15-6.タイミングの悪さ
剛はリビングで待っていた。
「これからどうしますか? 改めて悠馬のお見舞いに行きます?」
「それは明日とかでもいいんじゃないかな。先輩の方が、わたしは大事だと思う。起きた時のために、なにか美味しいもの作ってあげましょう」
「麻美さんって料理できましたっけ」
「まあ、人並みには。ラフィオくんたちには勝てないかなー」
「そうなのですか」
「あの子、真面目だから料理を覚えたらどんどん上達していったらしいわね。……あの子たちも今は、悠馬くんのことで頭がいっぱいのはず。家事とか手がつかないでしょうから、代わりにやってあげましょう」
「いい考えだと思います」
というわけで、麻美はキッチンに入る。さて、なにを作ろう。あの子たち、何が好きだっけ。愛奈はお酒が好き。さすがにこの状況では飲まないかな。いや、飲まなきゃやってられないかもしれない。肴になる濃い味のものとかどう?
あと、疲労が回復するような料理とかあるだろうか。スタミナ系の材料を使ったり。ああ、食材を買いに行くところから始めなきゃいけないな。
そんなこと考えながら、剛と一緒に夕飯の用意をしばらくしていると。
スマホが警報音を鳴らした。
「え、ちょ。先輩が起きちゃう」
「起きてもらわないと困るのでは? フィアイーターが出たのでしょう?」
「それはそうなんだけど。先輩!」
とりあえず部屋に駆け込んだ。愛奈の鞄の中に入りっぱなしになっていたスマホにも、市内にフィアイーターが出たことを伝える文字情報が表示されている。
よほど疲れていたのだろう。愛奈は警報のけたたましい音にも起きた様子はなかった。警報音を聞き慣れているからかもしれないな。
「どうですか、麻美さん。愛奈さん起きてます?」
部屋の外から剛の声。気を遣っているのか、小声だ。麻美も返事はせずにそっと部屋から出て声を落して返事。
「ぐっすり寝てるわ。起こすのが悪い気がするの」
「気持ちはわかります。僕だって愛奈さんには、今は穏やかでいてほしい。けど、戦ってもらわないと。起こす方法は知っています」
剛は手に持ったフライパンとお玉を見せた。悠馬が毎日使ってるやつか。
警報で起きなかった愛奈も、これを使えば起きるだろう。それは間違いない。
けど。
「他の三人の魔法少女に任せたいの」
先輩に対する甘さから、そう言ってしまった。剛もそれを非難する様子はなかった。
「わかりました。フライパンは、フィアイーターが思ったより強かった時のための置いておきましょう。もしも愛奈さんの力が必要だったら、悠馬から状況を連絡するようお願いして……」
「無理なのよね」
今の悠馬に、それができるほどの対応力はない。というか、魔法少女の戦いに巻き込めるはずがない。
けど、悠馬の力は必要だ。魔法少女は変身したら、服が魔法少女の物に変わってしまうから。ポケットに入れてるスマホもどこかへ行く。スマホを鞄に入れていたとしても、それを持ち運びながら戦いの現場に行くわけにはいかない。
魔法少女と行動を共にしていて、変身もしない悠馬が連絡役として最適なのに。今は病院のベッドから抜けられない。
「とりあえず僕が現場に出て、状況を見てきます。愛奈さんが必要そうだったら連絡しますので、起こしてください」
「待って。現場はどこ?」
「模布鉄百貨店の近くです。というか、モモちゃん人形がフィアイーターになったらしくて」
「あれかー。なっちゃったかー。ここから距離があるし、電車移動も時間がかかるでしょ? 先輩を起こす役は剛くんに任せて、わたしが車で行って……」
「待ってください。麻美さんは戦えません。危険です。それに、僕が愛奈さんの部屋に入って起こしてもいいんですか?」
「あー! 先輩かなり危ない格好してる! 剛くんに見せるわけには! ……いやでも、フライパンを部屋の外で叩いて起こせばいいだけでは?」
「だとしても、僕はあなたを戦いの場に行かせたくありません」
「彼氏の心遣いが辛い……と、とにかく! この場で情報収集! やばそうなら先輩を起こして、剛くんを運んで現場に行ってもらう!」
「そうしましょう!」
テレビをつける。ゴールデンタイムで、全国放送のバラエティ番組をやっていた。売出し中のギャルタレントがクイズで馬鹿丸出しの解答をして笑いを撮っていた。ニュース番組にチャンネルを変えると、政治家のお金の使い道がどうとかの報道だった。
大事な話題なのはわかるけど! 今はそれどころじゃないでしょ!
「全国放送なんてそんなものですよ。フィアイーターが出たのが東京だったら、今頃大騒ぎで中継を回してますよ」
「本当に! 模布市のことなんだと思ってるのかしら!」
「とりあえずネットで調べましょう」
SNSで検索をかけてみた。とりあえず、魔法少女たちは既に来ていて戦っているようだった。
――――
「なんでこんな時に! てか! 昨日も出てきたじゃん! ちょっとは間あけてよ!」
車椅子に座った遥が声を上げる。病院では静かにしろよ。
「でも不思議だよね。なんでキエラ、こう続けてフィアイーター作るんだろう。休めばいいのに」
「さあな。キエラにも考えがあるんだろう」
つむぎに抱かれながら、ラフィオはその理由に想像を巡らせた。
昨日の戦いに、理由を求めることは間違いではないと思っている。あの時ラフィオはキエラを本気で拒絶した。怒りをぶつけて、手に取ったのが紙製のチョコの箱ではなかったら殺せていた可能性すらあった。
キエラの方も恐怖を感じたのだろうか。それでラフィオに幻滅するとか、本気でこの世界を破壊しなければならないと決意を新たにした。だから攻勢をかけた。




