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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-34.いつもと違う覆面男

 でもどうすればいい?


「あの男は、悠馬よりも自分の方が有用で、戦ったら悠馬よりも自分の方が強いって言ってるのよ」


 それはさっきも聞いた。


「その無根拠な自信をバッキバキに折ってあげて、覆面男の恐ろしさを身をもって教えるっていうのはどう?」

「なあ樋口。本気なのか? 俺があの男を直接ボコすって言ってるように聞こえるんだけど」

「ええ。そう言ってるの。どう? やる?」

「やりたい気持ちはある。それでこの件が解決するなら。けど問題があるだろ」


 覆面男が一般市民に暴行するなんて、ありえない。そんなことが知られたら世間の評判は地に落ちるし、市民たちのヒーローが怪物を恐怖から守るという役目も崩れる。

 あの男はやられた後も、ネットに書き込み続けるだろう。覆面男にやられたと。


「豚座以外には、あなただとわからないようにすればいいのよ。豚座の家の周りにも防犯カメラがあるポイントがあるから、そこでぶん殴りなさい。カメラに音声は記録されないから、豚座にだけは自分が覆面男だと明かしつつ、奴が世間に訴えても客観的には別人だって方向にもっていくように」

「その場合、どうすればいい? 素顔でも、いつもの覆面でもない方法で顔を隠すんだよな?」


 対外的には、無関係の男がボコしたって見せつけないとだから。


 今の覆面を手に入れる前のタオルでも巻くか? いや、その姿も世間には認知されているから、避けるべき。

 新しくお面でも買うべきかな。それか家の中の何かで代用するとか。とはいえ、お面なんてこの家にはないけど……。


 そう考えながら周りを見回すと、キッチンの端に鬼のお面が置いてあるのが見えた。


「ああ。前に買ったやつだね。節分の豆まきのおまけについてくるやつ」


 ラフィオが静かに呟いた。

 安っぽい鬼のお面。耳に輪ゴムをひっかけてつけるタイプのやつだ。


「これでいいか。季節柄合ってるし」

「そうね。顔を隠せれば何でもいいんだから」

「でも、顔だけ隠しても意味ないだろ。歩容認証ってやつで、覆面男が俺だって捜査したらバレるんじゃないか?」

「膝にサポーターをつけなさい。痛めてる人がつけるようなやつ。健康な人がつけたら、ちょっと曲げにくくなるの。歩き方が変わって認証で一致しない。あと、シークレットシューズを使って背を少し伸ばすの。それで、カメラからすれば別人になりすませる。明日渡すわ」

「なるほど……」

「普段通りの動きはできなくなるけど、運動不足のデブなんか簡単に倒せるでしょ?」

「それはそうだ」


 敵と戦うとなれば話は別だけど、あの男をボコボコにするなら問題はない。

 実現可能って気になってきた。


「決まりね。豚座の動向は明日以降も見ていく。母親が外出するのは夕方あたりが多いから、あなたの下校時間とも重なる。外に出たら知らせるから、急いで駆けつけなさい。そして短時間で暴行を加えて警告して、すぐに立ち去るの」

「わかった」


 樋口は、前向きな俺の様子に満足げだった。

 仮にも公安が、こんなにノリノリで一般市民への暴力を推奨することは普通じゃない。魔法少女たちの精神状態を慮っているのだろうし、樋口個人としてもあいつが嫌いなんだろう。

 今も監視に人手が割かれている。さっさと終わらせたい気持ちはわかった。

 やるか。



 翌日の夕方には、家に宅配が来ていた。約束のサポーターとシークレットシューズ。

 さらに近所に複数の不審者情報が流された。夕方、不審な男が下校途中の児童にじっと目を向けていたというものだ。


 豚座が本当にそんなことをしていたかは不明だけど、しててもおかしくはない。そして、毎日自宅の周りを挙動不審な様子で動き回る無職の男はそれだけで不審者と言える。


 挙動不審なのは魔法少女のヒントがないかキョロキョロと視線を動かしているのと、母親がいつ帰ってくるかの警戒が理由ではあるのだけど。


 俺による暴行事件があったとして、被害を訴えた豚座にお前も不審者だろうと警察が言い返すことで奴の主張を有耶無耶にする。

 ぶん殴った"鬼の男"も、毎日出てくる不審者に業を煮やした第三者の自警行為ということにして、覆面男は無関係だと捜査する警察にも思わせる。


 さすが公安だ。用意周到だな。


 そしてさらに翌日。ちょうど節分の日。

 鞄にクリアファイルに入れた鬼のお面とサポーターを入れ、さらに靴袋にシークレットシューズを入れて持ち運ぶ、いつもより変な荷物が多い俺が、いつものように放課後を迎えて家に帰ろうとしていると。

 樋口からメッセージが来た。


『豚座が家を出た。いつものパターンなら一時間弱歩き回るけど、指定のポイントで接触しないといけないから急いで』


 とのこと。


「オレが悠馬を運んでいく」

「うー。わかった。お願いね!」


 車椅子の遥は後から来るということに。俺を運ぶ役目を自分がやりたかった気持ちはあったらしいけど、しかたない。


「ほら、悠馬の鞄預かってあげるから。頑張ってね」

「おう」

「オレの鞄も頼まれては」

「さすがに膝に三人分乗せて動くのは無理です」

「そっかー」


 急がなきゃいけないから、そんな会話をしつつも移動する。物陰に隠れてアユムが変身。俺もその間にズボンをめくって膝にサポーターをつけ、靴を履き替える。

 そしてバーサーカーの背中に乗って現場まで急行した。

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