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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-26.歩く練習

 見慣れてきた病院のリハビリテーション科では、既に女医と義肢装具士の宮崎は既に待機していた。


 大人たちの挨拶を俺たち未成年者たちはぼんやりと見つめていた。そして出来上がった義足を見せてもらう。

 カタログで見た通りのデザイン。既製品に手を加えたものだから、こんなに早くできたわけだ。


 椅子に腰掛けた遥の足に、女医が義足をはめる。先日のと違って、ちゃんと遥のサイズに合わせたものだ。


「遥ちゃん、どう?」

「思ったよりしっかりはまるんですね。それでいて、あんまり締め付け感がないのがいいです。ちょっと中が蒸れる感じがするかな?」

「そのうち慣れるわよ。気になるなら、ソケットの素材を変えてもいい」

「いえ。そんなに気になることじゃなくて。初めてのことだったから違和感がと言いますか」

「これから長い間使う義足です。気になることは全部言ってくれ。それを直すのが俺の仕事だ」

「は、はい……」


 一部丁寧語ながら、威圧感がある風貌と話し方の宮崎に、遥はちょっとたじろいでしまった。言ってることは立派だから、信頼していいと思うけど。


「ゆ、悠馬さん。あの人別に、怖い人ではないですよね?」


 彼方が俺の隣で様子を見ながら、とてもか細い声で聞いてくる。怖がってるらしい。


「悪い人ではないな。腕も確かだし、あの医者に信頼されてるから心配することはない。……でも、見た目が怖いのは確かだな」


 だから怖い人ではある。


「そ、そうですよね。大丈夫大丈夫。それに、あの時追いかけられた黒タイツほど怖くはないですもん」

「比較対象がおかしい」


 わからなくはないけど。


 遥と医師たちのやり取りは続いていた。


「重さは結構感じますね。見た目に比べればそれほどの重さでもないですけど、右足を動かすのと比べて違和感があるというか」


 座ったまま、股関節を動かして義足のついた左足を足踏みするように上下させる。同じように無事な右足も動かすけど、かなり勝手が違う様子で。


「足の先っぽが無い状態に慣れてしまっているのと、右足は膝と踵を動かしやすいように自然と動かしているの」


 確かによく見れば、右足は踵も膝も曲がっていた。義足にもそこに関節はあるけど、自分の力で曲げることはできない。

 膝が残っていればだいぶ違うらしいけど、遥の場合はないからな。


「まずは立ち上がるところから始めましょうか」

「は、はい」

「じゃあ、わたしの手をとって、ゆっくり立ち上がって」

「うわー。動きにくい」

「松葉杖を使っての動きとは全然違うのよ。慣れていきましょう」

「椅子から立つだけでこの苦労。壁は分厚い! けどやりがいはある! うわー!?」


 己を鼓舞するようなことを言いながら立ち上がろうとした遥がバランスを崩して倒れた。女医が咄嗟に体を支えるし、なんとなくそんな気がしていた俺もそれとなく近づいていたから手を貸すことができて転倒は防げた。


「ゆ、悠馬。ありがとね。なんでこけるってわかってたの?」

「調子のいいこと言って、立つことに集中してなかったからだ」

「あー。ごめん。なんか弱気になりかけた心がどうとか、そんな感じです」

「自分を元気づけるのは大事だけどな。ほら、支えてやるからゆっくり立て」

「はーい」


 俺に支えられながら、遥は再度立ち上がる。義足と自分の足。二本でまっすぐ立った状態で、俺と女医はゆっくりと手を離した。


「遥ちゃん、どう? 立ってみて違和感ない?」

「ない、と思います。左右で足の長さが違うとか、そんなのはないです」


 正直な感想だと思う。俺をちらりと見ながら微かに頷いた。


 少なくとも立ってるだけだったら、魔法少女に変身して生えた足で立つのとそう変わらないってことかな。魔法少女のことをこの場で言うわけにはいかないから、そこは黙っているけど。


「踵と膝の位置も問題なさそうね。宮崎さん、どう思います?」

「見た感じはいいと思う」


 遥の前でしゃがんで足をまじまじと見る女医と、さすがに女の子にそれはできないと少し離れたところから見る宮崎。

 形としては完璧か。


 あとは歩いた時にどう動くかで、また微調整は必要なんだと思う。


「よし、じゃあ歩きますか! とりゃー! うわー!?」

「おいこら」


 魔法少女の感覚で踏み込むな。勢いがつきすぎてる。変身している時は基本走っているからか、その感じでやった遥は前に大きくつんのめって転びかけて、俺に支えられて事なきを得た。


「あ、あははー。なんでだろ。足がある感覚に慣れなくてー」

「ゆっくりでいいのよ。一歩ずつゆっくり歩くの。焦ることはないわ」

「は、はい。ゆっくり、ゆっくり……」

「まずは左足に体重を預けて、右足で踏み出すの」

「はい。義足を軸にして」


 ゆっくり片足立ち。相変わらず俺は軽く遥を支えていて、何かあれば即座に助けられるようにする。

 義足はそれ一本で遥の体重を支えられていた。けど、バランスを取るために微調整するような動きは義足にはできず。


「うわー!?」


 また転びかけた。はじめはこんなものと、俺は特に気にすることなく後ろに倒れていく遥の背中に手を回して受け止める。


「大丈夫か?」

「うん。なんかお姫様抱っこされてる感じでいいね」

「変なこと言うな。起こすぞ」


 遥の軽い体を支えながら立ってる状態に戻そうとして。


 ポケットに入れているスマホが震えながら警報音を鳴らした。

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