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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第14章 好きの行方

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14-11.チョコツクレルのイベント

 案の定、他の客がこっちを見てるし、店員の姿もあった。怪我人は彼らに任せればいいだろう。


 殴られたと店員に主張するかもしれないけど、その前にナンパを試みていたのは確かだしそれで怒られるはずだ。高校生のガキに負けたって事実がプライドを傷つけるから、案外大人しくしてるかもな。


 ところで、大人しくしてるのは殴られなかった男ふたりも同様で。彼らは呆然とこちらを見ていた。

 いきなりの暴力行為のせいか、それとも俺が愛奈を姉ちゃんと呼んだためか。


「もー。悠馬ってば。彼氏として振る舞ってよ。今のは格好良かったけどね! あ、君たち。実を言うとわたし、君たちより年上だから」


 と、財布から免許証を出してみせる。


 うん、かなり驚いてるな。


「ふふっ。JKかわいいって思ってくれてありがとね。でも、ナンパは良くないからやめましょうね。悠馬行こっ!」


 愛奈は俺に手を絡めて部屋から出る。もうカラオケする気もなくなったかな。店員に声をかけて、あとは任せますと言って手早く会計を済ませて外に出た。


「悠馬ありがとう! 助けに来てくれたの、格好良かったよ!」

「それはいいけど、男に絡まれたならもっと他にやりようあるだろ。大声で助けを呼ぶとか。なにちょっと嬉しそうだったんだよ」

「だって。高校生に見えたことが嬉しくて。あと悠馬が助けてくれるとわかってたから」

「まったく。俺がなにかトラブって、すぐ来れなかったらどうするんだ。あの男たちは雑魚だったけど、もっと強引で乱暴な奴だったら大変だぞ。姉ちゃんは、魔法少女じゃない時は弱い女なんだから。用心しろよ」

「わかってるわかってる。もう悠馬から離れない。それで、次はどこ行こっか。あ、デパート行きましょう」

「なんでそうなる」


 布栄にはデパートがふたつある。その一方へと愛奈は向かっていった。


 愛奈の行きたい場所にいかせてあげるべきだけど、なんで急にデパートなんだ。


「ほら。駅前のお店で、来週の結婚式に友達に渡すチョコレート買ったじゃない? あれでもいいかなとは思うけど、せっかくだからデパートで良いもの買ってもいいかなって」

「なるほど。でも、もう買ったんだよな?」

「あれはみんなで食べましょう」


 それはありだ。


 デパートに行くのは俺も反対しない。客層がいいから、制服姿の愛奈をナンパしようとする輩はいないだろうから。


 と思ってたのに、そこには別の厄介事があった。


 デパートでは年に一度のバレンタインデー商戦に力を入れていて、地下の食料品売り場は盛況だった。

 いや、それにしても込みすぎじゃないか? 人で溢れてるというか、前に進めないぞ。


「あー。たぶんこれじゃないかなー」


 ふたり、はぐれないよう手を繋ぎながら売り場の端へ向かう。そこにフロアマップと催事の案内が表示されていた。

 ロベルト・チョコツクレル氏のサイン会が緊急開催と書いてあった。


 そりゃな。世間的には、昨日緊急来日したわけで。それに応じた緊急開催なんだろう。テレビ局に事前リークがあったように、このデパートにも事前に話は行ってたのかもしれないけど。それでも緊急開催だ。


「それで人が大勢いるのね」

「本当に人気パティシエなんだな。急遽決まったイベントに、こんなに人が来るなんて」

「テレビで大きく扱ってたからじゃないかな」


 ローカル局がこぞって来日の模様を伝えた。たぶん今日だって、朝のローカル番組ではどこのテレビ局でも扱ってたんだろうな。


 だからこの人出だ。チョコツクレル氏が本邦でどれだけの知名度が元からあったのかは、俺は知らない。俺自身も知らなかったのだし。けど、これだけ集まっている人の数から知名度は察せられた。


「どうする? チョコツクレルさんの顔、一応見ておく?」

「見てみるか。とはいえ、遠巻きにだろうけど」


 サインを貰うのは無理そうだな。


 フロアの隅で、もうしばらく待つ。このフロアは普段は食料品を売る店がいくつも並んでるのだけど、人が多すぎて機能停止になっていた。サイン会が終われば、この大勢の客の何割かは買い物をするわけだから、店にとってマイナスではないのだろうけど。


 洋菓子店のプリン美味しそうだな。ラフィオに買って帰ろうかなと考えていると、チョコツクレル氏が登場した。


 昨日調べた通りの顔。割とイケメンだと思う。胡散臭い雰囲気はなく、パティシエらしい白い服もピシッと着こなしていた。

 サイン会をする前にトークショー的なことをするらしい。よく知らない女の司会者が挨拶して、チョコツクレルと会話している。


 チョコツクレルは流暢な日本語で話している。


「模布市の皆さん、はじめまして。チョコツクレルと言います。皆さんに会えたこと、光栄に思います。わたしはパティシエとして、スイーツ作りを通して世界を表現しようと考えています。世界とは、人々の営みのことです。毎日普通に生きることの大変さと、それを乗り越えている人々の姿のなんと美しいことか。そして、今最も過酷な毎日を送っているのは、この街の人たちだと思うのです」


 そうか? 紛争地帯とか被災地に比べると、まだ模布市は平和だと思うけど。戦争も災害も魔法少女には止められない。けどフィアイーターは倒せる。


 確実にどこかに怪物が現れるという環境の中で住み続けている住民たちが、ひ弱だとも言えないけれど。


「わたしは模布市に来て、そこで暮らす人々の姿を直接見て、インスピレーションを得たいと思いました。今、ここに来ている皆さんの顔。困難に立ち向かい、日々を強く生き続ける人たちの姿は、わたしのスイーツ作りをさらに高みに導くでしょう」

「結局、自分のためなのねー」


 俺の隣で愛奈が小さく言った。俺以外の誰にも聞こえないように。


「別にいいだろ。それで経済効果が出るなら」

「そうだけどね。わたしたちのことを金儲けのダシにしてるのが。なんか気に食わない」

「そうか」


 気持ちはわからなくはないけど。魔法少女が人々の希望であるなら、こういうことは起こって然るべきだ。これくらいならいいだろう。

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