14-40.セイバー対セイバー
「今行く!」
キエラを確実に殺せるチャンスだったのは把握している。けどハンターの方が大事だった。獣の姿になったラフィオはそちらへ駆け出して、ハンターもすぐに跳んでラフィオの上に乗る。
黒タイツたちを一気に蹴散らしながら、キエラの方を見た。
憎いハンターのおかげで助かったという事実をキエラがどこまで認識しているかは知らない。いずれにせよ彼女は、こちらに恐れの感情を向けながら空中に作った穴から逃げていった。
黒タイツを思いっきり蹴り、ぶつかり、噛み付いていればいずれは全員を殺すことができた。
この建物内に残る敵はフィアイーターだけ。セイバーは相変わらず苦戦していた。
「ちょっ! プリン! あなたじっとしてなさい! わたしを相手にするだけでも大変なんだから! 一度倒されたフィアイーターならおとなしくしてて!」
「フィァァァァァァァ!」
「フィァァァァァァァ!」
「ああっ! 鳴き声も二倍!」
セイバーは相変わらず騒がしい。自身の姿をしたフィアイーターと剣を交えながら、低い位置から腕を振ってくるプリンのせいで踏み込めない。
「ハンター」
「うん。あのプリンをなんとかしないとね。プリン食べたいね」
「さっきたくさん食べたんだよ」
「プリンは、あればあるほどいいんだよ!」
「それはそうだけど」
ああ。こんな会話ができるって幸せだな。
受け答えしながら、ハンターがプリンのフィアイーターに向けて矢を射る。セイバーと一緒に激しく動き回っているのに、狙いを外すことはなかった。
プリン本体を射抜いても動きは止まらない。どうせコアもそこにはないだろうし。だから両腕を狙った。
目論見通り、腕を痛めたプリンの動きは鈍くなった。しかしフィアイーター本体に合わせてクルクル回るように動くプリンの腕は相変わらず振り回されていて。
「ねえ! 矢のおかげで! なんか避けなきゃいけない範囲が大きくなったんだけど! ううん責めてるわけじゃないのよ手伝ってくれるのは嬉しいの! やり方を工夫してほしいだけ!」
セイバーはさらに困っていた。それでも優しく注意することを心がけるのは、年長者としての振る舞いらしくて尊敬できる。
「仕方ないな。ハンター、本体の方も攻撃してくれ」
「うん!」
ちょっと呆れながらも、ラフィオは指示を出しながら自身も駆け出す。
セイバーとセイバーが互角の勝負をしてる中に突っ込んだ。そしてプリンの方に噛み付く。
当然だけどプリンの味はしない。ほんのりチョコの香りと甘み。フィアイーターって食えるんだなあ。
傷つけられた腕で抵抗しようとするプリンは、弱々しくラフィオの頬を叩くだけ。そしてフィアイーター自身はラフィオに止められて移動ができなくなった。
そこに至近距離からのハンターの援護。セイバーフィアイーターの手足に次々に射抜いていった。
「ありがと! よし! セイバー斬り! 自分と同じ姿してるのを斬るのなんか気が引けるけど!」
そうは言いつつ、セイバーはフィアイーターの首をバッサリと切り落とした。一撃だった。
チョコ製の剣が鉄と互角に切り結べるなら、首も人のと同じ強度なのかも。
「あった! 頭の中にコア! とりゃー!」
転がった首の断面を見たハンターが、そこに矢を放つ。正確にコアを射抜いて、フィアイーターはただのチョコ像に戻った。
「素晴らしい! 魔法少女の戦いは実にエキサイティングだ! できれば純粋な剣の勝負で終わらせてほしかったけど!」
「無茶言わないでよ! 勝てればなんでもいいのよ!」
「しかし君たちはサムライの子孫だ。剣で決着をつけるのが流儀ではないのか?」
「サムライよりも農民の子孫のほうが多いのよこの国は! てか、サムライの時代でも弓は普通に使われてたから! それから武士道って外国人が思ってるほど綺麗なものじゃないのよ! 勝つことだけが正義なの!」
隠れて最後まで戦いを見物していたチョコツクレル氏のコメントに、セイバーが猛烈な勢いで抗議する。
元気だなあ。
「ほら、セイバー。外に行くぞ。向うはまだ戦ってるだろうから」
「うへー。ギリギリの戦いで疲れてるのよ。でも行くしかないわねー。悠馬も心配だし。麻美も猛スピードで駆けつけるだろうし」
既に疲れてそうなセイバーは、ラフィオにもたれかかる。乗せろと言いたいのかな。外まですぐなのに。出たら降りて戦わなきゃいけないのに。
のそのそとラフィオが歩き出せば、セイバーは支えを失ってよろめき、なんとか踏みとどまった。
「待ってー。ラフィオ置いてかないでー」
まったく。情けない。たまに頼れる所は見せるけど、普段はこれだからなあ。
――――
麻美は自分の車を走らせ戦いの現場まで急行した。
港の方まで距離がある。戦いとは無関係な車がのんびり走っていたり、信号に止められたりするのに苛立ちながら、それでも可能な限り急いだ。
剛が心配だったから。
現場近くはさすがに人の通りが少なく、スピードを出せる。そして公園付近で赤い魔法少女の姿を見かけた。女の子を抱えて走る彼は、麻美の車に気づいた。
「麻美さん! この子、友達とはぐれた上に足を挫いていて。 安全な所まで連れて行ってください!」
「え、ええ。わかったわ。剛……ファイター、あなた大丈夫なの? 怪我は」
「見ての通り、元気です。いきなり怪物が出たときは驚いたし、実際あまり戦えなくて不甲斐ない気持ちもありますけど――」
麻美が抱きついたから、剛は言葉を続けられなかった。
「良かった。本当に無事で」
「あなたを残して死ぬなんてありえませんよ、麻美」
「ちょっ。呼び捨てにするのは進路決まってからで」
「ほら、早く行ってください。君、この人は魔法少女の味方だから。安心していいよ」
車の後部座席に座らされた少女に声をかけると、剛は戦いの場に走って戻ってしまった。
ああもう。男の子はこれだから。




