13-38.足止め
「ラフィオ! どうしよう!? フィアイーター出たよ!」
「そうだね。行かなきゃだね」
「お買い物途中だけど!」
「うん。とりあえず買い物はしてから行こうか」
持っているカゴの中には、今夜の夕飯の材料が入っている。置いていって現場に急行して、また戻って買い直すのは面倒だ。
つむぎのスマホを見る。ここから近いな。
それから、自分たちがやっていたさっきまでの目的についても思い出す。あの男の母親の監視だ。
スーパーの中は突然の警報に騒然とした。ここから余り離れていない場所に出たのだから仕方ない。
そしてあの母親の知り合いが心配そうに声をかけている。この住所、あなたの家じゃないかしらと。
母親は顔色を変えて家まで帰ろうとした。
「わー! 待ってください!」
つむぎも本来の役目を忘れていないようで、ラフィオから離れて母親の前に立ちはだかる。
そして言葉に詰まった。足止めと言っても何をすればいいのかわからないから。咄嗟に動いてしまったのだから、なおさらだ。そして、向こうには家に帰らなきゃいけない事情がある。
「えっと、えっと……」
「大丈夫ですよ。魔法少女が戦ってくれます」
ラフィオが横から助け舟を出した。
「あなたの家が本当に戦いの舞台になってるとは限らない。魔法少女が戦うのは、多くの場合は外です。だから家に被害は出てないと思います」
わかんないけどね。ラフィオ自身、どういう状況かよくわかっていないし。
この母親が心配なのは、家が壊されるかもってことかな。それか家にいるはずの息子のことか。わからないけど、行かせるわけにはいかない。
悠馬の企みを見られないようにするというよりは、もっと根本的な問題だ。つまり、部外者に魔法少女の戦いの場にいてほしくない。
「魔法少女がすぐに駆けつけて、怪物を倒してくれます。今は邪魔しないため、ここにいましょう」
ラフィオの、外国人っぽいっぽい容姿の子供が理性的なことを言う様子で、店内の雰囲気は落ち着いた。
「そ、そうね。慌てちゃいけないわよね。ありがとうね」
「いえ……」
僕はそんなことを言いながら、今から慌てて現場に行くんだけど。そんな内心を笑顔で隠した。
やがて普段の様子を取り戻しつつある店内で、ラフィオは急いでカゴをレジ台に置いた。
よく顔を合わせる店員に話しかけられても曖昧に返すだけで、素早く支払いを済ませて店の外に。
「誰にも見られてないね! ラフィオ今だよ!」
「ああ」
買い物袋をつむぎに押し付けてから、ラフィオは少年から獣の姿へと変わる。つむぎを乗せて家に。マンションの扉の前まで素早く行って、家の中に買ったものを置いて素早く出る。
冷やさなきゃいけないものを冷蔵庫にしまう余裕はなかった。どうせすぐに帰ってくる。
「行くぞ」
「うん! デストロイ! シャイニーハンター!」
頭の髪飾りを触りながら変身するつむぎ。一瞬にして彼女は魔法少女になった。
「闇を射抜く精緻なる狩人! 魔法少女シャイニーハンター! さー、ラフィオ行くよ! 早く倒してハンバーグ作ろ!」
「わかってる!」
当然のようにラフィオの上に乗ったハンター。フィアイーターのいる位置を把握できるラフィオは、そこまで一直線に駆けた。
――――
「あー! 退勤途中のフィアイーター! 最悪! 今日は早めに帰れると思ったのに! ……てか、悠馬のあの計画うまく行ったのかしら。それが邪魔されるのが心配ね……」
「先輩、本当に悠馬くんのこと好きですね」
「当たり前でしょ。てか、今日はわたしのために頑張ってるんだから」
「ええ。知ってます。先輩と結婚したいって男を成敗するんですよね」
「そう。そのために、一般人をカメラの前でぶん殴るなんて、よく考えたら無茶苦茶よね。それをやってくれるんだから、これはもう愛よね」
「愛ですねー。先輩、戦いに行かなくていいんですか?」
「あー。行くわ。行くわよ」
麻美と緩い会話をしながら、愛奈は人目につかない場所を探す。
退勤して、麻美に駅まで送ってもらおうかなと考えていた矢先の警報だ。
とにかく社屋の裏手に走る。スーツのタイトスカートだから走りにくい。ミニスカートだったらいいという話じゃないけど。
「あー! この会社無駄に大きいんだから! 裏手にも人いたりするし!」
「今はいないようですよ!」
「よし! ライトアップ! シャイニーセイバー!」
麻美に周囲の見張りを頼みながら変身。辺りが一瞬強い光に満ちるけど、目撃者はいないようだった。
「闇を切り裂く鋭き刃! 魔法少女シャイニーセイバー! じやあ麻美、行ってくるわねー!」
「行ってらっしゃい! わたしも車で向かうので、助けが必要なら言ってください!」
「ありがと! たぶん必要ないと思うけど!」
手を振って見送る麻美を背に、セイバーはムカつく会社の社屋の壁を蹴って跳び上がり、他の建物の屋根に乗り移って現場まで走った。
――――
俺の見ている前で、豚座の家の中にフィアイーターが現れた。なんでこんなことになったのかは知らない。偶然なのか。それにしては家の中に出てくるのは珍しい。
フィアイーターと大量の黒タイツの声が近所に鳴り響く。建物の中が混んでいて、それでも暴れようとした結果、窓から黒タイツの一体が転がり出てしまった。
隣の家の住民がそれを見て通報したのか、スマホが警報音を鳴らす。
「悠馬!」
「アユムそこで止まれ! カメラの外で変身しろ」
「お、おう!」
こっちに駆け寄ってきたアユムを手で制しながら、俺も怪物騒ぎとは無関係ですよって風を装いながら、カメラの画角から外れるであろう場所まで移動する。そして鬼のお面を引っぺがしてポケットに入れていた覆面を被った。
輪ゴムが耳に食い込む感覚からようやく解放されたのは良かった。あれ痛いんだよ。いつもの覆面がいかによくできてるかわかる。




