15-21.正体発覚
画面の中の澁谷はじめ、出演者たちは驚いた顔を見せていた。その中で、巨大な獣の姿のキエラは堂々と振る舞っていた。片方の前足の欠損を補う義足が、スタジオの床に当たってコツコツと音を立てている。
『はじめましてー。わたしはキエラ。フィアイーターを作ってるわ。あ、放送をやめないで。生放送なのよね、これ。やめたらこの場でフィアイーターを作るわ』
脅しながらカメラに向かって話しかけるキエラ。こいつ、なんのつもりだ。
「これ、行った方がいいのかしら。魔法少女案件よね?」
「そうだけど。なにかもっとまずいことが起こる気がする」
「え?」
中継を止めたらフィアイーターを作ると言った。つまり、何もしなければ手荒な真似はしないってこと。
つまり、キエラは放送で何かを伝えようとしているってことだ。もちろん、気軽なお喋りなんかじゃなくて。
『ふふっ。これはあなたたちテレビにとっても得のあることよ。テレビって、こういう秘密を暴くのが大好きなんでしょ? あのね。覆面男の正体がわかったよ。こいつよ!』
と、キエラは少女の姿に変わった。そして服の中に隠していたらしい物を見せつけた。
俺の学校の生徒手帳だ。というか、俺のだ。
テレビカメラに、俺の氏名と顔写真と通ってる高校が映し出される。県内全域で見られている放送に。
「嘘だろ……」
「悠馬、これって」
「ああくそ。あの時無くしてたんだ。そして奴らが見つけた」
今気づいた。そして、もう遅かった。
『双里悠馬。これが覆面男の正体。ちなみにピンクの魔法少女はこの子の姉よ。あと、彼のお友達も魔法少女だわ。遥とアユムって言ってた。心当たりあるかしら。あるわよね。この男の子の知り合いなら、きっとわかると思うわ』
「おいおい。なんだこれ」
「悠馬、とりあえずここから逃げた方がいいわよ」
愛奈が、病室の外を少し伺いながら囁いた。
ここの入口には、誰が入っているかの表示がある。今はもちろん俺の名前が掲げられている。
「そうだな。逃げないと。でもどこに?」
「家……はまずいわね」
「樋口」
こういう時は樋口に連絡するに限る。案の定、彼女も事態を把握していた。
『既に遥とアユムには連絡しているわ。拠点にしてる家に行きなさい。そこは、部外者は誰も知らないはず』
「わかった。姉ちゃん」
「ええ」
愛奈が魔法少女に変身して、俺を背負って病室の窓から飛び出す。
慌ただしく動いている間も、キエラたちは放送で話し続けていた。
『魔法少女たちの正体、わかっちゃったかもね。知り合いにいたら会いに行けばいいわ。サインくれるかもしれないしね! あ、じゃあわたしはこれで失礼するわね。これから、この街のシンボルをフィアイーターにしなきゃいけないから!』
――――
終わりの会が終わると同時に、つむぎは教室を飛び出した。
さっきの休み時間に交換した石の効果が早速出ているはずだから。もしかしたら、もう宝石は完成しているかもしれない。
ランドセルを背負ったつむぎを乗せてラフィオが駆ける。
石は完成間近といったところだった。
もう少し待つ必要があるかな。
他にやることがないから、なんとなくテレビをつけて、そしてキエラの姿を見た。
「ね、ねえ。ラフィオこれ」
「ああ……」
かなりまずいことになっている。
これは、一体なんだ? なんで悠馬たちの正体がバレた?
いや、理由なんかどうでもいい。問題は、悠馬たちの立場が危うくなったことだ。迷惑をかけてしまった。
ずっと危惧していたことが起こってしまった。
ラフィオが魔法少女に誘ったせいで、日常がめちゃくちゃになってしまうこと。
「ね、ねえ。ラフィオ。どうしよう」
つむぎが、こっちの手をぎゅっと握った。
どうするって言われても、わからない。どうしたものか。
テレビの中のティアラが続けた。これから模布市のシンボルをフィアイーターにすると。
シンボルとはなんなのか。ラフィオにはすぐに思いついた。
それが、いつの間にか彼が模布市に馴染んでいることを意味しているのには、彼自身は気づかなかった。
これは僕が始めたことだ。魔法少女たちに迷惑をかけるわけにはいかない。
たとえ最終的にそうなるとしても、今は。
「僕に任せて。すぐに戻るから」
「え、あ! 待ってラフィオ! 待って!」
つむぎの手を振り払い、ラフィオは獣の姿になって家の外へと飛び出した。
つむぎも追いかけようとしただろう。けど、彼女のスマホが鳴り始めた。警報音ではない。電話とかだろう。この危機的状況に、みんなから連絡が来たんだ。
君たちはそっちの対処に当たってくれ。
模布市のシンボルといえば、いくつか思いつくものはある。けど真っ先に思いつくのはこれだ。これまでフィアイーターになっていないという判断材料もある。一度負けたものを、キエラは大事な局面で使わないだろうから。
これはキエラにとって最後の戦いのつもりなのだろう。そうはさせないけれど。
獣になったラフィオは走った。穴を使って空間を捻じ曲げて現地に行けるのだから、向こうの方が到着は早いのだろうな。
模布城の緑錆が広がる屋根に着地した。やはりキエラはそこにいた。大きな獣の姿だった。
「やあ。キエラ」
「ラフィオ!? 会いに来てくれたの!? おっと」
模布市のシンボル、模布城の金のシャチホコを見つめていたキエラは喜色を見せてから、近くに浮かせている大きな球体がぐらついたのを見て慌てて支えた。




