13-19.アジフライに何かける?
「じゃあ、俺たちも帰るか」
「うん。覆面さんわたしが背負ってあげます」
「いやオレが」
「ラフィオ頼む」
「えー!?」
「なんでだよ!」
不服そうなライナーとバーサーカーを無視して、ラフィオの上にハンターの後ろとして乗り込む。ハンターはといえば貰った箱を大事に抱えていた。
足だけでラフィオに掴まること自体はハンターにとって難しくなさそうだけど。貰った玩具に意識を取られすぎてて他のことに目が向いてなさそうだし。
万が一落ちかけたら支えてあげなきゃだからな。
そして、こちらの目的地を群衆に悟られないよう、家の方向とは少しズレた方へ去っていきつつ、途中で軌道修正してマンションに帰った。
「よし。じゃあ夕飯を買わなきゃね! アジフライ!」
遥が、さっきも言ってたことを繰り返すように宣言した。いいんだけどな。フィアイーターを見て夕食を決めるというのも変な感覚だ。
家の近くのスーパーにもアジは売っていて。それを複数匹購入してから遥は手早く調理を進める。ラフィオも副菜作りを手伝っていた。
「ねえラフィオ。アジフライにはなにをかける?」
つむぎが卵を茹でながら尋ねる。
「アジフライ? 醤油かな。それかソースくらいしか試したことはないけど」
「なるほどなるほど。魚だもんねー」
「ラフィオも醤油派なのか。オレもだぜ。さっぱりしてて好きだ」
「わたしはソース派だなー。フライだったら、そっちの方が合う気がして。悠馬は?」
「俺もソースかな」
「わーい。悠馬と同じ」
「お、オレも今日はソースで食うからな!」
「そこを張り合おうとするな」
「なんかほら! 醤油よりもソースの方が都会っぽい!」
「そんなことはない」
「つむぎちゃんはどっち派? ていうか、何作ってるの?」
「タルタルソースです!」
茹でた卵の殻を剥きながら、つむぎはふたつの質問に同時に答えた。
なるほど。タルタルソースうまいもんな。自作までしようとは思わないけど。
つむぎは料理できる方とはいえ、そこまで出来るレベルではないと思う。
が、つむぎは迷うことなく、茹で卵を粗めに潰してから、冷蔵庫にあった玉ねぎと柴漬けをみじん切りにしたやつを入れ、マヨネーズとその他調味料を加えて混ぜ始めた。手際がいい。
「お母さんが帰ってきた時、よく作るんです!」
「そっかー。そんなに好きなんだね、タルタルソース」
「はい! 卵が入ってるので!」
「なるほどね」
いいお母さんだと思う。
「ラフィオも、わたしのタルタルソース試してみて」
「ああ。わかった」
「醤油はプリンにかけて食べよ!」
「それは邪道だ。ウニを食べたいわけじゃないんだ」
プリンに醤油でウニっぽい味がするって、誰が言い出したことなんだろうな。
残念ながら醤油の出番はなくなってしまったけど、みんなそれぞれ好みの調味料でアジフライを食べる夕食を取る。愛奈もすぐに帰ってきた。
樋口は、今夜は訪問することはなかった。今頃あの男の取り調べ中なんだろうな。
あの男について詳しく知りたいとは思わない。とにかく、これに懲りてこれ以上魔法少女に関わらないことを約束してくれればそれでいい。
樋口には苦労をかけるけど、そうするよう言ってくれることを願った。
翌日の放課後、樋口が来た。随分疲れた顔をしていた。夕飯の支度をしていた遥たちを見て。
「わたしにも夕飯、作ってもらえるかしら」
静かにお願いするように言った。
「いいですよ。今日はすき焼きで人数の融通は聞きますし」
「すき焼きね。いいわね」
「僕、追加の食材を買ってくるよ。肉は多めに用意した方が良さそうだね」
「あー。ラフィオあなた、本当に人間が良くできてるわ。異世界から来たのに、人間より人間らしくて大好き」
「何を言ってるんだ」
「樋口さんラフィオのこと誘惑しちゃ駄目です!」
「ふふっ。そんなことしないわよ」
「ほら樋口。飲むんだろ?」
「はー。悠馬も。あなた本当にいい子よねー。既に知ってたけど。もう少し大人なら、結婚を申し込むところよ」
「樋口さん何言ってるんですか!?」
「ほら樋口。酌ならオレがやるから! 悠馬はそこに座ってろ!」
キッチンからコップを持ってきてビールを注ごうとしたところ、アユムが俺を押しのけて缶を奪い取った。
今日の樋口がなんで、こんなに年下すぎる男に目を向けるのかは、なんとなく理解できた。
あの男の相手をしてうんざりしてるんだな。
「年上の。おっさんの取り調べとかもう嫌! 年下のかわいい男の子と遊びたい!」
公務員としてはギリギリアウトな発言だ。
樋口は年齢不詳ながら、あの男よりは年下だろう。そして年上の気持ち悪い男と一日向かい合えば、嫌な思いもするだろう。
「ただいまー。ラフィオから聞いたわよ。樋口さんいらっしゃいな」
少しすると愛奈が、買い出しに出ていたラフィオと同じタイミングで帰ってきた。
「お邪魔してるわよ愛奈。ちょっとまた、悠馬をデートに誘ってもいいかしら。今度は食事だけじゃなくて、お出かけしたいわ」
「やめてください! てか、公務員のいい給料で悠馬に贅沢させないで!」
「あら。保護者に怒られちゃった。アユム、もう一杯注いでくれないかしら」
「こいつマジか。いいけど。……それで、話したいことがあるんだろ?」
「ええ。あの男について」
樋口は注いでもらったばかりのビールを一気飲みすると、笑みを浮かべながらみんなを見回した。酒のおかげで機嫌は少し良くなったらしい。




