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駄目社会人の姉と、その他問題児たちが魔法少女になったから、俺がサポートする  作者: そら・そらら
第13章 鬼

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13-20.ストーカーの素性

豚座(いこのざ)(あきら)。四十八歳。無職。中学時代からずっと家から出ていない、筋金入りの引きこもりよ」

「えっと……三十年以上もニート?」

「そうなるわね。この年齢だとニートの定義からは外れるから、ただの無職の高齢引きこもりよ」

「なんでまた、そんな長いこと」

「中学時代にいじめられたそうよ。本人が吐き捨てるように言った。名字のせいだって」

「なるほど」


 いこのざ。読みだけ見れば格好いいかもしれないけど、豚という漢字はインパクトがありすぎる。


 中学生というガキは残酷だ。名字なんてどうしようもない物を理由に他者を攻撃する光景を想像するのは難しくない。


「両親も、名前が原因だとどうしようもない。負い目もあったのでしょうね。引きこもりを許して、そのまま今までこれ」

「その経緯は同情するけどね。ちょっと三十年は長すぎないかしら」

「愛奈あなたも、悠馬に養ってもらえるなら喜んで引きこもるでしょ?」

「それはそうね」


 否定しろよ。あの男と比べて、働いているだけ愛奈はずっと立派なんだから。


 樋口も俺と同じ心境なのか、深いため息をついた。


「同情するって所は一緒だけどね。けど、この年齢までずっと経済活動をせずに生きてきたのは問題。取り調べで過去について聞いたところ、あいつらが悪い、俺は悪くないの一点張りで。中学時代の同級生の名前を何人も挙げては、こんなことがあったとまくし立てた」

「それはそれは。中学の同級生の名前なんて、そんな何人も覚えてないわよね。出来事も。同情はするけど」

「ええ。同情するけどね。あの時から時が止まってるのよ。そこから新しい社会経験を積んでないから」


 どんな感覚なのか、俺にはわからなかった。


「きっかけは本人に非がなくても、そこから先の人生はあの男の責任よ。中学で引きこもって高校に行けなかったとしても、高卒認定を受けて大学に行けばいい。大学なら名前をからかう馬鹿はいないでしょうし。簡単なバイトから社会復帰してもいいし、内職の仕事なら家でもできるし」

「今はリモートの仕事もあるみたいだからね」

「ええ。それも社会復帰の段階としては有効ね」

「スーパーでおばさんが話してたねー。ラフィオ、卵ふたつ入れていい?」

「いいよ」

「やったー」

「ただ引きこもりするだけじゃなくて、お金を稼ぐ手段はいくらでもあるのよ。なのに単なる引きこもりを続けてたのは本人が悪い……あの男は、ずっと他責思考をわめいていたけど」


 ああ。社会経験が極端に乏しく、しかし年だけ重ねてプライドと体格だけは大きくなった男が、ネット上で身につけた薄い知識で自分を正当化して偉そうなことを言い続けていたのか。

 その相手をして、話を聞き続けた樋口が疲れるのも無理はない。


「そんな世間知らずの癖に口だけはでかくて。けど男の警官を前にすると萎縮して何も話せなくなるの」


 その光景は病院の警備員を前にした時に見た。


「女を下に見ている風ではあるから、わたしを前にすると話はできたわ」

「言いたいことを一方的に言うだけでしょ? それって会話になってるのかしら」

「なってないわよ。愛奈もそういう人間と話したことあるの?」

「あんまり。わたしが会話する相手って、基本的に社会人をやれてる人ばかりだから。あ、住居と一体型になってる小さい町工場でたまに、社長の息子さんとかお孫さんと遭遇する時はあるわね。小学校の低学年くらいの子だと、言いたいこと一方的に言うことがあって、かわいいなーって思うことはあるわねー」


 低学年の子と一緒にするな。向こうは四十八のおっさんだぞ。


「それくらいの年齢の子供なら、かわいらしいけどね。あの男がそんなことしてみなさい」

「地獄ねー」

「ええ。しかもあの男、女に対して喋り慣れてないくせに、女好きではあるのよね。付き合いたい願望というか」

「あー。最悪。女の子に勝手な幻想を持ってるとか?」

「そんな感じ。あと、女体に興味津々。取り調べ中も……はあ……」


 ため息をつきながら、片手で自分の胸を隠すような仕草をする。樋口は美人だし、スーツを着ててもしっかりとわかる膨らみは、三十年間も引きこもってた男にはさぞ刺激的に思えるだろう。


「お姉さんなら、そこまで見られることなかったでしょうね。胸がないから。代わりに取り調べすれば良かったのに」

「遥ちゃん? 何言ってるのかしら?」

「なんでもないです。ほらアユムちゃん、お酒ついであげて」

「おう。どんどん飲め。樋口も」


 俺に酌をさせないようにと、アユムは愛奈と樋口のコップを常に見ているし、遥は鍋から煮えた肉や野菜を取り分けている。


「樋口さん。今日はいっぱい飲んでくださいね。ほら、お野菜も食べなきゃいけないですよ」

「ええ。ありがとう。わたしを酔い潰すのが魂胆だとしても、嬉しいわ」

「バレてましたかー」


 悪びれる様子もない。


 いつになく疲れていて、その癒やしを双里家に求めてきた樋口。俺を誘惑しようだなんて言ってるのがどこまで本気かわからないけど、不穏な動きをする前に潰すのに限る。


「ほら悠馬も。お肉食べてね」

「ありがとう」


 遥はついでに俺の椀にも鍋の中身を取り分けてくれた。肉多めだった。嬉しいけど。


「流れるような良妻アピール。やるわね」

「良妻だなんて樋口さん。本当のこと言っても嬉しくないですよー」


 嬉しそうだなあ。

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