14-22.友人の結婚式
翌朝。起きなきゃいけない時間帯までぐっすり寝て、アラームによって叩き起こされてから二度寝をしなかったのは、愛奈にとって奇跡と言っていい。
二日酔いも思ってたほどひどくない。朝食含めて水分を摂ればすぐに良くなるだろう。
シャワーを浴びてメイクもしっかりしてホテルをチェックアウト。そして会場へと向う。完璧。ひとりでもやれるじゃない、わたし。
キャリーケースは会場である高めのホテルで預かってくれるサービスがあるらしい。必要な荷物だけ受け取って、正装に着替えて会場入り。
花嫁の控室に顔を出す。
「やっほ、千夏ちゃん」
「愛奈ちゃん! 久しぶり! 元気そうでなにより!」
「ええ。なんとかやれてるわ。結婚おめでとう。ウエディングドレス似合ってるわ」
「ありがとうね!」
彼女は愛奈との再会を心から喜んでいるようだ。立ち上がって手を取って笑顔を見せてくれた。
「ご祝儀は後で、みんなと同じタイミングで渡すわね。それとは別に、これ。ハッピーバレンタイン」
「バレンタイン?」
「千夏ちゃん、いつもみんなにチョコくれてたでしょ? わたしは料理下手だから、あの時からお返しはできなかった。今も全然駄目なままなんだけどね。でもいいもの買ってきたのよ」
「そっか! ありがとう! 中、見ていい?」
「どうぞどうぞ」
「わー。モフ鳥さんだ。懐かしー。今も現役なの?」
「そうよ。今も模布市では人気キャラ。あとこっちは、模布市に緊急来日したチョコツクレルさんのブランドのやつ」
「チョコツクレル!? ニュース見たよすごい人気だよね!? 愛奈ちゃん買えたの?」
「まあなんというか。頑張りました」
魔法少女だから恩を売って手に入れたとか、口が避けても言えない。
愛奈が朝早くから並ぶとかの努力をしたのだと受けとった彼女は、涙ぐむ表情を見せた。
「愛奈ちゃん、本当に偉いよね。ご両親が亡くなって、弟の世話をしながら頑張ってて」
またそれか。慣れたからいいだけど。気遣い自体はありがたいし、黙って聞いておこう。
「それで、住んでる街に怪物が出たんでしょ? 魔法少女って人たちが頑張ってるけど、それでも怖いよね?」
「たしかにね。けど、魔法少女は強いから。心配はしてないわ」
「そっか。愛奈ちゃん、本当にすごいよ。尊敬している。……あなたにも幸せになってほしいわ」
「幸せに、ね。わたしは既に幸せよ。家族に恵まれてる」
「ええ。そうだよね」
千夏は引き下がったけど、言いたいことはわかる。あなたも結婚しなさい、みたいなことだろう。
彼女は今、とても幸せなんだろうな。よくわかるとも。わたしもそういう幸せに浸るべきなことも。
ウエディングドレス、綺麗だな。
「ドレス本当に綺麗よね」
式の最中、同じテーブルに着いている花凛が話しかけてきた。その通り。花嫁は本当に素敵で、かつては花凛も違うウエディングドレスを着ていて、やはり綺麗だった。
「そうね。なんだかんだ言って、憧れよね」
「ねえ。昨日佐野くんといい雰囲気だったよね?」
「見てたの……見てたか」
直前までに、こっちに注目が行っていた。見られてるに決まってる。
「ええ。どうなの?」
「どうって。……お付き合いしたいって言われたわ」
「やっぱり。彼、相当いい給料貰ってるらしいよ」
「みたいね。家族を養えるだけの稼ぎはあるって。けど、同窓会で再会して突然そんな話なんて。気が早いわ」
「けど、まんざらでもないって感じ?」
「どうかしら」
また、花嫁の方を見る。結婚した側は余裕だな。結婚してない側に、結婚はいいぞと得意げに言う。それか、結婚なんてろくなもんじゃないと自虐風に自慢する。
結構なことだと思う。みんなどんどんやればいい。けど、わたしの場合は……。
「あ」
バッグの中のスマホが震えた。
それから警報音を出す。花凛含めて同じテーブルの招待客たちのスマホもいくつか震えた。
みんな、模布市から来ている者だ。東京に来たとはいえ、スマホの住所は模布市のまま。だから向こうで怪物が出ればここで警報が鳴る。
ちょっとどよめきがあったり、東京人たちがちょっと興味深そうにこっちを見ていたけれど、それ以上何があるというわけじゃない。
愛奈にとっても同じだ。今頃悠馬たちが慌てて家から飛び出してるのだろうな。
こっちはちょっと心配しながらも、無事に戦い抜いてくれることを祈るしかできない。
――――
愛奈がいない、いつもと違う日曜日。いや、変化はあまりないのだと思う。日曜日の愛奈はいつも遅くまで寝ているから。騒がしいとかは特にない。
昨日水族館に行ってつむぎが買った、大きなアザラシのぬいぐるみがソファに置かれていた。先日最終回を迎えて新シリーズへと切り替わったミラクルフォースを見ながらモフモフしている。
新しい妖精は蛇だ。モフモフではなさそうだけど、つむぎ的にはありらしい。
ラフィオと並んで見るミラクルフォースが終わって、その次の仮面ヒーローも終わってから朝食を食べる。
今日は特に予定もない。各々、なんとなくやりたいことをして過ごしていた。
今頃愛奈は結婚式だろうな。花嫁衣裳を見て何を考えてるんだろうか。
やっぱり愛奈にとっても、ウエディングドレスは憧れなんだろうか。つむぎは憧れてるらしいことは知ってる。他のみんなはどうだろう。訊くのはちょっと気が引けた。
愛奈は俺に養ってほしいとは言ってるけど、そんな選択をしたらウエディングドレス着れない。着たいと思ってるとは限らないけど、実際にどうなんだろうな。
わからない。深く考える気も起きなかった。
ちょうどそのタイミングで、スマホから警報が鳴った。




