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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
最終章 決着

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15-4.幸せ者

「姉ちゃんから聞いた。遥は俺の彼女……の役をやってくれてるんだよな。その方が動きやすいから」

「う、うん。そうだよ。その通り。わたしも魔法少女だからね。悠馬にサポートしてもらうには、それが一番なんだよ」

「あくまで、ただの役だからな。悠馬に他に好きな女ができれば、本物の彼女はそっちになるからな」

「ちょ、アユムちゃん」

「オレ、ガキの時のあの日の夏祭りで、悠馬に好きって言った気持ち全然変わってないから。今でも好きだ」

「……」


 勢いで告白してしまったアユム。いや、これって告白になるのかな? 好意を告げただけ? でもそれって告白と同じ意味な気もするし。

 とにかく、こうなっちゃこちらも黙ってはいられない。


「わたしだって悠馬のこと好きだよ! 彼女ってことにしようって提案したのも、本気でそうなりたかったから! ちょっと策略使ったのずるいって思ってる。それか照れ隠しだったのかも! けど悠馬、好きです。本当の彼氏になってください」


 アユムがいきなり本心を打ち明けたから、遥も慌てて続いてしまった。


 ああもう。バレンタインデーの夕日の下で雰囲気を作って、ひとりずつ告白するって演出が台無しになった。というか、記憶喪失になってる悠馬にとって、そんなこといきなり言われても困るだろうに。


「……」


 しばし、無言の時間が流れた。悠馬の反応を伺うアユムと遥。じっと見つめれて、しかもその視線には期待の色が込められていて。けど悠馬にとってその好意は突然のもので。


「……ごめん。今の俺はたぶん、ふたりの知ってる俺とは違う。だから、返事はできない」

「う、うん。そうだよね。わたしこそごめん……。いきなりだったよね」

「オレもごめん。いきなりすぎたよな、うん」


 お互いに負けたくなかった。遥にとっては特に、勝ったはずの勝負なのに無しになってしまって。焦ってたんだと思う。

 だからって、悠馬を困らせちゃいけないよね。


「そ、そうだ。悠馬の記憶を取り戻すために、わたしたちの思い出いろいろ話さなきゃね。愛奈さんから聞いてるかもしれないけど、学校のことはわたしたちからしか聞けないし」

「そうだな。オレとはクリスマスにデート行ったしな。それはオレしか話せないよな」

「わ、わたしなんて。悠馬と恋人って姿をテレビで映してもらったし! それで……あ……」


 またやっちゃった。対抗意識で一方的に話しても、悠馬は困るだけなのに。

 けど悠馬は、微かに笑みを浮かべた。


「そのノリについてきた俺はたぶん、幸せだったんだと思う。わかった、もっと話してくれ」


 ああ。悠馬は悠馬なんだ。それは変わらないな。



――――



「青春してるわねー」


 病室の中の高校生たちの会話に聞き耳を立てながら、愛奈が呟いた。優しい口調だ。

 独り言に近いものだろうけれど、返事をするとしたら自分しかいないわけで。


「嬉しいですか? 弟さんがモテるのは」

「ええ。そりゃね。こんなわたしの弟を、たったひとりの家族を何年もしてくれてたんだから。幸せになって欲しいじゃない? 遥ちゃんもアユムちゃんも、どっちも良い子。……幸せなことよ」

「そういうものですか」

「まあ、悠馬の姉の座は誰にも奪えないけどね」

「ええ。そうですよね」


 こういう人だ、愛奈は。


 そんな彼女は、椅子に座って壁にもたれかかるようにしていた。病室の方に顔を向けているから表情はよく見えないけれど、さっき対面した時には疲れた顔をしてたと思う。

 当然だ。この病院で夜を明かしたのだから。ベッドなんかもなくて、椅子で寝たのだろう。そして今日一日、悠馬につきっきり。


 夕方になると、遥たちが来る時間を見計らって外に出た。悠馬に、一度に多くの人を面会させないために。ずっと気を遣い続けている。精神的にも疲れているのだろう。


「愛奈さん。一度帰ってはいかがです? シャワーを浴びて、ちゃんと寝たほうがいいですよ」

「そうね。けど、悠馬はわたしがいないと。他の誰が会いに来ても、あまり知らない人ばかりだから。たったひとりの家族だから」

「その家族がボロボロになることを、悠馬は望みませんよ。それに、ずっとここにいるわけにもいかないでしょ?」

「……そうかもね」

「僕たちがついてます。愛奈さんはしっかり休んで、悠馬を安心させてください」


 説得している途中、後ろから足音が聞こえた。体重の軽い、子供の足音だ。


「愛奈さん!」


 病院の廊下を走ってはいけないことは理解しつつ、早足で歩くつむぎが来た。胸に妖精のラフィオを抱いている。彼はなんとかつむぎから脱出して少年の姿になった。


「僕がぬいぐるみのフリしてれば電車賃が節約できるのはわかるよ。けど駅から出たらもう必要ないじゃないか!」

「ラフィオモフモフしてたいもん!」

「強く抱きしめすぎだ苦しかった! それより悠馬の状態は?」

「相変わらず騒がしいわねー。ラフィオのこと、忘れたままよ」

「愛奈に言われたくない。悠馬に忘れられてるのは辛いね。面会しても?」

「ええ。遥ちゃんアユムちゃん。交代して。つむぎちゃんたちが来たから」


 病室の中のお喋りが止んで、遥たちが出てきた。入れ代わりにつむぎとラフィオが入る。


「ふたりとも、しばらくここにいてくれるかい? 僕は愛奈さんを家まで送るよ」

「あ、はい。そうですよね。愛奈さん疲れてますよね。ゆっくり休んでください。今日は誰もフライパン叩いたりしませんから」

「ありがとうね遥ちゃん。けど、ちょっと馬鹿にしてない?」

「してませんしてません」

「麻美さんが車で来てくれるそうですよ。マンションまで送ってもらいましょう」

「ありがとうね。でも麻美は悠馬の見舞いに来たのよね? 悠馬と顔合わせしてからわたしを送るべきじゃない?」

「先輩に一刻も早く休んでほしいらしいので、厚意は受け取ってください。僕の彼女の心遣いですよ?」

「わかってるわよ。いい後輩を持ちました。そんな人を彼女に出来た剛も幸せ者ね」

「ええ。全くです」


 実際、愛奈はかなり疲れているらしい。立ち上がる時に少しふらついた。


 しばらく寝れば直ると思うけど、いつでも手を差し伸べられるよう構えながら病院から出る。

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