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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
最終章 決着

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15-5.寝ぼけ愛奈

「悠馬さん!」

「静かにしてやれ」

「あ、ごめんなさい」


 ラフィオの手を引っ張りながら病室に駆け込んだつむぎは、すぐに相手が怪我人だと思い出して声のトーンを落とした。

 悠馬はこっちを見つめている。つむぎよりは、ラフィオに目を向けているようだ。


「悠馬さん。わたしのこと、わかりますよね?」

「ああ。つむぎ。……ちょっと背が伸びたか?」

「成長期ですから。一年で背は伸びます」

「俺が一年間のことを忘れてるだけか……」

「みたいですね。ラフィオのことも?」

「お前が……魔法少女と一緒に戦っている、あの白い?」

「そうとも。手を出せ」


 手のひらを上にしてこちらに腕を伸ばした悠馬。そうだ、悠馬と始めて出会った時もこれをしたな。あの時は結局、愛奈の手に乗ったけど。

 小さな妖精の姿になって、悠馬の手の上に乗る。目の前で悠馬の目が見開かれた。


「驚いたかい?」

「ああ……信じられない」

「そうか。でも不思議だね。急におかしな事が起こったのに、悠馬は僕のことを振り払おうとはしなかった。怪しい生き物だと思ったら、反射的に掴んで放り投げてもいいのに。そうだ、初めて出会った時、君は僕の態度に嫌気がさして、フィアイーターに向けて僕を投げたね」

「そんなことしたのか?」

「ああ。けど、今の君はしない。案外、僕のことを体は覚えているのかも。僕が敵ではなくて、信頼していい相手だとね」


 悠馬はどう答えればいいのかわからず、結局口を開かなかった。

 いいんだ。戸惑いながらも受け入れようとしているんだから。


 記憶を無くしても、君は君だ。


 ラフィオは笑顔を見せてから、悠馬の手から跳躍。つむぎがそれを受け止めて、腕に乗せてもう片方の手で撫でる。

 ようやく、悠馬も微かに笑みを浮かべた。


「思った通りだな。つむぎが好きになる男がいたら、きっとそういうタイプなんだって思う」

「えへへ! そうですよね! わたしたちラブラブです!」

「そうか……」


 悠馬が引いてる。うん、そうなるよな。



――――



 愛奈が本気で疲れていたのは間違いなくて、麻美の車の後部座席に乗ると、車の揺れに誘われて眠ってしまった。

 助手席の剛から視線を受けながら、麻美はマンションまで車を動かす。


「先輩も大変よね。いつも仕事休みたいって言ってるのに、こういう日に休みを取ることになるなんて」

「本当は、こういう日に備えて有休はとっておくものと聞いているのですけどね」

「それはそう。あっという間に有休使い果たすような、去年度までの先輩のやり方は間違ってる。でも、ある程度好きなときに休んで楽しむのも大事よ」

「ええ。よくわかります」

「実を言うわたしもね、社会人たるもの仕事が第一で、休みを取るなんてとんでもないって思ってたのよ。会社入る前はね。でも、先輩みたいな力の抜き方は大事だって思うようになった」

「愛奈さんのは抜きすぎですけどね」

「それはそう。見習いすぎるのも良くない」

「でも、立派です」

「そうよ。先輩は立派な社会人。尊敬できる。……ところで、剛くんどうしてわたしの方を見てるのかしら。なにか気になる?」

「受験もそろそろ終わるし、車校に行って免許を取ることを考えないとと思いまして。その前に、身近な人の運転する様を観察しようかと」

「そ、そう。わかった。よく見ててね。運転する時のハンドルの持ち方は九時十五分。視線は目の前ではなくて、遠くの方に意識を向けること、自分の車のサイズ感を把握して、適切な車間距離取る感覚を身につけるのが大事よ……聞いてる?」

「好きな人が運転してる姿って素敵ですね」

「こ、こら! からかわないの! 真面目に教えてるんだから!」

「大声出さないで、麻美。愛奈さんが起きるから」

「そ、そっか。じゃなくて。まだ呼び捨ては早いから。合格発表まだでしょ!」


 年下の男の子に翻弄されるなんて。顔が赤くなるのを感じた。


 でも、嫌な気分ではないな。



 このやりとりを愛奈に見られたら、たぶんすっごくからかわれるだろう。けれど幸いにも愛奈は起きず、マンションまで到着した。


「愛奈さんのこと、お姫様抱っこで部屋まで運びましょうか?」

「彼氏が他の女をそうやって運ぶの見るの、なんか嫌ね。緊急時なら仕方ないかもしれないけど。おーい、先輩。家に着きましたよ。起きてください」

「うへー……もう朝?」

「なに寝ぼけてるんですか。ほら肩を貸しますから。家まで歩いて。鍵は持ってますね? シャワーを浴びて、休んでください」

「とりあえず寝たい……」

「そうですね。先輩はよく頑張りました。今はわたしたちに任せて。寝ててください」


 今も寝ぼけなまこの愛奈を苦労して部屋まで運んだ。靴を脱がせて自室の前へ。散らかった部屋を目にした途端、愛奈はここが寝られる場所だと認識した。ふらふらとベッドの方へ向かいながら、スーツのジャケットとスカートを脱ぎ始めた。麻美は慌てて剛の体を押して部屋の中を視界に入れないようにした。


 再び愛奈の方を見ると、ストッキング越しにショーツが見えた状態で寝息を立てていた。


「先輩、そんな格好だと風邪ひいちゃいますよ」


 起こさないよう気を遣いながら、ベッドの上の姿勢を少し直して毛布をかけてやる。ゆっくり休んでください。

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