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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-31.シャイニーセイバーは俺の嫁

 窓から外に飛び出て避難者たちの前に出るラフィオを見送りながら、俺たちも掃除用具入れっぽい場所の近くへ向かう。

 人が戻ってきた時に、ここに隠れてたけど出てきたって言うためだ。


「なあ悠馬。オレ、足をくじいた設定だったよな。その演技今もしなきゃいけないかな?」

「しなくていいだろ。隠れてる間に痛みが引いたとかで」

「そうか」


 納得したという様子だけど、アユムは俺に支えてもらうように体を寄せてきた。

 胸が当たっている。


「でもさ。やっぱり本当にくじいてるって感じする方が、みんなに信じてもらえるっていうか。だからお姫様抱っこしてくれ」

「本当にくじいてるって思われたら、ここは病院だから医者に診てもらうことになるぞ。そして診察費を払う」

「それは面倒だ」


 アユムはあっさり俺から離れた。診察に時間を取られるとも嫌だし、痛くもない足を診られて嘘ついてると思われるのもな。


 スマホで遥に連絡。戦いは終わった。どこかに隠れてやり過ごした設定にするから、みんなにはそう伝えてくれとメッセージを送る。


 やがて病院の職員が来る足音が聞こえた。俺たちは下手な芝居をしたけど、隠れてたことを疑う人は誰もいなかった。そのまま外に連れられて遥たちと合流。院内に放置していた車椅子もしっかり回収した。


「ふたりが無事で良かったよ。怪我はしてないかい? 車椅子まで持ってきてくれて、ありがとう」

「遥のためについてきたのに、こんなことになってごめんなさいね」

「いえ。大丈夫です。迷惑だとか思ってませんから。悪いのは怪物ですし」


 こちらを気遣う神箸夫妻に、恐縮する態度を見せる。本当にいい人だな。


「悠馬。先生とは話しつけてきたよ。今日はこれで解散で、また今度調整をやり直そうって。義足は宮崎さんが持っていったよ」

「まだ貰えないのか」

「訓練もせずに勝手に使って、転んで怪我したら危ないからねー。じゃあ帰ろうか。悠馬もアユムちゃんも、うちでご飯食べるって約束は続いてるよねー?」

「ああ。もちろんだ。ちょっと運動したから、腹減ってるしな」

「そっかそっか。それはお母さん喜ぶだろうねー」

「……どういうことだ?」


 アユムが怪訝な顔をする。遥の母のこと、そんなに詳しくないからな。




「うわ。唐揚げが山盛り!?」

「いっぱい食べていいのよ」

「いやいや。この人数でも食える量じゃ」

「食うぞアユム。いただきます」


 病院から車で帰ってから一時間ほど後。アユムは大皿に乗った唐揚げの山を見て目を白黒させていた。


 遥の母親は、たくさん食べる人を好む。特に自身の夫を。しかし残念ながら娘たちはそんなに食べない。

 だからお客さんが来たら張り切る。俺みたいな男なら特にそうだし、アユムもなんか食いそうな雰囲気あるもんな。


「美味い。けど多い。ご飯も山盛りなんだけど」

「おかわりもあるから、遠慮なく言ってね」

「は、はい……」


 アユムはいい奴だから、そう言われると断れない。別に大食らいなわけではないけど、笑顔で飯をかき込む。


 頑張れ。俺も頑張るから。



――――



 悠馬がいない家で、愛奈がひとりで飲んでいる。手酌で、少し寂しそうだった。


 ラフィオもつむぎも酔っ払いに付き合う気はなく、ふたりソファに並んで座ってテレビを見ていた。さっき起こった怪物騒ぎはちょっとニュースになっただけで、今は能天気なバラエティ番組をやっている。

 そういうのでいいんだ。人々が過度に怪物を恐れる必要はない。


「ラフィオー! ビールのおかわり持ってきて!」

「自分でもってこい」


 愛奈がうるさい。自分の世話は自分でしなさい。

 すると、愛奈のスマホが鳴った。


「おや? 樋口さん? へー、今から来るって。うん。来て来て。ひとりで飲むの寂しいから!」


 愛奈にとっては救いの飲み友か。しかも、追加の酒と肴を持ってくる。

 それから、話し合わなきゃいけない事案も。


 電話からものの数分でチャイムが鳴った。マンションの近くまで来て電話したんだな。


「さっきはお疲れ様。悠馬たちのいる病院にフィアイーターが出てくるなんてね」

「偶然でしょうけど、怖いですよねー」

「ええ。偶然ね。けど確かに怖い」


 なにがだろう。


「高校生組は外出中ね。まあいいわ。豚座昭のネットの書き込みを把握できたわ」

「おー。あのデブの。なんか面白いこと言ってました?」

「シャイニーセイバーは俺の嫁って書き込みは見つけたわ」

「面白くない! あんなのと結婚とかありえない!」

「でしょうね。まあ、その手の書き込みは大抵、実現が無理とわかってて言ってる戯言よ。推してる、くらいの意味にとっておけばいい」

「それはわかるんですけどねー。でも、知らない男からそういう目を向けられるのが、なんかあれっていうか」

「気持ちはわかるわ。でもあの男は、セイバーを本気で探している。自分たちは結ばれる運命なんだって」

「うへー。運命ってなによ」

「探すために駅前のショッピングセンターに行ったら怪物が出てきて魔法少女にも遭遇した。これは運命が引き寄せ合ったと思ってるのよ」

「なによそれ。偶然とは思わないの? てかそいつ、今まであちこち探してきて、たまたま駅前のあそこに行ったら会えただけでしょ?」

「そうでもないわ。ショッピングセンター行く前は病院しか行ってないんだから。探す方針を変えた途端にこれよ」

「それは……まあそうだけど」

「それにさっき、これまで探してきた病院にも魔法少女は現れた。そこに意味を見出すでしょうね。これも運命だって」

「いや待ってよ! 病院はこれまでいくつも見てきたでしょ!? そのひとつに偶然出てきたっていうの、駅前に出たのと違う話と思うんだけど!?」

「ええ。わたしも同じ意見。でもあの男にとっては、運命って言葉で纏められるの」

「意味がわからない……」


 静かにビール缶を傾けながら語る樋口と、寒気がするとばかりに己を抱きしめる愛奈。

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