14-12.デート中のフィアイーター
チョコツクレルは言いたい事を言い終わり、司会者といくつかやり取りをしてから、サイン会へと移っていった。長蛇の列ができているそこに並ぶ気は起きなかった。
あと、チョコツクレル氏の作った菓子も売っていた。そこも列ができていて売り切れ必至だった。
「んー。あの子に渡すチョコ、せっかくだからチョコツクレルのやつがいいかなって少し思ったけど」
「買えなさそうだな」
「ええ。バレンタインデーまで、いくつかの場所で販売するんでしょうけど。無理そうね」
「他のチョコ買うか」
「そうね。模布市限定発売のチョコとかもあるそうだし、それ買ってもいいかもねー」
「地元野球チームとのコラボチョコとかな」
「あのチーム、弱いからそんなの喜ばれないわよ」
「たしかに」
「フィァァァァァ!」
「テレビ局のキャラクターとのコラボチョコとかもあるそうよ。それこそ、澁谷さんの所のモフ鳥さんとか」
「おい。姉ちゃん」
「フィァァァァァァァァァァ!」
「ここには売ってないわねー。テレビ局の一階の売店とか行かなきゃいけないのかしら」
「姉ちゃんフィアイーター」
「あのテレビ局も布栄にあるのよね。あ、でも澁谷さんとまた飲みたいから持ってこさせるのもありかしら」
「姉ちゃん! フィアイーターが出てる! 変身して戦え!」
スマホが一斉に警報を発して、デパート内は混乱に陥っていた。その中で愛奈は現実逃避するようにチョコレートを見続けていて。けど、いつまでも無視はできなくて。
「やだー! なんでデートの日に限って出てくるのよ! しかもあれじゃない! チョコツクレルが望んだシチュエーションじゃない! やだ! やー!」
制服姿で駄々をこねる成人女性。なんて醜いんだろう。
「別にいいだろ。俺もチョコツクレルと積極的に関わりたいとは思わないけど。その場に居合わせるくらいはいい」
「うううー! 仕方ないわねさっさと終わらせるわよ!」
客が避難していく中に紛れながら、人目のない場所へ移動。愛奈は魔法少女シャイニーセイバーに変身して、俺も覆面を被る。
なにか武器として使えるものはないかと探すけど、食料品売り場ではそんなものは見つからない。
と思ったら、サイン会の列形成のためのポールがあった。布製のバンドを繋ぎ合わせて道を作るやつだ。
これが屋外だったら、三角コーンと棒で作られてるのだろうな。けど、こっちのポールでも鈍器にはなる。デパートだからか、高級感のある金属製。
少々重いが担ぎ上げた。
「フィー!」
「来やがったな」
黒タイツが一体迫ってきた。俺はポールを振り、底の広くなっている箇所を奴の頭に叩きつけた。ひっくり返るように倒れた黒タイツは、頭部の損傷で倒れたらしい。
フィアイーター本体はどこだろう。デパートの食料品売り場は見晴らしがいい場所とは言えない。が、高級志向のスイーツ店の陰からのっそりと奴は現れた。
カップ入りプリンに手足が生えていた。
デパートの地下で売るにふさわしい、高めのプリンなんだろうな。ラフィオに渡したら喜びそうだな。
そんな呑気なことを考えていた。ラフィオたち、もうすぐ来るかな。
――――
魔法少女たちがチョコレートを作っている。正確には、スーパーで買ってきた板チョコを、刻んで溶かしてアルミカップに入れて冷やし直している。
それでバレンタインデーのチョコは完成するらしい。そういうものでいいと思う。カカオから作りますとか言われても無理だもんな。
「よし。とりあえず冷えるの待つだけだねー。えっと、それまで何しよっか」
遥がみんなに尋ねたのと同時に、スマホから警報が鳴った。
チョコが冷えるまでフィアイーター退治だな。
「ラフィオー。おっきくなって! モフモフさせて! じゃなくて運んで!」
すぐさまつむぎが抱きついてきた。大きくさせたいなら離れろ。
「あの。わたしも連れて行ってもらえますでしょうか。一応、立場としては取材しなきゃいけなくて」
「はい! いいですよ!」
即断で許可したつむぎは、変身しながら巨大化したラフィオに飛び乗った。澁谷も、その後ろに乗りこむ。
遥とアユムも変身して、ベランダから飛び出した。現場は布栄のデパートらしい。
デパートか。プリンとかも売ってるかなあ。チョコレートもいいけど、プリンが食べたいな。
――――
「なにあれ!? プリン? なんか弱そうねー。体は大きいけど」
プリンが巨大化したフィアイーターに、セイバーは呑気そうな感想を口にした。まあ確かに、強そうには見えない。素材も柔らかそうだし。透明カップの体の中にあるはずのコアは見えない。プリンに埋もれてるのかな。
体の高さが天井ギリギリで、図体はでかくて未動きも取りにくそうだった。デパートの食料品売り場っていう、あまり広くはない場所に出たのも間違いだったな。
その分、黒タイツどもが邪魔して本丸に直接攻め込むのも難しいって面もあるけど。
俺とセイバーは離れることなく、ふたり揃って黒タイツの掃討に当たっていた。セイバーは剣を振り続けてるし、俺もポールを振り続ける。
ポールは鈍器としての性能は抜群で、黒タイツの頭に当てれば一発で殺すことができた。ただし重すぎる。ずっと持ってるものでもないから、だんだんと腕が疲れてきた。
敵もその頃合いを見計らっていたのかもしれない。
「フィー!」
「マジかよ」
黒タイツの一体もポールを持って襲いかかってた。互いに相手に向ってそれを振り、中間地点で激突した。俺の腕に強い衝撃で痺れる感覚。ついに限界が来て、ポールを落としてしまった。




