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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-37.いつものキエラ

 直後にふたりの前で、部屋の扉が勢いよく開いた。


 太った男が転がるように入ってくる。床に跪くようにして、両手も床につけてぜえぜえと息をしている。

 汗だくで、ちょっと運動しただけで息切れしそうな、体力のなさそうな男。


 こいつが覆面男よりも強いとは、ティアラにはどうしても思えなかった。


 あの高校生は間違いなく強い。初めて目にしたフィアイーターを相手に果敢に立ち向かう勇気もあった。

 この男にはそれがない。見るからに動きがどんくさくて、臆病者だ。ネットの、顔を隠せる環境だったら強気になるのかもしれないけど。

 キエラはそこは考えてない様子だった。


 男が、なぜか少女がふたり部屋にいるという状況に混乱した表情を見せた。そんな彼にキエラはにこやかに話しかける。


「あなたが、ネットに書き込んだ人ね。覆面男より強いとか、魔法少女を探せるとか。初めまして。わたしはキエラ、こっちはティアラよ。魔法少女の敵で、怪物を作っているの」

「あ、え……怪物……」

「ええ。フィアイーターよ。その顔、信じてないって様子ね」


 信じていないというより、信じられないの方が正しい表現だろうな。キエラはやっぱり気にしていなくて、証拠を見せるとばかりに少女の姿から小さな妖精に変わった。その姿で立つことに慣れていないから、キエラはティアラの頭の上に腹這いで乗る。


「これで信じてくれるかしら。ねえ。あなたは本当に覆面男よりも強いのかしら。魔法少女に会えるのかしら。ねえ! 教えて! そしてわたしに協力して!」


 ああ。またキエラの悪い癖だ。自己紹介して、ここに来た経緯を説明できただけ、まだ偉いかも。けどグイグイ行き過ぎて相手が引いている。


 いや、キエラの態度だけが原因ではないかもしれないけど。男はガタガタと大きく震えた。なにか、とてつもなく恐ろしいことがあったというように。

 なにが怖いんだろう。こっちはかわいらしい女の子ふたりなのに。怪物を作るって言ったのが怖かったのかな。


 とにかく男は怯えた様子で、床に座ったまま後退っていた。


「あ、あ……ち、ちが。違う!」


 震える声で、悲鳴混じりに叫んだ。


「違う! 俺じゃない! 魔法少女なんて知らない! そんなもの知らないんだ! 俺じゃない! あああああああ!」


 うるさい。何が違うのかよくわからない。


 このパソコンから書き込まれたのは間違いない。何度も確認したんだから。

 目の前の男は、見えない何かに怯えた様子で、小さな子供が駄々をこねるように床に仰向けになって泣き叫んだ。


 状況をうまく飲み込めないティアラは困っているけど、キエラの方はもっと先の段階に進んでいた。


 つまり、興味を失っていた。


「つまんない。ラフィオを取り戻すチャンスだと思ってたのに。期待はずれだったわ。こいつが怖がってることは面白いけど……もっと怖がらせたいわ」


 ティアラの頭の上に乗ったままのキエラは、コアをひとつ取り出した。

 部屋の中を見回したキエラは、フィギュアがたくさん乗っている棚に目をつけた。


「えいっ」


 かわいい声と一緒に投げられたコアが、フィギュアのひとつに当たる。知らないアニメの知らないキャラがフィアイーターに変化していった。サブイーターも同時に作られ、決して広いとは言えない部屋の中を占拠していく。


「うー。狭い。あなたたち、好きに暴れなさい! ティアラ、わたしたちは帰るわよ」

「うん。でもいいの?」

「いいの。こんな男に構いたくない!」

「わかった」


 実を言うとティアラも同意見だった。たくさん恐怖をくれたら、あとは勝手に死んでくれたらそれでよかった。

 部屋いっぱいのサブイーターたちが声を上げるのを聞きながら、ティアラは床に穴を開け、そこからエデルード世界へと戻っていった。




――――



「うわー! こんな時に敵!?」


 バスの中でスマホの警報音が鳴ったことに驚いた遥は、出現場所が家の近くなことにも驚くこととなった。

 そこには悠馬たちがいる。たしか、ラフィオとつむぎもいるはずだ。


 もちろん自分も行かなきゃいけない。けどどうしよう。どこかに車椅子隠す? マンションの裏手とかになるかな。そこまでひとりで行ける?

 行かなきゃいけない。樋口に連絡を取り、回収の段取りをしながら次の自分の動きを脳内シミュレートする。


 今は単独行動中で、いつも押してくれる悠馬たちがいない。運転手さんはバスから降りる手伝いはしてくれるだろうけど、そこから先は自力での移動だ。

 ああ。やっぱり自分の足がある方がいいな。早く義足の練習を進めないと。


 バスから降ろしてもらいながら、ままならない体についてため息をついた。


 もちろん、今はそれどころではない。

 バス停からマンションまで行き、そのまま建物の裏まで行く。


 普段はあまり使わない場所だ。駐車場しかないから。双里家は車を持っていないし。


 とにかく、あまり目立たない場所に車椅子を隠し、人目がないことを確認しながら足首のアンクレットに指を触れた。


「ダッシュ! シャイニーライナー!」


 全身が光に包まれて、変身は一瞬で完了した。


「闇を蹴散らす疾き弾丸! 魔法少女シャイニーライナー!」


 さあ行こう。怪物が暴れてる場所へ。

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