15-10.剣を蹴る
フィアイーターは痛がるように、欠損した手を無事な手で抑えた。庇うように持っているその隙間を狙ってハンターが矢を放つ。傷口に塩を塗るように。
ラフィオとハンターもフィアイーターの方に戻れたようだ。
「ラフィオ! こっちの足を押さえよう! 動き出さないように!」
「ああわかった。ハンターは奴の傷口を狙い続けてくれ!」
「うん! わかった! 再生の邪魔をするんだね!」
ラフィオと剛で、無事な方の足首に組付く。ラフィオが白い表面に歯を立ててるけど、わずかに凹むだけであまり意味はなさそうだ。
まあ、膝の傷の再生のリソースがこっちにも割かれて、少しでも遅れるなら意味はあるのかも。剛も金属製のトンファーをフィアイーターの肌にガンガンとぶつけた。
「お待たせ! なにを手伝えばいい!?」
ライナーもやってきた。周りの黒タイツは全員倒してくれたのだろうな。
「こいつの両手を攻撃してくれ! 誰かに当たりそうになったら蹴飛ばすんだ!」
「おっけーわかった!」
フィアイーターは痛がってるばかりでは負けると察したのか、再度周りの敵を振り払おうとした。
手始めに、足にまとわりつくラフィオたちに手が伸びる。しかしライナーが立ちはだかり、強烈なキックをお見舞いしたところ、その手は弾かれるように反対側へと戻っていきアスファルトに叩きつけられた。
その手にバーサーカーが組み付いて、また指を一本折った。というか引きちぎった。
他の指を折る前に、フィアイーターはその腕を高く掲げた。しかし近くのビルの外壁を足場にしてそれを蹴り、ぶつかってきたライナーによって腕は再び地面に激突。
「バーサーカー! 指一本ずつとか細かい仕事は向いてないでしょ! 腕ごと折ったらどう!?」
「うるせえな! オレひとりじゃ無理なんだよ!」
「わたしと協力してやるの!」
「それならやってやる!」
叩きつけられた腕の肘の所に駆けていったバーサーカーは、両腕を使ってフィアイーターの白い腕に組み付き力を込める。さらにライナーの蹴りが、肘を本来とは逆の方向に曲がるように蹴飛ばした。
折れはせずとも、硬い素材にヒビが入った。
「フィァァァァァァ!」
咆哮が鳴り響く。
「この腕使い物にならなくなった!?」
「だろうな! もう片方も行くぞ!」
「うん! どんどん折っていこう!」
「二度と動けないようにしてやる!」
抜群のコンビネーションで物騒な会話を交わしながら、ふたりはフィアイーターのもう一方の腕へと向かった。
その間、セイバーはといえばずっとフィアイーターの頭部に剣を突き立てていた。スコップで硬い地面を掘ろうとするように、切っ先を真っ白な鼻先に何度もぶつける。フィアイーターも首を振って抵抗するから、あまり効率的に出来てるとは言い難いけど。
「ライナー! この首の動きも止められるかしら!?」
「お姉さん! 人使い荒いです! わたし動き回ってるんですよ!?」
「わたしだって楽してるわけじゃないわよ! あとお姉さんじゃないし!」
もう一方の腕もへし折ってフィアイーターの抵抗力を大幅に減らせたライナーは、そのテンションのままに頭部へと突っ込んでいく。
たぶんライナーの想定では、奴の横面を蹴飛ばして首を折るとか、そんな感じだったんだと思う。
けど。
「ほい」
ライナーの蹴りが炸裂する軌道上に、セイバーが剣の柄の先を向けた。反対側、フィアイーターの頭には刃が向いている。
自慢のキックの力で、フィアイーターの頭に剣が深々と下がった。そして剣の長さのぶん想定よりも早い段階で蹴りが完了して動きにブレーキがかけられたライナーは。
「うわー!?」
思ってた受け身が取れずに地面に倒れることになった。
「ごめんねライナー! でもこの方が攻撃が通りやすいの!」
「だったら狙いを最初から教えてください! 剣を蹴るって言うなら素直に従いますから!」
「ほら。いろいろあるのよ。説明の時間がないとか」
言い争いをしながら、セイバーは剣を捻りながら抜く。フィアイーターの耳のあたりに大きな穴が開いた。
「バーサーカー!」
「おう! 散々手間かけさせやがって!」
その穴の縁にバーサーカーが手をかけて、怪力で広げていく。
大きくなっていく穴の中から闇が見える。そして頭部の中心部にコアがあることも。
「あった! みなさん伏せてください!」
それを、魔法少女の中では一番遠い位置にいたハンターが見つけて、ラフィオから降りて駆け出し数歩分近づきつつ矢を構えて、射る。
モモちゃん人形の足から頭までそれなりに距離があるというのに、やはり正確な狙撃でコアは貫かれた。
白い人形の体から黒い粒子が拡散していき、人形のサイズも少しだけ縮み、フィアイーターは模布市民に愛されてきた人形へと戻っていった。
あちこちボロボロになっているな。これ、修復して再び街のシンボルになってくれるのかな。金時計も既に修理されて待ち合わせ場所としての機能を取り戻してるし、きっとこれもそうなるのだろう。
「疲れたー!」
今回もあちこち走り回ったライナーが地面に仰向けに倒れ込んだ。
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