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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-24.陸上部のこれから

 家に帰ればラフィオとつむぎが鳥の映画を見ていた。


 珍しい光景じゃない。飯を食いながら人が死ぬ映画を見るっていうのは少し趣味が悪いけど、誰も文句は言わなかった。


 例のストーカー男の気配もなく、俺たちは今日を無事に終えられた。

 と思っていたら樋口から電話があった。直接会いに来ないなら、それほど重大な用事ではないのだろう。昨夜仕事の鬼だと自称した手前、定期連絡はちゃんとするって見せたいのだろう。


『豚座昭だけど、おとなしくしてるわ。一日のほとんどは、だけど』

「つまり?」

『起きてる時間の大部分は自室に引きこもっている。パソコンの前でネットを見て、なにか書き込んでるわね。その内容は今調査中』


 特定個人の書き込みを外から見るには、手続きが必要か。


 本当は樋口としては、パソコンも押収したかったのだろうけど、さすがにできなかったか。名目上は、あいつは犯罪者ではないし。


『下手なこと書き込んでなきゃいいけどね。とにかく、ほとんどは部屋から出ない』

「ほとんどは?」

『数分間、家の玄関から外に出て自宅周辺を歩き回った』

「自宅周辺って?」

『本当に自宅周り。自宅があるブロックを囲む道を一周したの』

「……なんでそんなこと」


 散歩とも言えない、無意味な外出。いや、これを外出と呼ぶのも間違っている気がする。


 ちょっとした運動と呼ぶべきかな。ずっと引きこもってた人が急に出るとすれば不審な行動と言えるだろう。急に健康に目覚めたとかではないいだろうし。


『要はね、まだ魔法少女を探すのを諦めてないのよ。外出していたのは、家に他に人がいない時間帯だった。父親は会社に。専業主婦の母親は買い物に行っていた』


 専業主婦か。このご時世、それができるってことは父親はそれなりの稼ぎができてるのだろうな。


 妻はともかく、働かない息子を三十年養えるのだから、立派なものだ。その給料に見合う努力をしてきたのだろうが、その結果得られたのがあの引きこもりか。

 警察から目をつけられたのに、まだ諦めない最悪の男か。


『母親が買い物に出ている時間はそう長くはないわ。他に外に出る用事も多くはない。日がな一日、家事をしながらテレビを見るばかりの生活を送っている母親の生活パターンを、あの男は把握している。帰って来るまでの時間を来にしながらの外出』

「そんな短時間で、魔法少女を見つけられないよな」

『ええ。その通り。けど行動しているのは事実。そして行動している限り、それはエスカレートしていく。気をつけなさいよ』

「わかった」


 すぐに解決とはいかないんだな。



 それから数日は何事もなく過ぎた。フィアイーターは出てこず、ストーカー男と接触することもない。平和な日々は何よりだけど、警戒しなきゃいけないってのは少し疲れるな。

 それでも、みんな普段通りの振る舞いをしていて。遥の義足作りの日が来た。


 放課後になると三人揃って教室を出て、校庭横の道を通りながら校門へと向かう。


「みんなやってるねー」


 俺に車椅子を押されてる遥が校庭の方を見た。


 ユニフォーム姿の陸上部たちが、今日も練習に励んでいる。

 三年生たちの姿はない。部活は引退して、受験の追い込みに入っている頃だ。


「部長、なんとか進路決まって良かったよ。まあ部長だから、スポーツ推薦でうまくやれるって思ってたけど」

「スポーツ推薦でも学力ゼロじゃ入れないよな」

「そこはほら。生徒会長の助けがあって」

「頑張ったんだろうなあ」


 およそ勉強というものに全く向かない部長を、なんとか大学レベルまで持っていくのは相当な努力をしなきゃいけない。

 一方で秀才である生徒会長は、国公立大学への入学を目指して頑張っているらしい。


「みんな、大学合格してほしいね。剛先輩も」

「そうだな」

「あと、沢木にも頑張ってもらいたいね」

「恋愛以外でな」


 再び陸上部に目を向ける。クラスのお調子者の沢木が、部員たちに声をかけていた。


 まさかあいつが部長になるなんてな。確かに部活には真摯だし、人を見る目はある。あと人望も。それでも文香部長から後継者指名を受けたと聞いた時は驚いた。


「沢木、お前が次の部長だって文香先輩から言われた時、喜んで受け入れながら勢いで先輩に告白したらしいよ」

「振られたんだろ?」

「うん」

「それでも部長に据える決断は変えなかったんだから、先輩もすごいよな」

「沢木に部長の適性があるのは本当だからねー。……あとは、新しく入ってくる一年生に迷惑をかけないよう見張らないと」

「正規の部員の仕事だとは思うが、俺たちでもやらないとな」

「准部員としてね! もうアユムちゃんが付き合っちゃえばいいんじゃないかな」

「やめてくれ。オレもう二回も告白されてるんだぞ」

「本当!? いつ!?」

「転校したばっかの時と、年末」

「はー。オッケーすれば良かったのに」

「やめてくれ」

「告白とか都会のイベントっぽいじゃん」

「田舎でも付き合う付き合わないはみんな噂してた」

「それもそっか。てか、田舎の方がそういうの盛り上がるかもしれないね。他の娯楽がないから」

「そうでもないぞ。付き合っても、デートしに行く場所がない。バスで行くショップセンターくらいだ」

「あー。そこしかデートスポットないって、前にも聞いたなー。ちなみにアユムちゃんはモテてたの?」

「男みたいだって言われてて、告白されたことはなかった」

「そっかそっか。そんなアユムちゃんでもモテる模布市はいいよね」

「人生最初の告白が、よりによって沢木だとは思わなかったけどな」

「うん。それは確かにかわいそう」

「あいつ、部長権限でこれからさらに告白ペース上げていくぞ」

「大丈夫かな」


 新部長率いる陸上部の未来を案じながら、俺たちはバスに乗り込んだ。いつものバス停で降りて、俺たちの家には向かわず遥の家に。

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