15-24.決戦前の酒
俺たちが賑やかに夕飯を食べていると、家のチャイムが鳴った。
樋口と澁谷と麻美と剛。みんな揃って、示し合わせるかのように訪ねてきた。
「大変なことになったわねー。テレビもネットも大騒ぎよ」
と、樋口はリビングの点けられてないテレビを見た。
「ま、テレビなんて今は見ることないわ。無責任なメディアが勝手に騒ぎ立ててるだけ。なんの意味もない」
それから、メディアの世界で働く澁谷をちらりと見た。
「あなたの局は真面目だから評価できるわ。キー局のやり方は知らないけど」
「それでも、うちの局の放送で起こってしまったことです。スタッフも、危険はあっても放送を止めるべきだと言っていました。皆さん、申し訳ありません」
そう言って、澁谷はこちらに頭を下げた。
「謝らないでください。仕方ないですよ澁谷さん。それに、キエラが偶然このテレビ局を狙っただけで、他の局で同じことが起こったかもしれないだけ。運が悪かっただけよ」
「でも、皆さんに多大な迷惑を」
「迷惑だと思ってるなら、お酌してくれるかしら。それで許してあげる。ついでに一緒に飲みましょう」
「あ、はい!」
結局はそれか。けど、大人の話し合いが酒の席で行われて、それで丸く収まるのは良いことなのかもしれないな。
麻美も、愛奈の隣に来る。
「先輩、わたしの所には会社の人から連絡とかは来てないですけど、実際どうなんですか? 先輩が魔法少女だって、会社の人にバレたでしょうか?」
「バレてるとは思うわねー。双里って名字はそんなに多くないし、会社には弟がいるって知られてるから。気づく人はいるんじゃないかしら。でも、わかってても触れないのが大人ってものよ。だから直接聞いてくることはない」
「そういうものですか。さすがです。先輩からは学べることだらけです」
「でしょ? ま、表面的には大人な振る舞いしてる人たちも、裏ではネットで好き勝手に書いてるかもしれないけどね。わたしたちの個人情報とか」
「それ、大丈夫なんですか?」
「わからないわねー。ま、あんまり酷いこと書き込む奴がいたら、なんか警察の方で対処してもらえないかなーって思ってます。ね、樋口さん?」
「公安をそういうことに使わない。ま、考えてあげるわ。あなたたちのサポートをするのが、わたしの仕事だから」
「やったー! 樋口さんさすが!」
「ごめんな樋口。いつも頼って」
「いいのよ。それが仕事。……それより悠馬、あなた随分普通に振る舞ってるじゃない。まさか、記憶が戻ったの?」
「ああ。黒タイツと戦って、棒を振り回してたら全部思い出した」
「で、わたしと付き合うことになりましたー」
遥が俺に身を寄せる。
「そういうことだ。これで正真正銘の彼女だ」
「そう。お幸せにね。ちょっと残念だけど。わたしも、悠馬のことちょっとだけ狙ってたから」
どこまで本気なんだろうか。
次に剛が近くに座って。
「陸上部員の間で、かなり連絡が飛び交ってるようだよ。僕のスマホも通知が何回も来てて。遥と連絡が取れないって、みんな心配してるよ」
「そうですか。やっぱ、わたしが魔法少女って知られちゃったなー。クラスのみんなもわかってるだろうし。心配してくれるのは嬉しいけど」
「連絡してあげたら?」
「剛先輩から、わたしは無事ですって伝えてください。わたしは家族に連絡取ります」
「そっか。わかったよ」
「ちなみに剛先輩も魔法少女だってことは、バレてます?」
「全然。なんでだろうね。世間は僕に興味がないのかな」
「世間というか、キエラが先輩に興味がないってだけですね」
「そのおかげで助かったのかな? よし、写真撮っていいかい? みんなに無事を知らせるために。ほら、悠馬もアユムちゃんも一緒に」
「おう。クラスのみんなにも広めてくれ」
「そこは沢木がやってくれるだろ。陸上部の部長で、俺たちのクラスメイト」
「あいつ、モテたい願望強すぎて変な奴って思われてるけど、交友関係は広いもんな」
お喋りしながら、三人と剛で並んで自撮り。
場所は明かせないけど元気にしてますとわかる写真だ。
「ラフィオ。この魔法陣の成果はどんな感じかしら?」
樋口がラフィオに話しかけていた。
「今夜のうちに、宝石が完成する。だから明日の朝にでも、僕たちは向こうに攻め込める。一旦向こうに退いたキエラが、いつこっちに戻って暴れるかはわからない。どっちが先になるだろうね」
「いずれにせよ、この戦いは終わるのね」
「そういうことになる」
「わかったわ。みんな、今日はわたしの奢りよ。食べたいもの言って。買ってくるから。愛奈も好きに飲みなさい。ただし、明日に備えて早めに寝ること! いいわね!」
立ち上がって力強く言い切った樋口に、俺たちは目を向けた。
最初に反応したのは魔法少女たちではなく、麻美だった。
「良かったですね先輩! お酒いっぱい買ってきますよ! あとお寿司とか! まだスーパー開いてるはずですから! 澁谷さんも行きましょう」
「は、はい! 皆さんのためにわたしもお金出します! ちょっと行ってきますね! なにか食べたいものありますか?」
「えっと。お酒をたくさん?」
「わたしオムライス食べたいです!」
「スーパーで売ってるかしら……あ、わたしが作ればいいのね」
「え、樋口さん料理できるんですか?」
「しないけど。女三人いたら、なんとかなるでしょ」
「あ、僕も手伝いますよ」
「剛くんが一番得意そうなのよねー」
「けど剛。あなたも今日は働かないで。魔法少女に混ざってあなたも戦うんだから」
「そうですね。では、僕も宴に参加させてもらいます」
そういうわけで、樋口たちは買い出しに行って、夜のスーパーの売れ残りの品でパーティーが行われた。
ちなみに樋口の料理の腕は、そこまででもなかった。けど食えるオムライスは作れたようだ。




