14-44.告白の返事
戦いが終わった、なんて感慨に浸っている暇はなくて。
「悠馬!」
「悠馬さん!」
ラフィオとハンターが駆けていくのを、バーサーカーは慌ててついていった。
「樋口さんには連絡してある。救急車が来てくれるそうだ。戦いに巻き込まれた一般人として病院に搬送することになる」
いつの間にか戻ってきた剛が、コスプレ姿のままスマホを握っていた。ついでに戦いを見守っていた麻美も一緒にいる。
「そうね。それがいいわ。わたしが病院に付き添う」
「そ、そうですね」
普段ならライナーは、自分がと言いそうなもの。けど今日はなぜか素直に譲った。
高校生の恋人よりは、実の姉の方がこういう場には相応しいと考えたのだろうか。セイバーはすぐに愛奈に戻った。
姉弟で出掛けて巻き込まれて、魔法少女に助けてもらったとか。救急隊員にはそう説明するつもりなのだろう。
「制服の胸の内ポケット、完全に破れてるね。中に何か入ってたりしてたかい?」
「スマホと財布はいつもズボンのポケットに入れてるし、無事みたいだね。悠馬が内ポケット使ってるところ、見たことないなー」
「そっか。何かが入っていて、それがギリギリ剣を受け止めたから、悠馬は心臓を刺されることがなかった、みたいに見えたんだけど」
「ポケットに懐中時計が入ってた、みたいな? 何か入れてたのかもしれないね。よくわからないけど……」
ラフィオと話しながら、ライナーはどこか別のことが気になってるみたいで。
けど、みんな悠馬の方が心配だから、そっちに意識が向いていた。
それからすぐに救急車が来て、悠馬と愛奈を乗せて病院まで行った。たぶんいつもの病院だろう。魔法少女たちは、自分たちも一緒に行くわけにもいかず、その場に留まっていた。
樋口も駆けつけてきた。遥の車椅子を押している。ちゃんと持ってきてくれたのか。外に放置もできないもんな。座面には三人分の鞄もあった。
「ほら。後のことは医者に任せなさい。あなたたちは帰って。市民が戻ってきて、バレンタインデーの夜を過ごすのだから」
「そ、そうだな。オレたちがいたら、まだ戦ってるって思われるかも」
「そういうこと。わたしも今から病院に行って状況は伝えるわ」
樋口は慌ただしく去っていく。
「しょうがない。僕たちも帰るぞ」
「あ、ラフィオ。テーブルの上にプリン出しっぱなし。片付けなきゃ」
「そうだね。僕たちは拠点に寄る。すぐに戻るから」
ラフィオもハンターを乗せて走り去った。
「わたしは剛くんを送って行くわ」
「デートはまた今度ですね」
「ええ。仕方ないけど。あなたの受験が終わったらね」
麻美と剛も一緒に行ってしまった。後にはバーサーカーとライナーが残されて。
「わたしたちも帰ろっか。電車移動になるかな」
「車椅子運んで走るのは嫌か?」
「嫌じゃないけど、今はそんな気分。アユムちゃん、押して」
「ああ」
ふたり揃って変身解除。人が戻りかけてきた公園から、そっと出ていく。
近くの駅まで、ふたりしばらく無言だった。口を開けば、あの話題をになってしまうのは間違いないから。カップルが二組、ふたりきりで先に行ってしまったのを見た後だから、なおさらだ。
先に無言に耐えられなくなったのはアユムの方で。
「悠馬に告った返事、訊けないままだったな」
「う、うん。そうだね。悠馬が目を覚ますまで、無理だね」
「覚ましてもそれどころじゃないだろうしなー。あー! チョコ作り頑張ったのに! 告白の言葉も、昨日頑張って考えたのに!」
アユムは本気を悠馬にぶつけていた。暑苦しい感じを悠馬は好きではないのは知っているから、冷静に。けど全力の気持ちをぶつけた。
こういうのは遥の方が得意だろうなとは、わかっている。けどやり切った。どんな結果になっても後悔はしないつもりだった。
答えが聞けないままになるとは思わなかったし、戦いの中で悠馬を守れなかったことに後悔することになるとは。
バーサーカーが一番悠馬の近くにいたんだ。なのにフィアイーターとの力比べにかまけて、そちらに注意を向けれなかった。必要なことだったとはいえ、別のやり方もあったかもと、どうしても考える。
「悠馬、大丈夫だよな?」
「うん。息はあった。心臓も動いてた。だから死んだりはしないよ。お医者さんに任せよ?」
「あ、ああ。そうだよな。オレたちがどうにかできることじゃない、よな……」
そのまま電車に乗り、家の最寄り駅まで向う。スマホを見ると、ラフィオたちは先に帰っていて、夕飯の準備を進めているところらしい。
そっか。バレンタインデーが終わったから、キッチンの男子禁制も解除か。こんな不本意な形で終わるなんて思ってもなかった。
「ラフィオ、手伝おっか?」
「いや、もう出来上がるから。運んでくれ」
「うん。洗い物はわたしがやるね」
妙に落ち着いていて、けど何か別のことを考えている様子の遥が、アユムには気がかりだった。
そして夕飯の最中に、樋口からメッセージがきた。悠馬の容態についてだった。
――――
「大したことなくて、本当に良かったわ。しばらくしたら目を覚ますはずですって」
「そう……良かった」
樋口から医者の見解を聞いた愛奈は安堵の息を吐いた。
悠馬は今、病院の個室で眠っていた。そこに愛奈がずっと付き添っている。




