14-7.二日酔いの制服女とバニーさん
「あー! 澁谷さん何してるのよ! 離れて! てかわたしも悠馬に抱きつきたい!」
「おいこら! 姉ちゃんまでなんだよ!?」
「悠馬! お姉ちゃんと制服デートしよ!」
「やらねえよ!」
「やーるーのー!」
「うわ力が強い! 酔っ払って自制がきかなくなってる!」
「愛奈さん! ずるいですよ! 愛奈さんは毎日悠馬くんに抱きつけるじゃないですか! 今日くらいわたしに譲ってください!」
「やだ! 譲らないもん! 悠馬はずっとわたしのだもん!」
「お前ら。ふたりとも悠馬から離れろ」
「そうですよ! 悠馬が困ってるじゃないですか!」
「アユムちゃん! お酒持ってきて!」
「お前バニーさんなんだから自分で注げよ! そういう仕事だろ!」
ああ。収拾がつかなくなってきた。
「アユム。手伝ってくれ。この酔っ払いどもを部屋まで運ぶぞ」
「おう! 遥はテーブルの上片付けてくれ」
「うん。わかった。よろしくね」
「わ! 悠馬強い! ちょっ! 引っ張らないで!」
「悠馬くん強いわねー。さすが、男性って感じがして好きです」
「はいはい」
制服社会人とバニー女を愛奈の部屋に引きずっていき、ベッド野上に押し倒してすぐに部屋から出る。
あまりにも酔いすぎていたふたりは、横になった途端に寝息を立て始めた。
ああ。疲れた。
「いいのか? なんか流れで、澁谷を泊めることになったけど」
ふたりが部屋からでないように、アユムと俺は扉を押さえていた。正確には、扉に背中でもたれかかりながら床に座った。
完全に寝静まるまではこうするつもりだ。
だからふたりのコスプレ女は、このまま朝まで起きないだろう。
アユムが気になったのがそこだ。
幸いにして明日は土曜日。愛奈は仕事が休みだ。アナウンサーはどうかわからないけど、平日の帯番組の仕事をしているんだ。たぶん澁谷も土日休みなんだろう。
明日の心配はない。だから澁谷を家に泊める判断をした。
「仕方ないだろ。あそこまで酔ってたら、家から帰すわけにもいかない」
「まあな。明らかに自力では帰れなさそうだよな」
「タクシーとか呼ぶにしても、澁谷の住所を知らない。だから俺が送りに行くのも無理。というか、あの格好の澁谷を外に出すわけにはいかない」
「うん。それもそうだ。自力で着替えられなさそう」
誰かが着替えさせなきゃいけないな。あのバニーさんを脱がして。
「着替える時、あいつ一度裸になってたからな。なあ悠馬。澁谷の下着、すごかったぜ。あれ勝負下着なのかな」
「言わなくていいから。そんなことは」
「見るか? 風呂場にまだあるぜ」
「見ないから」
「……澁谷、よほど疲れてるんだろうな。上の方針が気に入らないとかで」
「まあな。アナウンサーってだけでも大変な仕事なのに、その上魔法少女関連の窓口もしてるんだもんな」
挙げ句に、チョコツクレル氏の茶番だ。魔法少女たちに迷惑をかけたくないと謝罪しに来たのも本心で、魔法少女を求めるチョコツクレル氏の件を盛り上げたい局の方針と俺たちの間で板挟みになってたんだろう。
「俺に抱きついてくるのはまずいけど、それ以外のわがままは許してあげたいとは思ってる」
「同感だ。悠馬に抱きつくの許さないけど。てかオレもやりたい」
ちょっと、アユムがこっちにもたれかかってきて、俺は反射的に離れた。
「なんだよ」
「いや。抱きつかれるのは勘弁って思って」
「なんでだよ」
「誰かにそれを許せば、みんなが一斉に迫ってくる」
「……それは駄目だな、うん」
なんか、この前からアユムが積極的に思えてきて。それが少し怖かった。
翌朝。二日酔いでしんどそうな制服女とバニーさんが起きてきた。
「うへー。なんで澁谷さんと同じベッドで寝てるのよ。てかわたしの部屋」
「ごめんなさい。昨日の記憶がなくて……でも、皆さんに迷惑かけたのはわかってて……」
「ええ。バニーさんに着替えて、悠馬に抱きついてたわね」
「それは覚えてます。面目ない……ううっ。悠馬くん、昨日は失礼しました」
「待て」
リビングにつくなり俺の姿を認め、その場で膝をつき額も床につける勢いで土下座した。謝るのはいいけど、それはやめてくれ。恥ずかしい。
「もー。澁谷さん駄目ですよー。そんな簡単に土下座なんて。悪いのは澁谷さんじゃなくて酒なんですから。謝ることないですって」
愛奈がしゃがんで、バニーさんのむき出しの背中をペシペシ叩きながら言う。謝罪が必要ないのは俺も同意だけど、愛奈はもう少し申し訳なく振る舞ってほしい。
「お姉さんも澁谷さんも。朝ごはんにしますよ。お粥作りましたかから。あと水飲んでください。酔いを覚ますにはそれが一番らしいですから」
「お姉さんじゃないけど……いただくわ」
「わたしも。ありがとうね、遥ちゃん。あ、この服着替えないと」
「そうね。ずっとバニーさんのまま過ごすの恥ずかしいわよねー」
家の中どころか、病院でバニーさんやることになった愛奈が言うと説得力あるな。けど、お前も早く着替えろ。いつまで制服着てるんだ。
「なんか似合ってるって感じするから、今日はこれ着て過ごそうかなー」
「おい」
愛奈は上機嫌で、その場でくるりと一回転。スカートが翻る。
「ねえ悠馬。せっかくだから制服デートしよ? 悠馬も制服着てさ」
「なんでそうなるんだよ」
「だってー。来週末は東京行かなきゃじゃない? 悠馬と過ごせないの寂しいなって思って。お願い!」
「……わかったよ。けど、制服であんまりはしゃぐなよ」
「やったー! 悠馬大好き!」
「だから! そういうのはやめろ!」
抱きついて頬擦りしてくる愛奈をなんとか押し留める。
「ねえ見たアユムちゃん。二十代後半のいい大人が高校の制服着てるだけでもみっともないのに、弟とデート行きたいだってさ」
「デート行きたいは別にいいだろ。制服着てるのは変だけど」
「弟と制服デートはやばいでしょ!」
「それは確かにやばいな」
好き放題言いやがって。
「やっぱり悠馬、お姉さんに甘いよね」
「だよなー。あんなこと引き受けないよなー」
「うへー。お姉さんじゃない……」
遥たちの会話はしっかり聞こえているのが、さすがだなあ。




