。こういうエゴサーチはやるべきではないのは理解しつつ、気になってしまったから。

 そして、昼間助けた少年が動画を上げているのを見つけた。


 拙い言葉で必死に伝えようとしている。魔法少女たちを悪く言うな。そっとしてあげろ。味方でいてあげろ。詮索はするな。

 そんな内容だ。


 インフルエンサーでもない彼の言葉が、どれだけの人に届くかはわからない。けど俺には届いた。嬉しかった。


「姉ちゃん」

「なに?」

「俺、幸せ者だな」

「そうね。あなたは人に恵まれた」


 拠点としている家の二階の部屋で、俺と愛奈は眠ることになった。

 部屋の数が限られているから、姉弟で同じ部屋だ。仕方ないさ。


「助けた少年が、こうやって応援してくれるのは嬉しいわよね。わたしの所にも、個人的に応援メッセージが来たわ」

「誰から?」

「酒井から」

「あー」


 俺の家族を轢き殺した義肢装具士か。今は県外に引っ越して、家族と共に静かに暮らしているのだっけ。


「悲しい思い出は消えないけどね。あの人なりに、わたしたちのこと励まそうとしてるのよ」


 床に直に敷いた布団の上に仰向けに寝転がった愛奈が、天井を見上げながらつぶやく。


「これも善意よ。わたしたちは、善意に囲まれて戦っている。幸せだと思うわ」

「そうだな。姉ちゃん、明日の戦い、絶対に勝つぞ」

「ええ。勝ちましょう」


 ふたり、並んで敷かれた布団にそれぞれ寝転がる。


 自然にお互いへ手が伸びていく。相手の手をぎゅっと握りながら、俺たちは眠りについた。



――――



 エデルード世界には昼夜の概念はない。小屋と草原にはひたすら日差しが降り注いでいる。太陽の姿は見えないのに。

 けど、魔法の鏡によって時間は知ることができた。日本時間で言えば、キエラは一晩中苦しんでいたことになる。


 フィアイーター化した体は小屋に入らず、ただ草原の上にうずくまるだけ。その様子を、ティアラは見ることしかできなかった。


 相変わらず、何もない草原だ。見渡す限りの緑色。この世界がどんな姿をしているのかは、キエラたちが決めることができる。決めてないから、今は何もない。


「ねえキエラ。この世界、どんな風にしたいの?」


 苦しみは少し落ち着いて叫ぶことはなくなったキエラに話しかけた。まだ苦しいことは苦しいから、気を紛らわせるために。

 キエラは、少し考える様子を見せた。


「ふぃあ……わからない。考えられない。ラフィオと一緒に決めなきゃいけないから」

「そっか。ラフィオはどんな世界を望むかな?」

「……わからない」


 キエラは、自分が生み出したラフィオのことを、何も知らなかった。


「ふぃ……で、でも。とりあえずラフィオと一緒に暮らすお城を作るわ。今度こそ、に、逃げないように、ラフィオが望むものはなんでもあげる。何をほしがるかな? 御馳走? 宝石? 綺麗な服? ……女はあげられないけど、その他のものはなんでもあげる、ふぃあ……」


 それは、この世界の形ではない。キエラがラフィオと過ごすための場所だ。キエラたちがこの世界の姿を決めるのとは違う。

 どういう地形をしていて、どんな生物がいるかとか、そういうことを決めなきゃいけないのに。


「ああそうだ。生き物同士が自由に恋をするのはありえない世界にしたい、ふぃあ」


 初めて、世界の形について語ったキエラのそれは、とても奇妙で。


 ラフィオへのあてつけなのは理解できるけど、そんな世界が本当に実現できるとはティアラは思わなかった。

 けれどキエラは本気で、そんな世界こそが理想だと思い込んでいて。


「恋ができるのはわたしだけで十分。他の生き物が恋なんかしたら、世界は混乱するだけ。うん、いいわね。すごくいい。そういう世界にするわ! よし!」


 己の語った狂気で、キエラは元気になった。巨大な体を起き上がらせる。


「この体にもだいぶ慣れたわ! なんとかして元に戻りたいと思うけど、人間の世界を滅ぼすにはこっちの方が都合がいい! 行きましょうティアラ! 世界を滅ぼしに!」


 この勢い。あるいは唐突さ。誰かの都合なんか全然考えないキエラには、世界の神様になるなんて無理だとティアラにはわかっていた。

 けど、ティアラの友達にはなれる。


「ねえ、キエラ。あなたとラフィオが作る世界には、わたしはいる?」

「え? ええ! もちろんよ! ティアラも一緒に世界を作るの!」

「じゃあ、わたしは魔法少女がいっぱいいる世界を作りたい! それでわたしも魔法少女になりたい!」

「えー? 魔法少女?」

「ラフィオを誘惑したり、キエラの邪魔をしたりはしない、言うことみんな聞いてくれる魔法少女だけがいるの」

「いい! それ! すごくいい! 作りましょう! そんな世界を!」


 うん。これでいい。ティアラも自分の理想を作れる。だからキエラに協力したい。


「行こう、キエラ」


 そしてティアラは、大きな穴を作った。キエラが通れるように。人間の世界を滅ぼせるように。


「ええ……ふぃあ……」


 体全体を前傾させて頷いたキエラは、のしのし歩いてから向こうの世界へと移動する。その後にティアラもついていった。

 少し振り返って、エデルード世界を見る。見渡す限りの草原が、光を受けている。


 ふと、キラリと光る物を見かけた。あれはなんだろう。


 確かめてる暇はなく、ティアラは穴をくぐって人間の世界へと向かう。その時にはもう、光った物の存在は忘れていた。

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