13-12.ミラクルフォースの次回作
「これ、どう考えても遥かアユムに言われて送ったものよね。悠馬に、そんな気遣いができる心なんかないわよね。……ふふっ」
メッセージを受け取った樋口は、少しの間画面に目を奪われていた。すぐさまいけないと思い直し、監視を続ける。怪しい男の姿はなかった。
「ま、言われて送ったものでも、わたしへの感謝は本物よね」
少し口元が緩むのを自覚しながら、もう少し高校周辺の見回りに力を入れるかなと考える樋口だった。
――――
今日も学校は平穏に終わり、さすがに俺たちは寄り道する気にもならないため、剛と合流して四人で高校を出た。
不審者はいなかった。
「樋口さんに逮捕されたってわけではないよね」
「逮捕したら、すぐ報告するだろうからな」
「いらない心配だったのかなー。それか、病院で警備員さんに怒られて諦めたとか!」
「だったらいいけどな」
いずれにせよ、謎の男の身元は公安によって数日のうちに明らかにされるだろう。そうなれば問題は解決だ。
なのに。
「えー。こんな時にー?」
バスの中で、みんなのスマホが一斉に警報を鳴らした。
「もうすぐマンションの近くのバス停だ。一旦家に荷物や車椅子を置いてから行くぞ」
幸い、フィアイーターが現れた場所はこの近くだ。駅前のショッピングセンター。何度か怪物の被害に遭っていて、俺たちが戦ってる場所だ。
駆けつけるまで時間はかからないだろう。
――――
つむぎの通う小学校では、スマホを持っている生徒は朝の時間帯に先生に預けることになっている。授業中にスマホを隠れて弄ることへの対策だ。
中高生なら自制もできるだろうし、それで学問へ触れる機会が失われても本人の責任と言えるけど、小学生ならそうもいかない。
合理的な考え方だ。
そのために、ラフィオは日中退屈だった。
悠馬に同行したなら、授業中は彼の鞄の中でスマホを触っていれば時間は経つ。けど小学校ではそれはできない。
仕方がないから、先生の授業を聞く。これが小学生のあるべき過ごし方なのはわかってるけど、ラフィオは残念ながら小学生ではなかった。
それに、授業というのは一年間通して全体の流れというものがあるわけで。単発で受けてもそんなに意味はないと思う。前後関係がわからなかったりするし。
でもまあ、それでも聞けば面白かった。最近はつむぎについていく日が多いし、連続して授業を聞くことも増えてきたし。
退屈なのは退屈だけどね。
「不審者、いないねー」
「そりゃな。僕たちがこの小学校にいること、相手は知らないわけだから」
給食の後の休み時間。一旦返してもらったスマホで樋口とメッセージをやり取りしながら、つむぎとラフィオはのんびりと会話する。
机の横に吊るされている手提げかばんに隠れているラフィオを、つむぎが人目を気にしつつ素早くお腹と服の間に隠して、校舎の人の少ないところに連れて行く。そしてラフィオは小さい体のままお喋りするのが、日課となりかけていた。
恋人の服の中に隠れるなんて、なんか背徳的な感じがするとはラフィオも思っていた。けどまあ、つむぎだからな。色っぽいことにはならないよな。
この小学校の周りに不審者は出てないし、最も警戒しなきゃいけない悠馬の高校にもいないそうだ。
良かったのだけど。
「ラフィオに守ってほしかったなー」
「そんなことを言うなよ。問題は起きないことが理想だ。警戒はするけどね」
例の男だけではない。世の中には不審者と呼ばれる人は大勢いるし、どこに出てくるかわかったものではない。
野生の不審者が出ても、ラフィオは恋人を守るつもりでいた。
「えへへー。ラフィオ格好いいね。ねえ、放課後だけど、駅前のショッピングモールに行きたいな」
「どうして急に」
こんな状況だ。できれば早めに帰って晩ごはんの準備でもするべきだ。
不審者が、ラフィオとつむぎに関する情報を持っているわけではないから、確かに過度な警戒をするわけにもいかないけど。
「次のミラクルフォースのおもちゃ、もう発売されてるんだって。へびたんマスコットほしい」
「そ、そうか……」
スマホの画面を見せられる。
ミラクルフォースはだいたい、二月くらいに現行シリーズが終わって次回作に引き継がれる。番組改編期とずらしているのは、視聴者である子供たちが進級をきっかけにお姉さんになったから卒業する、という事態を阻止するためらしい。
今のミラクルフォースシリーズも佳境を迎えていた。敵の大ボスが完全復活して、一方で敵幹部である少女もミラクルフォースに変身して、一度死んだかと思われていたけど奇跡の力で復活して完全に味方になっている。
敵味方の全面対決が行われていた。それから、次回作の販促も同時に行われている。
次回作は、ミラクルフォースアームズ。武器をモチーフにした作品らしい。主人公はミラクルクラブ。殴打武器をモチーフにして、棍棒で敵をガンガン殴るタイプのミラクルフォースだ。
その他、刀剣をモチーフにしたミラクルエッジや、刺突武器をモチーフにしたミラクルスティングがいる。
物騒すぎて小さな子供たちがついていけるか不安になるね。




