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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第14章 好きの行方

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14-29.ずっと一緒に

 ビール一缶で気が大きくなった愛奈は、既に日が沈んで街頭に照らされた路上で、俺に潤んだ目を向けている。

 一度深呼吸して、酒の力に後押しされて。


「わかってる。姉弟で結婚できないことなんて。わかってるよ」


 泣きそうな声で言った。


「いつか悠馬が誰かを愛して結婚を考えたとしても、それはわたしじゃない。わかっています。弟の恋愛を姉が、保護者のわたしが邪魔するのが良くないことも。けど、でも、わたし、悠馬のことが、好きです。離れたくない」


 今度は俺の方が、愛奈に近づき背中に腕を回した。愛奈もまた俺の胸に顔を埋める。

 泣いているのだろうな。しばらく、そのままにしていた。


 わかってる。姉弟で結婚は無理だ。それをわかりながらも、愛奈は俺のことが好き。だから、告白した男も断る。この街から離れることもない。


「姉ちゃんの気持ちはよくわかった。俺のこと、好きでいてくれてありがとう」


 愛奈の背中を撫でながら語りかける。


「俺も姉ちゃんが、愛奈が好きだ。愛していると言えるかは、わからない。そういうの、俺にはよくわからないから。けど、俺は愛奈の前からいなくなるのはありえない。俺も、ずっと一緒にいてほしい」

「うん……あのね。わたし、悠馬がこの先誰かを好きになることはあると思うの。その時は応援する。相手が誰であっても。お姉ちゃんとしてね。けど」


 顔を上げた愛奈は、笑っていた。


「わたしも悠馬から離れないから。あー、悠馬のお嫁さんは大変よね。わたしみたいなのがついてくるんだから」

「本当にな」


 俺も笑顔になっているんだろう。


「ふふん。悠馬のお姉ちゃんは世界にひとりだから。この座は誰にも奪えないから。そして悠馬とずっと一緒というだけで、わたしは幸せです! うん、それで満足してあげる」


 たぶん、愛奈はずっと思い悩んできたのだろう。それに自力でケリをつけた。


 俺の姉ちゃんは強いな。俺なんかよりもずっと強い。


「ありがとう、姉ちゃん」

「えー? なんのお礼? まあ、なんでもいっか。言葉よりも態度で示しなさい。なんかこう、結婚式ごっこするとかで!」

「変なことを言うな」

「ウエディングドレスのコスプレは、わたしまだ諦めてないからね! いつかするわよ!」

「なんでだよ!?」

「あー。気持ちの整理がついたらすっきりした! 飲み直したいわね! さっさと帰るわよ!」

「おいこら」


 俺の手を握ったまま、駅の方までぐいぐい引っ張っていく。

 愛奈は相変わらずの変な奴で、騒がしくて、可愛くて、頼れる姉ちゃんだ。


 世界一の、俺の姉ちゃんだ。




「ただいまー! 遥ちゃん夕飯!」

「ふたりとも遅いですよ! ほら夕飯。あとお酒も!」

「遥ちゃん気が利くわねー。いいお嫁さんになれるわよ」

「悠馬のって意味ですか?」

「もし悠馬が許すならね」

「……?」


 思ってたのと違う返事が来たことに、遥は首をかしげた。


「なによ。遥ちゃんいつも、悠馬の彼氏になりたいって言ってるでしょ?」

「なりたいってか、既にそうなんですけど」

「頑張ってねー。悠馬を惚れさせるのは大変だから。それに、自動的にわたしがついてくることになるしねー」

「ね、ねえ悠馬。愛奈さんどうしたの? なんか変なものでも食べた?」


 遥が困惑した様子で俺に近づき小声で尋ねた。


「食べてない。ただ、結婚式に出て人生観が変わったらしい」

「結婚式ってそんな影響あるものなの!?」

「いやまあ、正確には他の出来事もあったらしいけど。なんか気持ちに整理がついたらしい。姉弟では結局結ばれることはないって」


 こういう話題、俺が言っていいものなのかな。けど言わなきゃ遥もわからないだろうから。


 それ以上の説明をする気はなかったし、遥もそれを察したようだ。 


「な、なるほど……いや、当たり前なんだけど。そうなんだけど。いざ愛奈さんがそう決めたというのは、なんかこう。意外というか……うーん」


 難しそうな顔をしながら、遥はキッチンまで行ってしまった。

 静かに考え事したいってことだろうか。


「アユムちゃんも頑張ってねー! あとお酒注いで!」

「お、おう。なんというか、愛奈は今までで一番元気になってる気がする」

「でしょー?」


 アユムもまた混乱しつつ、愛奈の酒に付き合っていた。

 その目はチラチラとこっちにも向いていた。狙いを定めているようにも見えた。



 その日の終わり、俺は自室でチョコレートの包み紙を開けた。

 有名なブランドらしいけど、俺にはよくわからない。たぶん愛奈もわかってない。


 けど、そこに愛は確かにあった。


 箱の中に並べられてる色とりどりのチョコレート。うまそうだな。ひとつ食べてみた。甘い。

 味の感想なんか口にできるほど、俺は詩人じゃない。けれどこの味は噛み締めよう。



――――



「ねえ。愛奈さんについてどう思う?」

「どうって……」


 キッチンで洗い物をしながら、遥とアユム小さな声で話す。

 当の愛奈は飲み過ぎで、気持ち良さそうに眠っている。悠馬は部屋に戻ったし、ラフィオとつむぎはソファに並んで座っている。テレビはついているけれど、たぶん見てないな。ふたり寄り添うようにして微動だにしない。寝ちゃったかな。


 そんなことより、さっきの愛奈だ。姉弟でお墓参りして、その時になにか話し合ったわけだ。

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