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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第14章 好きの行方

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14-28.ふたりで墓参り

 そんなコソコソ話をする俺たちにも、相変わらず立ち尽くしてるアユムにも、プリンをスプーンでつついてるラフィオにも、ソファに寝転んで電気ネズミのぬいぐるみを抱きしめてるつむぎにも。

 愛奈は優しい目を向けながら酒を飲んでいた。



 翌日。俺は約束通りに放課後に先祖の墓がある霊園へと向う。学校から制服着たまま直接だ。

 遥たちも付いて行きたがったけど、今回は断っておいた。愛奈にとっては大事なことのようだから。


 愛奈自身は、今日は半休を取って先に現地にいるらしい。


 俺も電車に乗って追いかける。



 前回墓参りしてから半年間放置されたそれは、確かに汚れているようだった。毎年掃除している時に見るほどではない。

 けどスーツ姿の愛奈は、雑巾でそれを丁寧に拭いていた。


「みゃー! 冷たい! 寒すぎ! 二月ってなんでこんなに寒いのよ!」


 作業は丁寧だけど、言ってることは墓の雰囲気に全くそぐわなかった。


「あ! 悠馬! 手伝って! てか、手が冷たすぎるの! 手先の感覚がなくてやばいのよ! 温めて!」

「うわ冷たっ!」


 俺が来るとすかさず首筋に手を当ててくる。ひんやりとした感覚、どころではなくとんでもない冷たさを感じた。


「あー。悠馬の首温かい。てか、人間の首はみんな温かいのよねー」

「うるさい。手を離せ。掃除の続きするぞ」

「だいたい終わってるわよ。お供え物も買ってきたわ」


 夏にもお供えしたものを、愛奈は近くのコンビニで用意してたようだ。定番の落雁に、両親が好きだったビール。それからプリン。


「お父さんお母さん、春馬、それから先祖の皆さん。今日は冬にもお参りしてみました。特に意味はないですけれど、いかがお過ごしでしょうか」


 墓前で手を合わせて静かに話しかける愛奈。こういうのって普通は無言でやるものじゃないかな。


 それにしても、特に意味はない、か。意味がなければこんなことしないものだけど。


 先祖に報告することはない、ということかな。だからこれは、愛奈の側の気持ちの問題。

 俺も手を合わせて無言で先祖たちに話しかける。日々うまくやってる。受験生になるから、天から見守ってくれ。そんなことを心に浮かべた。


 先祖からの返事はない。当然だ。誰も霊なんか信じていない。墓参りをするのは、先祖を敬う生者たちの事情に過ぎないのだから。


 しばらくそうしてから、お供え物を回収して霊園の出口まで向かう。

 そこから駅まで徒歩で移動。あとは電車で帰るだけ。愛奈が俺とここへ来たがった理由は、まだわからない。


「悠馬」


 愛奈は俺の後ろをゆっくり歩いていた。そして不意に声をかけた。

 なんだろうと振り返ると。


「ぷはー!」

「おい!」


 お供え物のビールをプシュッと開けて、一気飲みしていた。


 路上飲みなんて、そんな非常識なことする奴だったか? しかも霊園の近くで。なんかこう、罰当たりな気がするけど。


「悠馬ー」

「おいこら。抱きつくな」


 さらに愛奈は俺に近づくと腕を絡めてきた。俺と正面からくっつくような形になりかけたけど、さすがに駄目だ。後退って避けた。


「急にどうした」

「だってー。酔った勢いじゃなきゃ言えないんだもん」

「なにが」

「はいこれ! ハッピーバレンタイン!」


 鞄の中にしまっていたらしい包装。

 チョコレートなのは、なんとなくわかったけど。


「東京駅で売ってたの! もらってください!」

「……わかった。ありがとう。それで」

「わたしね、結婚式の前の日、高校時代の同級生に告白されたの。前から好きだった。結婚を前提にお付き合いしないかって。相手は有名な総合商社のエリート。出世間違いなしね」

「……」


 差し出されたチョコレートを受け取りながら、愛奈の言葉を聞く。そして、少し驚く。

 そんなことがあったなんて。


「そ、そうか。それは……良かった、のか?」


 いいことだよな。そのはずだ。


 けど、なぜか寂しい気持ちがこみ上げてきて。


「でね。わたし、お断りすることにします!」

「なんでだよ」


 気持ちは一瞬で引っ込んだ。意味がわからない。


「向こうはね、わたしの家庭のことも知ってて、悠馬が大学入るまでは待っててくれるって言ってくれたの」

「良い奴じゃねえか。なんで断るんだよ」


 大学生になれば自立もできよう。学費の心配はあるけど、奨学金とかの手はある。愛奈がそれを使いたくないって気持ちがあるのは知ってるけど、よその家の家計に入ったら関係なくなる。


「だって! 向こうはわたしに専業主婦になってほしそうだったもん! 無理無理! 絶対に無理! むーりー!」

「情けないことを言うな!」


 お金持ちなら、そこもなんとかできるだろ。ハウスキーパー雇うとか。


「それに、わたし模布市から離れたくないもん! お墓の世話とかもあるし!」


 だからこんな時間に墓参りか。でも、そんなもの俺に押しつければいいだろ。俺は地元で進学するつもりなんだから。


「悠馬から離れたくないし!」

「そこは離れろ! また、俺と結婚したいとか言い出すんじゃないだろうな!?」


 手渡されたチョコレートを持つ手に力が入る。


 チョコレートに愛を込めて、なんて発想は古臭い? けど、愛奈はまさか本当に、弟に告白の意味で渡したって言い出すんじゃないだろうか。

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