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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第14章 好きの行方

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14-21.エリート同級生

「双里さん?」

「え。あ」


 目の前の男に声をかけられて、愛奈は我に返った。


「ごめんね。ちょっと考え事してて。なんの話だっけ。そうそう、悠馬が、弟が、わたしとずっと一緒にいたいかってことよね」

「そう。仲がいいきょうだいなのは良いことだ」

「でしょー? まあでも、永遠に一緒ってことはありえないかなとは思ってる」

「そうか。弟さんは今、高校の?」

「二年。もうすぐ受験生ね」

「一番大変な時期だ。けどそれを乗り越えたら、もう手が掛からなくなるだろう」

「……そうね」


 嫌だけど、たぶん現実はそうなる。


 悠馬はどこの大学に行くって言ってたっけ。地元? それとも下宿生活に入る? 前に話してた気がするけど、覚えてないな。地元だった気がする……。


 で、なんでこの男が弟の今後を気にするのかといえば。


「ええっと、佐野くん。あなた、わたしに気があるのかしら」


 愛奈にもそれくらいわかった。高そうなスーツを着こなして、いかにも自分に自身があるって雰囲気。彼の名前をようやく思い出した。

 高校時代は目立つ子ではなかったな。けど勉強はできた。たしか、東京のいい大学に入ったんじゃなかったっけ。


 在学中の彼との思い出はあまりない気がする。けど、向こうはこっちを見ていたのかな。


 ストレートな愛奈の問いかけに、佐野は苦笑した。


「はっきり言ってくれるね。けど、その通りだ。高校時代から双里さん。あなたのことが好きだった」

「そう。だったら高校の時に言ってくれたら良かったのに」

「接点がなかったから。ただの片想い。それに俺は臆病だった。……もし高校時代に告白していたら、受け入れてくれたか?」

「たぶん、あなたのことよく知らないと答えたでしょうね。今もだけど」

「俺は今、商社に勤めている。これでも同期の中では成績はトップだ」


 佐野は名刺を手渡した。おお、大企業だ。若いから役職がついてるわけじゃないけど、東京にある本社勤務なのはわかる。


「双里さん。弟さんが大学に入ったら、東京に来ないか?」

「結婚を前提にお付き合いってこと?」

「そうなるかな」

「わたし、東京なんかで働くつてなんか無いわよ」

「どうにかできる。家族を養うのに余裕の稼ぎはある」

「そっかー」


 養われるか。悠馬を大学に行かせるのも、いい会社に入ってもらって養われるためだ。


 愛奈は本当に仕事がしたくない。自分でも情けないとは、実のところ思っている。仕事だけではなく、家事全般もできない。

 できることは酒を飲むだけ。あとは魔法少女として戦うだけ。


 それでも悠馬が働けるようになるまでは、仕事は頑張るつもりではいた。けど、誰か他に素敵な男性が現れたとしたら。寿退社できるとしたら。働く期間は大幅に減る。


 悪い話ではないのか? 別に好きでもない男と結婚することの可否はともかく、愛奈のより良い人生にとっては邪魔にはならない。

 好きではないとはいえ、付き合ってみたらいい男かもしれないし。


 けど。なんとなく決断がためらわれた。


 それはなぜだろう。さっさと働く苦しみから解放されるべきなのに。

 悠馬や、模布市から離れたくないって気持ちがあった。


 より都会に移り住めるチャンスなのに。アユムみたいにとは言わないけど、より大きくて便利な場所に行きたいっていうのは普通のこと。だけど愛奈は迷った。


「急な話だし、ちょっと答えは出せないわねー」

「それはもちろんだ。弟さんの進学まで時間はある。ゆっくり考えてくれ」


 彼は随分と自信がありそうな様子だった。自分が断られることは無いと思ってるんだろうな。

 これだからエリートというやつは。


「ええ。考えておくわ」


 自分の揺れる気持ちを押さえつけながらも、素っ気ない返事をした。


 その後は旧友たちと思い出話に花を咲かせたりして、和やかな雰囲気で同窓会は終わった。明日が本番なのだからと、みんなそれぞれ帰っていく。

 愛奈も同様。ホテルの近くでお酒と肴を買ったりはしたけど。うん、そんなに飲みすぎてはいない。常識の範囲内だ。ストロング酎ハイのロング缶二本とか、飲んでるうちに入らないもの。


「うえ。飲みすぎた……なんでだろ……」


 なのに気持ち悪くなって、ホテルの机に突っ伏してしまった。


「悠馬ー……はいないのか。そっか。ひとりか」


 ホテルの一人部屋。声を上げても返事をしてくれる人はいない。今までなら、悠馬がいない時でも誰かが世話してくれたのに。


「と、とりあえず水ね。水を飲んでアルコールを分解……うへー。誰かー」


 ひとりかこんなに寂しいものとは。酔いすぎて痛む頭を抑えながら洗面所へと向う。洗面器とお風呂とトイレが一緒になってる、ビジネスホテルのあれだ。

 お風呂に入れば一気に水分補給ができるとか馬鹿なこと考えたけど、やめておいた。危険だと知っている。


 お湯を出して飲んで、あとは体の中で分解されるのを待つだけ。分解されたら体外に出して、また体が水を求めるから飲む。その繰り返し。

 眠くなったら寝て、明日はひどい二日酔いになりそうだから、また水を飲んでなんとかする。


 友の晴れ姿を前に情けない格好は見せられないな。こっちは招かれる側だから、朝早いわけじゃないのが幸いだ。ああでも、チョコを渡さないと。となると少し早くに行かないと。


 朝起きられるかな。モーニングコールは設定してる。あと、スマホのアラームも。けど明日はフライパンは無しだ。


 別にフライパン叩いてほしいわけじゃない。けど毎朝の習慣に組み込まれてるから、無いと起きられない気がする。


「うへー。悠馬……」


 明日の夜には会える弟を恋しく思いながら、愛奈は眠りに落ちていった。

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