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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-23.ケセラセラ

 へびたんのマスコットを貰えたつむぎは、機嫌よくそれを抱きしめながら眠った。けれど、少し気になることはあるみたいで。



 その翌日の朝、相変わらずラフィオを小学校に連れて行くつむぎは、いつになく周囲を警戒していた。


「あの男がいないか気にしてるのかい?」

「うん。近所の人らしいから」

「あの人は引きこもりだよ。今は特に家族からの監視も厳しいし、樋口たちが見張っている。外に出たりすることはないよ」

「そ、そうだよね! うん、なにも心配ないよね!」


 ラフィオが声をかけて安全を説いても、心配が全部なくなったわけではないらしい。


 実際にあの男がつむぎを見かけて、怪物騒ぎの直前に見かけた小学生二人組みの片方で魔法少女の関係者と断定して接触することはないと思う。

 あの男は家から出られない。そして住所を見るに、つむぎの通学路沿いからは外れている。だから窓から姿を見られることもなくて。


 じゃあ、つむぎの不安はなんなんだろうな。



 わからないままでも、学校に到着して友達に挨拶し、授業を受けている間に調子を取り戻したみたいだ。


 昼休憩の時間にはラフィオを引っ掴み、機嫌良さそうにモフモフしていた。まあ、元気ならいい。モフモフは余計だけど。


 そして放課後、今日の夕飯は何にしようかと考えながら一緒にスーパーに向かう。河原を通って、少年野球チームの練習風景とそれを眺める保護者たちを見かけた。


「幸せそうだねー」

「うん」

「このお母さんたち、ずっと幸せなのかな」

「それはわからないよ」


 未来のことなんか、誰もわからない。


 そしてラフィオたちはスーパーで、先日も見かけたご婦人を再度目にすることになる。

 レジ打ちの店員に、悲しそうに話しかけていていた。外に出られるようになったと思った息子が、人様に迷惑をかけて警察の厄介になっていた。もうどうしたらいいのかわからない。育て方を間違ったのか。そんな内容だ。


「あの人……」

「待った」


 その婦人の方へ踏み出そうとしたつむぎを、ラフィオは腕を掴んで止めた。


「同情はするけど、魔法少女本人が関わるべきじゃない」


 あの婦人の息子がストーカー男で間違いない。家族が魔法少女と接触するのが、いいこととは思えない。


 樋口は言ってたな。ストーカー男を家まで送り届けた際、母親は泣いていたと。今もそうなのだろう。

 悲しくても炊事はしなきゃいけない。だからここに来て、ついでに知り合いに話を聞いてもらっている。


 前にも話したな。ママ友と呼ばれる、お母さんたちの横の繋がり。その関係の中でいろんなことを話すけど、内容は良いことばかりじゃない。日々の暮らしの中の辛いことや悲しいことも話す。


 悩みがあればそれも打ち明けて、そして話すだけで心が軽くなることもある。

 いいシステムだと思う。


「つむぎが浮かない顔をしていたのは、あれが原因かい? ストーカー男はどうでもいいけど、それで悲しむ人は見たくない」

「うん。それもある、けど。野球チームのお母さんたちは、幸せそうだったよね?」

「そうだね」


 そしてさっき、ずっと幸せなのかと訊いてきた。


 野球に打ち込む息子が、何かのきっかけで引きこもりになる未来もあるかもしれない。

 いじめが原因とは限らない。何かの事故で家族を失ったり一生ものの怪我を負う事例は、身近にありすぎる。


「わたしは今幸せだけど、ずっとそうなのかなって。あの人みたいになっちゃわないかなって。不安で」


 ラフィオの手をぎゅっと握りながら明かした。


 ああ。この前つむぎに、君も大きくなったらママ友を作るのかと尋ねたな。だから自分を重ね合わせちゃったか。

 賢い子だけど、同時に感受性も強い性質だからな。


「それは不安だよね。残念だけど、僕も未来のことはわからない。誰も知ることはできない。だから何も言えない。なるようにしかならないよ。……だからこそ、僕たちは共に手を取り合って、いい未来を作る努力をするべきじゃないかな。それは、無駄な努力ではないはずだ」


 そんな、普通のことしか言えなかった。たぶん何も解決しない。

 なのにつむぎは、こちらを見てぱっと笑みを浮かべた。


「それ、ケセラセラだよね!」

「……なに?」

「ええっと、なんて言ったっけ。モフモフの鳥さんが大集合する有名な映画を撮った監督がいて、その監督が別の映画で流した主題歌がケセラセラなんだよ」

「よくわからない」


 鳥とケセラセラ以外に具体的な情報がない。


「その歌の中でね、未来が不安だなーって彼氏に打ち明けた女の子に、彼氏が答えるの。なるようにしかならないよって。今のラフィオと同じだね!」

「そうなのかい?」


 知らずにそんなことしてしまったらしい。


「その女の子は大きくなって、彼氏との子供に同じことを聞かれて同じように答えるんだよね。えへへ」


 なんとなく、つむぎの中に幸せな未来が思い描けたらしい。なんでこの流れで立ち直れるのか、ラフィオには未だにわからなかった。

 元気になったならいいけど。


「ラフィオ、早く買い物して帰ろ! 今夜の夕飯ははに? わたし、天津飯食べたい!」

「卵好きだなあ。いいけど」

「それで、鳥さんの映画見よ! たぶんサブスクにあるはずだから!」

「わかったわかった」


 つむぎに手を引かれながら買い物をする。

 さっき泣きそうに家庭の悲劇を語っていた婦人の姿は、いつの間にか消えていた。



 鳥の映画はしっかりサブスクにあった。けど、モフモフの鳥さんが大集合する映画とは思えなかった。


 鳥が集団で人間を襲うし、死人も出てるぞ。なんでこのモフリストは、鳥が集まってきて羨ましいみたいな顔で見てるんだ。しかもジャンボモフ鳥さんぬいぐるみを抱きしめながら。

 鳥を近くに置いて見る映画じゃないだろ。



 その後、ケセラセラの曲について調べて聞いてみた。


 なるほど、こっちはいい曲だな。

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