14-9.姉と制服デート
頑張れと心の中でエールを送りながら、ラフィオはモフられて歪んでいるモフ鳥さんぬいぐるみの形を整えていた。
「ラフィオー。スーパー行くけど、ついていく? 晩ごはんの材料買うとか」
「しばらくキッチンは男子禁制じゃなかったかい?」
「そうだった! じゃあモフ鳥さんとお留守番しててね!」
魔法少女三人と澁谷で、買い物に出掛けるようだ。
うん。寂しくなんかないよ。みんな頑張ってね。
――――
「大人になって遊ぶってなると、大抵飲みになるのよね。それはそれで楽しいけど、毎回それだと味気ないというか」
制服姿の愛奈と並んで、布栄の街を歩く。市内一番の繁華街で、週末ということもあって中高生の姿も目立つ。制服姿もちらほら見かけるけど、デートしてるって感じのは少ないな。
愛奈はそんな光景に、意外なほどに溶け込んでいた。本来よりもずっと年上の女が年甲斐もなく制服着ているとは、誰にも意識されていないらしい。
よく見れば違和感あるのかもしれないけど、ちらっと見ただけだと女子高生にしか見えないんだろうな。
すごいことだと思う。
「だから、今回は酒無しで楽しみたいと思うのよ」
「それはいいな」
勝手に話し続けてる愛奈に、言ってることはまともだと返事する。
この格好だと居酒屋に入っても酒は注文できないだろうから。
ただ。
「姉ちゃん、酒以外に趣味ってないよな?」
「あー。うん。それはそう」
家に帰ってすることといえば、テレビをぼーっと見ながら酒を飲み、休日はずっと寝ている。
これで太らないのが奇跡だと思っていた。
大人の遊びは飲みだけとは言うが、それが一番楽しいタイプの人間だ。
「高校生が遊ぶ時の定番ってなにかしら」
「カラオケとゲーセン」
「よし行きましょう! あとなんか、映えるスイーツとかも食べるのよね!」
「そうだな。行くか」
「まだちょっと酒が残ってるから、飲食店から行きましょう。水飲みたい」
「言ってることが高校生じゃないんだよなあ」
ここは布栄。映えるお菓子をだすカフェなんか、いくらでもある。
スマホで調べて、店の前にできていた行列に驚きながらも、その最後尾に並んだ。
高校生から大学生くらいの女子グループに、カップルが多い。男だけのグループの姿は見当たらず、つまり男は少数派みたいだ。
店内の様子を見るに、おしゃれで落ち着いた雰囲気。男お断りという店ではないけど、客層は若い女がメインで少し居心地が悪そうだ。
「緊張しなくていいのよ。こういう所にカップルで入るのは普通なんだから」
「カップルじゃない」
同じ制服を着てたとしても、姉弟だ。
「いいのよ。周りから見たらカップルなんだから。ねー悠馬。ここって焼きたてアップルパイがおいしいんだって」
「おい」
腕を絡めて胸を押し付けてくる愛奈。胸が薄いから、必然的に顔が近くなる。
「お店の前で写真撮ろ。看板が見えるようにして。別にネットに上げるわけじゃないけどね!」
言いながら、スマホをインカメにして一枚撮る。周りでも同じように写真を撮ってる人が多い。そういうものなんだな。
愛奈だって、周りを見ながら真似してるだけみたいだ。
「へー。値段も良心的ね。まあ、居酒屋だともっと安く大量に食べられる所も多いけど」
「映えスポットで居酒屋の話をするな。特に制服姿の時に」
「普段行く居酒屋と比べると高いわねー。酒場のアルコールよりもコーヒーの方が高いの、ちょっと信じられないわね。コーヒーじゃ酔えないわよ」
「だから。コーヒーも酒と同じ嗜好品なんだよ。あと雰囲気代だ」
「わたし、こういう落ち着いた雰囲気の所より、居酒屋の方が好きよ。肩苦しくなくて」
「こういう雰囲気が落ち着く人も多いんだよ。あと、写真撮るときに居酒屋だと映えないとかで」
「いいね代かー。なるほどね。ん? でも待って? 料理の写真撮るなら背景はテーブルだけだし、お店の雰囲気関係なくない?」
「いや、こういうのだよ」
ネットでそれっぽい写真を検索する。若い女が映えるお菓子の器を持って、自分の顔の横に持ってきている写真だ。これから店の雰囲気も背景として映る。
「うわ出たー。これあれじゃない。映えるってお菓子を撮ってると見せかけて、自分のかわいい顔をみんなに見せたいだけじゃない。お菓子は引き立て役よ」
「それは俺も同意見だけど。これでいいねを貰うことを楽しみにしてる奴もいるんだよ。その趣味に口を出すな」
「あー。お酒飲みたい」
「だから。酒のことは忘れろ」
「無理です。……コーヒー苦い。ミルク多めに入れちゃおっと」
映えというものを理解しない奴だ。まあ、コーヒーの美味しさは俺にもよくわからないけど。
ややって、店の名物のアップルパイが運ばれてきた。これもSNS映えするものらしい。
たしかに、焼きたてのアップルパイにアイスクリームを添えたのは美味しそうに見える。
世間的に、これがどう映えるのかはわからない。愛奈も同じだったらしい。
「うん! 写真撮るの飽きた! いただきまーす!」
と、猛烈な勢いで食べ始めた。すぐに食べ終わった。
「美味しいけど、値段ほどの量はないわねー」
「映え代も込みだからな」
「そう考えるとうまい値段設定よね。でも、もう少し量がある定食屋とか、わたしたくさん知ってるから。営業の仕事してるからね!」
だから。もう少し格好に合わせた発言をしろ。




