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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-45.2月のイベント

 俺に叩きのめされた後の豚座が、まともに受け答えできるはずがない。だからキエラは撤退して置き土産を残した。

 そういうことなんだろう。


 そして両親も同じ疑問を持って息子に聞く。それか警官にかもしれない。警察もネットに書き込んだのが誰かわかるってことくらい、あの男も知っているのだろう。俺も、ネットに悪口書いただろってあいつに言ったし、それも関連付けて考えてしまう。


 いずれ自分の書き込みが原因という事実が判明して、親に怒られる。家がめちゃくちゃになった原因だから。それが心配か。


「いい大人が怒られることを恐れるなんてね。……怒ってくれる親がいるだけ感謝しなきゃいけないのに」


 愛奈がビールを飲みながらしみじみと言う。

 そうだな。あんなのでも、養ってくれる親がいるだけ幸せだ。


「しばらくは保護を続けて、取り調べをするけどね。パソコンは壊れたし、彼はスマホも持ってない。親は新しいものを買い与えるつもりはないらしいわ。連絡用に、ネットに繋がらない電話だけの機能のやつを渡すつもりらしいわよ」

「シニア向けの……スマホですらないガラケーか? でもなんで急に」


 今まで携帯が不必要なくらいに引きこもっていた人間に連絡手段を渡す理由は。


「就労支援の作業所に通わせるつもりだって、両親が言っていたわ。これまで世間に触れさせなさすぎたことを反省しているとも。今度こそ、これに懲りて大人しくなればいいわね。社会復帰して、自分で稼いだお金で携帯を買い替えたりパソコンを買ったりするのは構わないって、両親は言ってたわ」


 その過程で、金を稼ぐのがどれだけ大変かを知ってもらう。あとは世間の厳しさとかも。


 それで真人間に生まれ変わってくれればそれでいい。駄目だとしても、それは俺の知ったことではない。

 だからこの件は、俺たちが関わる段階は終わった。



「今年の恵方巻ってどっちだっけ。ていうか、どこを向けばいいんだろう」

「スマホで方角調べるから待ってろ。こっちだ」

「アユムちゃんさすがだねー。もうスマホ使いこなしてる」

「これくらい普通だろ! オレもこっち来てから長いんだから」

「アユムちゃんの田舎にも恵方巻の文化はあったの?」

「あった。店で買うことはあんまりなかったけど」

「そっかそっか」

「ほら。こっち向いて食べればいいんだって」

「モフ鳥さんの方だねー」


 つむぎがモフモフ用に置いているモフ鳥ぬいぐるみを見ながら食べればちょうど恵方らしい。


 これって、何を考えながら食えばいいんだろう。願い事してもいいのかな。それとも、一年の無病息災とかを考えるのか?

 一度口にしたら、あとは無言で食べなきゃいけないんだったよな。誰かに訊くこともできずに、俺は太巻きを食べ続けた。


 ネギトロに醤油はかかってないけど、隣り合って配置されたカンピョウの味付けのせいで生臭くはない。こういうの、考えられて作られてるんだな。

 とりあえず、家族がこういう小さな幸せをずっと得られるようにと願った。そして家族について、ふと考えた。


 自然と、家族の範囲に愛奈以外のみんなを含めていた。


 そうだよな。遥もアユムもラフィオもつむぎも、みんな家族だ。樋口はまた別な気もするけど。でも家族なんだと思う。

 なんとなく、こうやって一緒に暮らして時を過ごす。だったら家族と呼んでいいと思う。そして、この関係性がいつまでも続くといいと思っている。


 けどどこかで、関係性が変わる日も来ることはわかっていた。




 翌日。遥が改めて義足の合わせと歩行訓練へ行くのに俺たちもついていく。遥の母も一緒に来ていた。

 義足の調整は、この数日の間に仕事の鬼な装具士によってなされていた。前よりもずっと立ちやすそうな遥は、しかし歩くとなるとまだまだ大変みたいで。


 テレビでもよく見る、腰の高さの二本のバーの間に立って掴まり歩きをする遥を、俺とアユムは並んで椅子に座って見ていた。


「頑張ってるな」

「そうだな。まだまだ歩くのはきつそうだけど」


 今もまた、見ている前で遥が転んでしまった。それでも悔しがったりする様子もなく、すぐに立ち上がった。


「遥は強いよな」


 アユムが感心したように言う。


 うん、遥は強い。たぶんこのまま、義足でゆっくり歩けるようになるんだろうな。


 それからアユムは、こちらを見て話題を変えた。


「なあ、悠馬。昨日恵方巻に、なんてお願いした?」

「なんだ急に。家族の息災とかだよ」


 お願いするものなのかも自信がなかったとは、言わないでおこう。


「そうか。悠馬らしいな。家族か。愛奈のことか?」

「それもあるけど、みんなだ。アユムも含めて」

「オレも家族か」


 少しだけ、アユムの口元が緩んだ気がした。


 何が嬉しいのか、わからない俺じゃない。けど、俺からは聞けなかった。

 なのに今日は、アユムからぐいぐい来た。


 理由はなんだろう。節分が終わった後の、二月のイベントというと。


「悠馬。オレは何を願ったと思う?」

「……なんだ?」

「好きな男と結ばれたい、だ」


 隣に座るアユムの指先が、俺の指に触れる。


 関係性が変わる日は確実に来る。俺はそれをよくわかっていた。

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